第2回 秋元 勇巳(あきもと ゆうみ)さん(三菱マテリアル取締役社長)
<プロフィール>
1929年(昭和4年)東京生まれ。51年東京文理大学(現筑波大学)化学科卒業。54年三菱金属鉱業(現三菱マテリアル)入社。鉱山で鉛製錬法の開発を手がける。57年理学博士。同年、研究所へ。アメリカ留学を含む二十余年にわたる研究者生活では原子力畑を中心に、シリコン、電子材料等の研究開発に携わる。94年社長就任。著書に地球環境と産業の関わりを論じた「しなやかな世紀」がある。通産省産業構造審議会地球環境部会委員等を務める。

三菱マテリアル株式会社
 非鉄金属精錬やセメント、金属加工、アルミ缶製造、半導体関連を手がける複合素材メーカー。今年4月に「アルミ缶完全回収宣言」を発表。98年までに同社が製造・販売するアルミ缶と同量の使用済みアルミ缶を回収し、全量をアルミ缶に再生するためにグループを挙げて回収・処理などのリサイクル体制づくりに取り組んでいる。同社は年間33億缶(95年度)のアルミ缶を生産し、その6割をすでに再生している。


「アルミ缶100%回収」企業の使命だと思っているんです。

幸田 三菱マテリアルが製造・販売したアルミ缶と同量の空き缶を回収し、そこから新しい缶をつくるという「アルミ缶完全回収宣言」をなさいましたが、この決断に至った背景をお聞かせいただけますか。
秋元 人間は自然の恵みをもらって、これをまた自然にかえしているわけですが、そのスピードがちょうど自然循環とあいまっていれば人間も自然もうまい具合にいく。日本では有史以来この二つの関係がうまく保たれてきたため、最近までリサイクルを意識的にやろうという考えは薄かったと思うんです。
 ただ、例外もあって、金属は人間が回さないと自然循環の輪に入らない。貴重な金や銅は昔から、使い終わったら必ず鋳造して再利用する。これは人間が金属を利用する上での鉄則です。ですから金属を扱う会社としてはアルミ缶を売る以上、その回収はやるのが当然という意識があった。
 リサイクルはわれわれの会社の基本的な文化だったのです。ただ、金、銀、銅などは、リサイクルのコマーシャルルートがすでにできているのに対し、末端までいってしまうアルミ缶はそのままではかえってこない。このリサイクルルートを手づくりで仕上げるのにとてつもない労力と手間がかかりました。
 結局、学校、教会といったボランティアに集めていただいて、活動資金として1個につき1〜2円をお支払いするということを丹念に積み重ねて、今では結局2000カ所暗いの拠点ができました。こういう経験が100%回収のベースにあります。
幸田 会社の文化が背景にあったのですね。一方で、アルミ缶業界全体として、年間10万tの空き缶がゴミとして捨てられているという現実が有りますね。こうした使い捨て文化への反省という面もあったのでしょうか?
秋元 それはありますね。今のライフスタイルをつづけていったら、遠からず人間社会は破産してしまいます。大量生産して使い捨てという一方向直線型ではなく、これからは輪でつないで双方向の循環型社会にパラダイムシフトしていかなければならないと思います。
幸田 三菱マテリアルとしてリーダーシップを発揮していくお考えですか、他の会社もリサイクルの率を高めていくように。
秋元 期待しております。一緒にやっていけば効果を高めることも容易になります。
 われわれが最初にリーダーシップをとらなければいけないのは、資源会社として天然の資源を文明社会につなぐ、自然と文明の接点のところで仕事をしてきたからなのです。これからは利用する資源を極力天然資源から都市資源に変えていくんだという考え方で大量の物資を扱う資源会社が行動を起こせば、リサイクル社会の実現に大きく貢献することができると思うんです。
幸田 アルミ缶は何回も再生できるメリットがありますよね。
秋元 そう。リサイクルと言ってもいろいろなリサイクルがあって、時間やお金、エネルギーをたくさん使うリサイクルもある。アルミを天然からつくるときの電気料に比べるとアルミ缶のリサイクルの場合は3%しかいらない。
幸田 資源としても高く売れるんですか。
秋元 はい。しかし、回収費用を入れますと、今の60%の回収率では天然のアルミを買ってきた方がまだ安い。でも100%リサイクルすれば、収集費用、輸送費用をお支払いしてもペイするんです。
幸田 今、環境か経済かという考え方が以前として経営者のマインドにあるようですが、今回の100%回収ということを通して三菱マテリアルとしては環境はビジネスチャンスになるというとらえ方をしているんでしょうか。
秋元 環境産業というと今までの生産産業にアディッショナルにくっつく産業であるというイメージがある。例えば、今までのプラントに公害防止設備を新しくつけ加えれば、その分お金もエネルギーもかかるという考え方です。
 しかしこのような付け足し思考では、本当の環境産業は生まれてこない。生産、消費、回収再生を含めた全体の輪を環境的に最適化することが本当の意味での環境産業活動です。アルミ缶の場合も新しいシステムをつくれば、ポイ捨てをするシステムよりもっと効率的に、しかも経済的にできる。
幸田 三菱マテリアルは、この20年間のリサイクルで節約できた資源を資金に換算して約250億円を、ボランティアグループを通じて社会に還元していらっしゃいますね。これは環境に配慮すると経済的なメリットも生まれるということなのでしょうか。
秋元 生産活動にかかわってくる消費者に当然生産者としてのフィーをお支払いする。リサイクルをうまく社会に組み入れていけば経済的にペイすると、私はかたく信じているんです
幸田 リサイクルシステムを確立するには最初にコストがかかるかもしれませんが、私たち消費者が応援し、協力できるシステムをつくることができれば、企業にとってもビジネスとして成立しうるということでしょうか。
秋元 これからどういうものをつくって社会に使っていただくにしても、消費者も産業側も製品の一生、もう一度回ってかえってくるまでをよくみて、環境を含めてインパクトを少なくする、そういう使い方ができる材料をつくる、またはそういう使い方をすることがますます必要になってくるのではないでしょうか。
幸田 これからの大きなステップは、どうやって業界全体として100%体制にもっていくかということだと思うのですが、今ネックになっているのはどういうところですか。
秋元 自治体が回収するゴミの中には簡単にはリサイクルできないものがいろいろ混ざってくるんです。全部が混ざったところからまた分けるのは大変なんです。ですから、飲まれたらゴミになる前にリサイクルに乗るようなシステムにしなくてはいけない。
 ところが、地方自治体も行政も今は、縦割りでなかなかそれがつながらないんです。ネットワーク、流れをせき止めするような規制や仕組みは早くなくして、柔軟に対応できるようにしていただきたい。
幸田 実は私、市民の環境への取り組みの一つとして、「一丁目運動」のようなことができないものかと考えているんです。自分たちが住んでいる通りや3丁目などで、例えばアルミ缶を月に何回かここに出しましょうと決めるる。そこに例えば三菱マテリアルが回収にきてくれる。市民が参加できるシステムが必要ですね。
秋元 100%運動と言ったからには、ただ精神だけでは困るんで、缶を集めやすくするような設備を何百カ所かつくろうと言っているんです。もちろん単なる設備づくりではなく、社会ぐるみで参加してもらえるシステムづくりが一番大事だと思います。しかもこのような社会的責任を果たすということが、工夫次第で経済的にペイしないことにはならないということです。
幸田 三菱マテリアルとして地球の将来、そしてこれからの企業の使命、あり方をどう考えていらっしゃいます?
秋元 これからの社会は双方向型、ネットワーク型の社会だと思って居るんです。今まではわれわれが生産者で消費者はゴミをつくるという存在だったのが、アルミ缶を集めてくださる方々は実は資源を集めてくださる生産者になる。これも双方向のネットワークです。こういう新しいシステム、価値観でつくられた社会が動き出すことで初めて21世紀の世界がうまく動くという感じがしています。生命原理にあった産業システムをつくって、その上で文明を立ち上げていかないと、省エネ、省資源だけでは社会がシュリンクしてしまう。
 必要な資源やエネルギーは社会に供給しながら環境への負荷が増えないようにするためには、結局、リサイクルしかない。この理念であらゆる産業活動を考え直し、必要なシステムを積み上げていくことが、ものを実際につくっている企業の使命だと思っているんです。
幸田 ご成功をお祈りしています。どうもありがとうございました。


インタビューを終えて
 三菱マテリアルの「アルミ缶100%回収宣言」の取材を通して、私たちの社会を循環型社会に変えていくための新たなシステムづくりの試みが業界大手のイニシアティブによってスタートしたことに、明るい希望を感じました。
 しかし、秋元社長がおっしゃられたように、金属は人間が回してやらないとリサイクルの輪に入らない。その輪を完結させるのには、企業だけでなくさまざまな立場の人びとの協力が必要でしょう。環境問題は、システムの中核でパートナーシップが機能することが、解決への重要なカギなのだと思います。
 私たちの生活を「循環型社会」に近づけていくには、一人ひとりが身の回りから考えて、できることから行動していくことが大事なステップ。空き缶を単なるゴミとして捨てるかリサイクルのルートに乗せるか?企業とともに私たち市民も挑戦を受けているのだと、強く感じました。(幸田 シャーミン)



| ホーム |ブックギャラリー | エコ・インタビュー |

2021 All Right Reserved.
(C) Charmine Koda