第10回 青木 正久(あおきまさひさ)さん 地球環境行動会議(GEA)事務総局長
<プロフィール>
aoki10 1923年(大正12年)1月埼玉県に生まれる。47年(昭和22年)東京大学法学部卒業と同時に、東京新聞政治部入社。ロンドン支局長、ニューヨーク支局長、政治部長、編集局長、論説委員を歴任する。67年、衆議院議員に初当選。88年に環境庁長官に就任、ブラジル、リオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議に出席した。92年から「地球環境行動会議(Global Environmental Action)」の事務総局長に就任、現在に至る。


率直に言って、地球環境問題には各国とも不熱心だと思います
世界から資金集めを期待される日本

幸田 地球環境行動会議(GEA)はどういう組織で、何を目的に、財界・政界のトップの方々がお集まりになったのでしょうか?
青木 リオサミット(国連環境開発会議=UNCED)の開催を控えた1991年、UNCED事務局長だったモーリス・ストロング氏の要請で、地球環境問題の解決に必要な資金調達を検討するため組織されたものです。竹下元首相、海部元首相、平岩外四経団連会長(当時)が発起人となって政界、経済界、学会等の有力者が集まり、つくられたNGOです。
 92年3月に、UNCED事務局と共催で「地球環境賢人会議」を、94年に「地球環境東京会議」を開きました。さらに今年6月に開かれる予定の国連環境特別総会を支援するために今月、東京で「地球環境パートナーシップ世界会議」を開催します。資金調達について国際的レベルで対話する場を継続的につくってきています。
 地球環境問題の解決にどれくらい資金がかかるかはいろいろな説がありますが、リオサミットのころは1年で1,250億ドルと言われた。このばく大な資金をどこから出せばいいのか。例えば世界銀行がいいのか、今は思い切ったことをやろうと、航空運賃の一部を充てるとか、1円上げると先進国だけで2,000億円分ぐらいあるという切手、またはタバコの売上金の一部を資金として集めるというアイデアもあります。
 冷戦が終了した今、1兆ドルと言われている世界の軍事費の1%を、途上国も先進国も一律に拠出し環境のための資金としてプールすることができれば、巨額のお金が集まります。この音頭をとるのは国連です。
幸田 青木さんはリオサミットに環境庁長官として参加されましたが、あれから5年間に世界そして日本はどれだけ前進したでしょうか?
青木 先進国は個々の国ではさまざまやっていますが、手を結んで地球環境を守ろうという姿勢は見えない。例えば、ODA(政府開発援助)をGNPの0.7%出しましょうと決めたものの、まったく達成できていない。むしろ、途上国の方が前向きに取り組んでいる。インドネシアが人口抑制に成功するなど成果を挙げています。率直に言って、地球環境問題には各国とも不熱心だと思います。


政治家の役割

幸田 環境庁長官時代に出版された『魔女のガウン〜地球環境物語』の最後に書かれている「地球環境10の結論」の中で、国内体制の整備と官僚の縄張り争いの解消が挙げられています。
青木 気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)に向けた議定書案についても環境庁と通産省の意見は分かれています。環境庁は環境を守るという使命をもち、通産省は産業を興すという目的があるわけですから、当然と言えば当然です。橋本総理は行政改革を進める突破口として環境庁を環境省にしようという案を持っていました。
幸田 今回の行革では環境省という案は出ていないですね?どこへいってしまったんでしょう。
青木 環境に対する態度別に国会議員を分けると3種類ある。第1は本当に環境を守ろうという信念を持っている。昔から自然や生物が好きだという人が多い。第2は、環境をブームと捉えてその波に乗り遅れてはいけないと考えている人たち。3番目が一番悪いんですが、環境産業がこれから最も発展していくと言われているので、これにのっていいことをしようという人たち。
幸田 エコビジネスはたしかに伸びていくと思います。しかし一方では、まだ厳しい規制を設けられても困るという意見もあります。
青木 本当に困ったことにならないとダメなのではないでしょうか。このままでいけば50〜60年で人間は地球上に住めなくなるという現状認識がない。急がなくてはならない。
幸田 青木さんのように、50〜60年しかないという危機感がある一方で、どうして先延ばしにしていていいということになるのでしょう?
青木 先延ばしにしようという一番の原因は数字がそろっていないこと。逆のデータさえある。例えば、オゾン層の破壊に関しても決してフロンだけではないという説もある。または、温暖化による海面上昇の数字も人によって違う。とくにアメリカを中心に、データの不完全さを指摘する向きが強い。
幸田 しかし、政治家にとって危機管理というのは最も大事な使命ですね。国民の安全を守るという意味で、これだけの危機が目の前に迫っていながら、データが全部揃うのを待っていたら手遅れになることも、学説的にわかっているのに、それでもなおかつデータを求めて行動を先送りするというのでは、政治家としての責任を全うすることにはならないと思います。
青木 一番の原因は資金が十分にないということ。つまり先進国と途上国の利害がまるっきり違うのに、日本だけ、または先進国だけがやってもどうしようもないから世界全体でやろうということになると、ばく大な資金が必要になる。
 そこで米作民族であり、昔から水や森を大切にしてきた日本民族が環境問題解決への音頭をとるべきです。また、深刻な公害を経験し、技術を発展させた実績もある。地球を汚している国の五指に入るということから罪滅ぼしという意味もある。これから日本が世界に貢献するとすれば、環境であれば大いばりでできる。金も人も出せる。そう考えると日本が先頭にたって、もっとやらなくてはならない。
幸田 ただそうした意気込みは、まだ政治全体から伝わってこないですね。
 ところで、青木さんは一度、環境問題を中心に訴えて当選されましたね。地球環境の現状を国民にきちんと伝えることが、政治家としての役割なのではないでしょうか。
青木 それは環境問題だけではありません。民主主義は完全なる人間を対象にして成り立つわけで、そうでないと衆愚政治になってしまう。決して民主主義が機能しているとは言えない。もちろん環境のことを話せば、有権者は熱心に聞きます。しかし、それよりも家の前の道をなおすことの方が受けが良い。話し続けて一歩一歩進めるしかないんじゃないでしょうか。
幸田 環境問題がなかなか前進しないということは、国民、政治家のどちらにより大きな責任があるとお思いですか。
青木 両方でしょう。その国の政治家にはその国民に似合った人しか生まれません。


政治家よりNGO

幸田 ところで、NPO法案が検討されていますが、NGOが自立しながらパートナーシップを組んでいくためには税制優遇措置を法律に盛り込むことはきわめて重要です。
青木 日本のNGOの特徴は規模が小さい、予算がない、反権力的なことでした。だんだん変わってはきていますが欧米型のNGOに近づくためには、資金的な裏付けが必要です。欧米では企業が資金を出している。健全なNGOを育成することは、個人個人では解決が難しい環境の分野では非常に重要です。
幸田 青木さんは、これからも政治の世界で環境問題を訴えていかれるおつもりですか。
青木 やるのならNGOでしょう。政治家だと言いたいことも言えない。日本の政治は、今は新しい人が国会に出てきて内側ばかりに目が向いている状態。これが6〜7年たてばもっとひどくなる。それにこれまで世界的にみて、10年おきに環境の火が燃えている。レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を出した62年、72年にはローマクラブの『成長の限界』、82年が『持続可能な開発』という概念を提唱したブルントラント委員会の設置があった。そして92年のリオサミット以降、熱が冷め、今はどん底ですが、しばらくしたらまた燃えますよ。
幸田 国境を越えて人びとが環境問題と正面から向き合い、パートナーシップを組んで対応していくことができるためにも、青木さんもメンバーであるGEAの今後の活躍に期待します。(1997年3月5日東京にて収録)


地球環境パートナーシップ世界会議

 97年3月22日から3日間、東京で開催された。アース・カウンシル議長のモーリス・ストロング氏、トム・スペンサーGLOBE(地球環境国際議員連盟)総裁などをはじめとして世銀などの国際機関、企業、NGO、政治家が国内外から約300人が集まった。資金問題を中心に三つの分科会−「技術移転」、「生産・消費のパターンの変革」、「科学技術・情報通信」−で議論が行われ、UNEPを強化させ「地球環境機関(WEO)」に改革すること、地球環境ファシリティ(GEF)を増資すること、COP3においてすべての国が条約の実効のある実施のために具体的な行動をしていくことなどを提言した「東京宣言1997」を採択した。会議の成果は6月に開かれる国連環境特別総会に反映されることになっている。

インタビューを終えて
charmine10
    私たちはおうおうにして、政治家に対して厳しい基準を要求します。優れた行動力、決断力、指導力を持っていることが、当然であるかのように思っていますが、はたしてそれは正しいのでしょうか。
 3月下旬にGEAが国連とともに共催した「地球環境パートナーシップ世界会議」に参加して一番印象に残ったのは、ある専門家の「政治を変えられるのは、市民による圧力以外にない」という言葉でした。
 過大な期待をかけて、問題をすべて解決して欲しいとただ願うだけでは、国民と政治家の関係は成立しない。私たちが望んでいることを、政治家に自信をもって実行してもらうには、彼らを「民意」という後ろ盾で力強く支える必要があります。
 青木さんのお話をうかがって、温暖化など地球環境問題で大きく前進できるかどうかで今、問われているのは、政治家だけでなく、私たち市民の姿勢なのだということを強く感じました。
1997/3/25(幸田 シャーミン)



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