第13回 ロリ A. フォアマン(Lori A. Forman)さん
(ザ ネイチャー コンサーバンシー/TNC:The Nature Conservancy日本プログラム部長)
<プロフィール>
forman13 ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(The Nature Conservancy)日本プログラム部長。米国国際開発庁(USAID)アジア近東局で日本の海外援助プログラムに携わる。その後、同じUSAID国際貿易投資促進局に移り、日米援助プログラムコーディネーターとして活躍。さらに国際開発コンサルタント企業であるPacific Management Resources, Inc.の代表取締役副社長として、フィジー、タイ、バングラデシュ、ネパール、インドネシアなどでのプロジェクトを担当した。1990年から現職。81年ハーバード大学ケネディスクール行政政策の修士号を取得。


ザ ネイチャー コンサーバンシー(The Nature Conservancy)

会員数、資金力において米国最大の自然保護NGO。本部をワシントンD.C.に置き、全米50州に活動拠点を持つ。「科学的事実に基づいた活動」、企業や政府との「非対立的パートナーシップ」という方針のもと、「地球の生物多様性を代表している動植物およびそれによって構成されるエコシステムとその生存に必要な土と水を保護する」活動を展開している。1951年の設立以来これまでに全米で830万エーカー(約3万km2)以上、1,500カ所以上を保護してきた。80年代からは活動の範囲をラテンアメリカや太平洋地域など国外にも広げている。


まず、人づくりに資金を。人間が引き起こした問題を解決するのは人間です。

幸田 まず、ザ ネイチャー コンサーバンシー(The Nature Conservancy:TNC)について話してください。
フォアマン TNCは、アメリカで活動歴が比較的長く、規模も大きな非営利組織(NGO)の一つです。1951年に活動を開始した頃は、生物の多様性保全を目的に土地を買うことが活動の中心でした。1980年、南米やアジア太平洋地域などに活動を広げたとき、焦点を土地を買うことから保護活動に移しました。変わらなかったのは、科学的調査に基づいて活動地域を決定すること、NGO、土地所有者、民間セクター、政府、先住民など地元の地域関係者と協力して活動を進めるという二つのポイントです。
 50年前には自然保護とは、ある地域を柵で囲んで「人は外、自然は内」と隔離することだと考えられていました。もちろん、非常に弱くなってしまった場所はそうするしかありません。けれど、この20年で自然保護関係者は囲い込むことだけでは十分ではなく、もっと広義に生態系を定義し、法律や人びとへの影響といったことも考慮し、理解しなければならないと考えるようになりました。
幸田 現在、83万人の会員がいるそうですね。活動費はどのように賄っているんですか?
フォアマン 年会費が最低25ドルで、TNCに寄せられる寄付の70%は個人からのものです。昨年の活動予算は3億ドル(約330億円)でした。
幸田 TNCには、2,000人以上の専門スタッフがいますね。彼らの仕事内容はどういうものなのですか。
フォアマン 自然保護の仕事には、実にいろいろな専門家が必要です。TNCには、弁護士、会計士、生物学者、植物学者、陸水学者、火災の専門家など、いろんな分野の専門家がいます。アメリカのすべての州に一つ以上のオフィスがあるので、全部で約80くらいになります。
幸田 TNCの仕事は、彼ら専門家にとって、大学や企業と比べて給料などの労働条件は十分魅力があるのでしょうか。
フォアマン いい質問ですね。TNCと大学の違いは、給料の問題より実際的な仕事と理論的、学問的な仕事の違いかと思います。かなりの人たちが、この二つの世界を行き来しているようです。


非対決的アプローチの成果

幸田 TNCの基本姿勢は非対決的アプローチだそうですが、具体例を紹介してください。
フォアマン ノース・カロライナの電力会社が風光明媚な地域に送電線を設置しようとしたときに、地元からさまざまな批判がありました。そこでTNCは科学的調査を行い、自然環境を守りながら電力会社も送電線を引けるような代替案を提案しました。
幸田 説得にはどのような方法が取られたのですか。
フォアマン 説得のスタートは、科学的な調査結果です。とくにアメリカで効果を発揮しているデータベースが、生物保全データシステム(Biological & Conservation Data System)です。衛星写真より詳細にデリケートな生態系を点で表した地図です。
 この地図を事業者に見せ、開発予定地に点があることを示すと、たいていはみんな驚いて、何か対策を取ろうとします。もし、環境配慮を怠れば、法的にも地元コミュニティとの関係でも、自分たちが不利になることを彼らはよく知っているからです。ですから、開発自体を取りやめた方がよいと、TNCが提案することもよくあります。純粋に熱心に環境保護を説くのも素晴らしいことですが、科学的データを使うほうが、感情的に訴えるより、保全の重要さを訴える説得力があります。
幸田 それはTNC独自のデータなんですか。
フォアマン これは、TNCが20年以上も前に活動の優先順位を決める基準にするために開発したものです。現在、TNCのデータべースは州政府の自然保護関係のセクションに移され、州がデータ管理や更新を行っています。このデータベースを利用した自然保護データセンター( Conservation Data Center)がアメリカのすべての州と国外の活動サイトで機能しています。今では、政府や民間企業などTNC以外の人たちが、土地利用について意思決定するときにも利用され、重宝されています。年間に外部から25万件くらいのデータに関する問い合わせがあります。
幸田 年に4、5回は来日なさってますよね。来日の主な目的は何ですか。
フォアマン 私が担当している「日本プログラム」では主に企業と政府、また、NGOやメディアともかかわっています。最近は外務省や他の省庁と、日本が他国といっしょに開発途上国で実施できる国際プロジェクトについて話を進めています。
幸田 日本のNGOをサポートしていきたいという考えはあるのですか。
フォアマン TNCは南米でまったく新しいResources for Successというトレーニングプログラムを始めました。NGOの力をつけるためのプログラムです。ここで最も強調しているのは、しっかりした運営組織、多様な資金源、明確で単一の目標です。
 日本でNGOの人と会い「どんな活動をしていますか」と聞くと、「持続可能な開発の促進です」というような答えが返ってくることがあります。それで「毎日、オフィスで何をしていますか」と聞くと、「何をすればよいと思いますか」なんて返事がきます。
幸田 日本のNGOは資金が増えれば問題はすべて解決というわけでもないということでしょうか。
フォアマン 日本のNGOの人と話しをしていたとき、とくに人件費が問題だという話が出てきました。NGOが取り組んでいる問題は人間が引き起こしたもので、それを解決するのも人間です。ですから当然、一番お金がかかる部分も人なのです。


京都会議に向け、大きいNGOの役割

幸田 ところで、12月に京都で気候変動枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)が開かれますが、今からそれまでの間に日本のNGOにはどのようなことができると思いますか。
フォアマン あんまり時間がありませんね。気候変動とか地球温暖化という、とても複雑な概念を普通の人にわかりやすく説明し、個人としてどんなことをすればよいのか広めるのが大切だと思います。この機会をとらえて、NGOが協力しあい、盛り上げるべきでしょう。インターネット、学校教育、一般向けのセミナーなど方法はいろいろあると思いますが、この大きなテーマを現実の世界の問題として認識できるように情報を普及させることがとても大切です。
幸田 この会議は非常に難しい交渉となると見られていますが、私たち市民や企業などにとっても新しい指針となるような合意がなされると思いますか。
フォアマン もしかしたら、私はリアリストすぎるかもしれません。各国政府が協議し、合意したことがぼう大な数の個人、一人ひとりの指標になり得るなんて、私には考えられません。条約や国が目標を持つことは大切ですが、実施するのは個人です。ですから、議定書が採択されようがされまいが、学校や家庭での環境教育と個人個人の意識がキーポイントになると思います。
幸田 TNCは京都会議に向けて何か特別な行動を起こす予定はあるんですか。
フォアマン 私たちはCOP1、COP2のときにも、TNCがかかわっている共同実施プロジェクトの事例紹介をしました。アメリカ国内でプロジェクトの登録をし、資金集めを行い、パラグアイなどで実施しています。かかわっているのは、主に電力会社です。京都会議でもワークショップを開いて企業やNGOにインスピレーションを与えることができればと思っています。
 アメリカでは企業の多くが、すでに共同実施に真剣に取り組んでいるのは、現在は何の規制もなくても将来必ず法的に強制されるだろうという見方が企業にあるからです。でも、日本ではそいう考え方はないような印象を受けます。「強制もないのに、なぜアメリカの企業は積極的に取り組むのか」という質問をしょっちゅう受けますから。アメリカの態度は「まだ、強制じゃない。でも...」と危機感を持っています。この違いは興味深いと思います。

インタビューを終えて
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 ロリ・フォアマンと初めて会ったのは、ハワイ大の東西センターで行われた日米環境ジャーナリストのワークショップでした。中心のテーマは「ハワイの生物多様性」。主催者の一つがTNCだったのです。私たちをフィールドに案内してくれたTNCのスタッフは、博士号を持つ生物学者でした。自然のなかで鳥や植物を見ながら、その研究をライフワークにしている専門家に解説してもらえるのは幸運なことです。事実、一生の思い出になるようないい学習の機会となりました。このワークショップを通して、アメリカのNGOではボランティアだけでなく、さまざまな専門家が重要な役割を果たしていることを実感しました。生物多様性の保護のための用地買収一つを例にとっても、弁護士や科学的分析を行う学者、広報、経理、その他大勢の専門家たちが参加し、市民や企業、政府と連携しているのです。そしてNGO活動の成功には、こうした明確な目的意識を共有する多彩な人びとを結びつけるパートナーシップの構築が不可欠なのでしょう。日本プログラム部長であるロリの言葉から伝わってくる情熱は、そういう使命感に裏打ちされているのだと思いました。(幸田 シャーミン)



注-1 生物保全データシステム(BCD:Biological & Conservation Data System)
生態系と生物種、生息地、土地所有権、保全状況、管理の必要性など、自然保護や天然資源管理に欠かせない情報を手に入れることができるデータベース。1974年にTNCが開発した。カナダ、アメリカ、ラテンアメリカに100以上ある自然保全データセンター(Conservation Data Center)やTNCの州事務所などがそれぞれの保護地区について独自に収集した情報を加えている。



注-2 共同実施(Joint Implementation)
A国とB国で温室効果ガスの発生を削減する費用を比較したとき、B国の方がより少ない費用で削減できる場合、A国はB国において温室効果ガス抑制対策(再生可能エネルギープロジェクト、植林プロジェクト、燃料交換など)に投資することによって削減分を「買う」ことができる。技術、資金、ノウハウをより効果的に活用し、世界の温室効果ガスを削減しようという考え方。気候変動枠組条約交渉の段階で、米国と北欧諸国から提案された。1996年3月に開かれたCOP1で各国間での削減量のやりとりのない共同実施活動(Activities Implemented Jointly)については、現在アメリカ、ドイツ、オランダ、ノルウェー、日本などが積極的に取り組んでいる。



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