第14回 リチャード キンリー(Richard Kinley)さん(国連気候変動枠組条約事務局実施計画プログラムマネージャー)
<プロフィール>
 国連気候変動枠組条約(UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)事務局コーディネーターとして、京都会議での合意に向けて回が重ねられているAGBM特別会合への支援をしている。カナダ政府代表として気候変動条約交渉に参加、1993年から現職。マニトバ大学とカールトン大学を卒業し、カナダ政府の環境および国際政策の分野で活躍してきた。


山積みの問題と格闘する京都会議は過小評価されるべきではありません

幸田 いよいよこの12月に京都で第3回気候変動枠組み条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議)が開かれますが、宿題であるナショナルレポートの提出の状況はどうなっていますか。
キンリー レポートという言葉を嫌う国があって、私たちは、ナショナル・コミュニケーションズと呼んでいます。第一次報告は、94年頃からごく最近まで提出されています。締約国になった時期によります。現在はその第二ラウンドで、締切は4月15日でした。付属書・にリストアップされている36カ国が提出することになっていますが、市場経済移行過程の11カ国には約1年間の時間的猶予が与えられているので、厳密にはOECDの25カ国にとっての提出期限だったわけです。京都会議までに各国の報告を分析し、2010年なり将来の排出量を予測する作業を行います。秋頃に、データがまとまるでしょう。
 多くの国にとって、現在取り決められている、西暦2000年までに1990年の排出レベルに引き下げるという目標を達成するのは難しいようです。アメリカは、新しい対策を取らなかった場合、今後10年で二十数%増加するという予測を出しています。先進国の排出量はだいたいにおいて増加傾向に有ります。しかし、英国、ドイツ、オランダ、デンマークなどのように軌道に乗っている国もあります。各国政府はこの問題と苦闘しています。これは経済構造、経済発展にかかわる根本的な問題です。持続的開発の問題なのです。
幸田 事務局は、ホスト国である日本がナショナルコミュニケーションを出せていないことを、どんな風に見ているのでしょうか。
キンリー 日本は、第一次報告書については期限内に提出しました。期限内に提出しなかった国もあります。しかし、大きな議論にはなりませんでした。大切なのは真剣に努力しているというサインがあり、仕事が前進していて、最終的には条約を履行する上で重要な貢献をするかどうかです。


京都会議の焦点

幸田 京都会議で最も難しい課題・挑戦は何だとお考えですか。
キンリー まず、付属書・の国々が果たす義務の性質です。法的拘束力のある義務とすることで合意ができないかと考えられています。法的拘束力を持たせることにより、条約への関心や重要性が大きくなるでしょう。
 小さな課題の一つで比較的簡単に解決すると思われるのは、削減目標にどのガスを含めるかです。二酸化炭素(CO2)だけにするのか、温室効果ガスをひとまとめにするのか、それともガスごとに決めるのか。最終的には「バスケットアプローチ」で合意されるでしょう。
幸田 「バスケットアプローチ」とは 
キンリー CO2、メタン、窒素化合物などの温室効果ガスをひとまとめにして削減目標を設定し、各国が削減に取り組む方法です。
 ターゲットの年を決めるのも、大きな問題になるでしょう。何年までに目標を達成するかです。ベルリンマンデートでは、2005、2010、2020の三つの年が言及されています。今のところ、15カ国を抱えるEU(欧州連合)が支持する2010年が一番有力ですが、アメリカからの最終提案はまだですので、動きが注目されています。
 もう一つ、大きな問題は、付属書・の国々の間での差別化の問題です。何年までに何%を削減するというような同一目標を設定するのか、あるいは国ごとで別々に目標を設け、対策を決めるのか。この議論は、非常に重要なものになるでしょう。何らかの差別化、つまり個別目標的要素がなければ、同意することが不可能だと言っているオーストラリアのような国もあります。石炭輸出などエネルギー集約産業の問題が背景にあります。しかし、これをフェアな形で実施する方法があるのかどうか、最終的には政治的交渉に持ち込まれることになるでしょう。
 ちょうどブラジルから新しい提案を受け取ったところです。付属書・の国々の過去の排出量と現在の排出レベルを計算して、全体の排出割当量を決めるというものです。非常に興味深い考えですが、複雑で提出時期が遅かった。このような交渉ではタイミングが肝心ですからね。この夏の会合で、どう受け止められるか、興味深いところです。
幸田 他にターゲットとして排出レベルの問題がありますね。
キンリー  はい。ターゲットという言葉を使わず、QELROs(Quantified Emission Limitation and Reduction Objectives:数量化された排出抑制・削減目的)という言葉をつかっています。小島しょ国連合(AOSIS)から2005年までに20%削減、また、EUから、2010年までに15%削減という案が出ています。これから主要国から出される提案を待っているところです。
 この他に排出権売買、共同実施、旧ソ連や東欧諸国に対しての柔軟な対応に対する提案も出されています。共同実施というのは、途上国に排出削減につながるような投資をした国に対し、クレジットを与えるというものです。これには中国などは反対しています。
幸田 なぜ反対なのでしょう。
キンリー  もともとは、先進国が引き起こした事態なのだから、先進国が責任をとるべきだという考え方があります。先進国が途上国にも責任を分担させるのはおかしいと考えられています。これは、将来発生すると考えられる途上国の責任ともかかわってくる問題でしょう。アメリカやいくつかの国は、将来的には途上国にもコミットメントの責任が与えられるべきだと提案しています。大きな論争に発展しうる問題です。


科学的不確実性と温暖化対策の実行

幸田 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)についてお尋ねしたいのですが、現在最も権威のあるものとお考えですよね。科学的な不確実性についてはどのようにお考えですか。
キンリー 締約国は、IPCCの報告書を最も信頼できるものとして受け止めています。
 条約には、行動を起こす前に十分な科学的確実性を担保する必要はないと記してあります。(編集部注=第三条3項 深刻なまたは回復不可能な損害のおそれがある場合には、科学的確実性が十分にないことをもって、このような予防的措置をとることを延期する理由とすべきではない)。IPCC第二次報告書は、経済的犠牲を払う前にまだ、温暖化防止にも役立ち、経済的にも意義のある対策が取れるといっています。
 気候変動の問題は、突き詰めれば「非効率」の問題です。エネルギー利用や資源利用を効率的にすることによって、気候を保護し、かつ経済的にも無駄を無くすことができるのです。これが、私たちのフィロソフィーです。
 今すぐ、石炭を使った発電所を閉鎖し、自動車利用を止めなければならないとするだけの十分な科学的知識はないでしょう。しかし、極端な政策の必要性を裏付ける知識はなくても排出制限をさらに進めるのに十分な知識はあります。


京都で何らかの結果を

幸田 京都会議では何が問われていると思いますか。日本の一般の人びとによくわかるような言葉でどう表現すれば良いのでしょう。
キンリー 私たちは、気候変動問題は、これからの社会と経済をどう発展させていくかにかかわる根本的な問題だと考えています。
 山積みの問題と格闘する京都会議は、過小評価されるべきではありません。失望する国もあるでしょうが、これは、積み上げていくプロセスですから、期待通りの成果がなければ、次に向けて努力する姿勢を取るべきです。大切なのは、勢いを維持することです。それによって今の経済の仕組みと開発のあり方をより持続可能は方向に変え、必要な措置がとれるよう、気候変動と取り組むためのプレッシャーとやる気を保つことです。
 最悪の結果は、協議が大きく決裂してしまうことですが、これまでの様子を見ると、そんなことになりそうにはありません。気候変動はグローバルな問題ですから、国々が話し合って解決の道を探らなければなりません。
幸田 京都会議に対する各国のムードはどんな感じでしょう。非常に大切な正念場と考えているのか、それとも、ここで駄目でも、また次があるという考え方でしょうか。
キンリー 私は、どんなことでも、同意に達することができれば、それは大きな成果だと思います。問題は複雑で、話し合う国々の立場はお互い遠く離れています。ですから、何かに合意するのはとても難しいのです。私は、各国政府は、何らかの結果を出そうと心に決めている、合意に対し積極的だと感じています。
幸田 ありがとうございました。
(97年7月4日ドイツ・ボンにてインタビュー)

インタビューを終えて

 ボン随一の景観ではないかと思えるほど美しい緑の中にオフィスを置く温暖化防止条約の国連事務局。その一室で行われたインタビューの最後に、キンリーさんは「今度の京都会議はCOP1やCOP2とは比較にならないほど難しい交渉になるでしょう」と言いました。それぞれの国の経済や社会のあり方にかかわる根元的な問題が提起されており、しかも今なお、締約国の立場に大きな隔たりがあるからです。その中で、新しい合意を目指すのですから、議長国を務める日本に相当な決意と手腕が求められることは言うまでもありません。ところが、日本は依然として国内の方針が固まらず、他国に対して働きかける余裕など持てそうにありません。会議まで残すところ数ヶ月なのに、これでリーダーシップが十分に果たせるかどうかおぼつかない状態です。政府内がまとまらない背景には、私たち国民自身がこの問題と向き合い、明確な意志表示ができないでいることも関係しているのではないでしょうか。今、問われているのは、私たち一人ひとりがどれだけ真剣に責任ある声を発して、政府を動かすことができるかどうかではないか。キンリーさんのお話を聞いていてそんなことを考えました。(幸田 シャーミン)


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