第16回 ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全省
環境政策で世界をリードするドイツ連邦環境省を訪れ、廃棄物、エネルギー、地球温暖化防止京都会議(COP3)について3人の方に話を聞きました。
<プロフィール>

フィーゲン国際協力局副局長(Hendrik Vygen)
<プロフィール>

シュヌラー廃棄物政策部長(Helmut Schnurer)
<プロフィール>

シュハウゼン・エネルギー気候変動プログラム部長(Franzjosef Schafhausen)


世論の重みによって環境省は力を得ています
PPP原則と新しい法律体系

幸田 循環経済廃棄物法(Closed Substance Loop and Waste Management Law)を施行(1996年)するにあたり、企業や市民の理解をどのようにして得ることができたのですか。
シュヌラー ドイツも日本と同様に増え続けるゴミの量に長い間悩まされてきました。ドイツの大都市の一つ、ハンブルクに汚染のひどい大きな埋立地があり、それが非常に危険な状態にありました。汚染された用地を浄化するのにばく大な費用がかかってしまったのです。
 自分の家の周辺に埋立地が欲しいという人はいませんから、新たな用地を見つけるのは困難です。そんな中、市民や政治家、そして少なくとも一部の企業が廃棄物を減らす努力をし、また処分場を閉鎖できるよう廃棄物を資源として活用し、最終的に廃棄する量を最小限にすることに賛成したのです。
 この法律は、「生産」から「廃棄」までを循環の輪の中に組み込んでつなげることを目的としています。製品の製造元に対する引き取り義務=「生産者の責任」の原則を打ち出しました。テレビ、車、シャツ等、なんであろうと使用済みとなった場合には、その製造または輸入業者がリサイクルシステムを確立し、リサイクル不可能なものに関しては環境に配慮した形で処分する責任を負うべきだとしたのです。91年に施工された包装廃棄物政令によるデユアルシステムで、500万t以上の包装材が回収されリサイクルされている実績があります。包装材にはプラスチック、鉄、アルミ、ガラス、段ボールなどが含まれていますが、このリサイクルの仕組みに約40億独マルク(1独マルク=70円)かかります。この費用は商品価値に上乗せされるので、消費者が払うことになります。これが、初めてPPP(汚染者負担)の原則が施行された例です。
 91年にこの政令が施行されて以来、私たちは車や電子・電気製品。電池等のリサイクルシステムの例をつくり、家具、衣類、建築廃材等のリサイクルシステムづくりにも取り組んでいるところです。誰がその仕事をし、誰がその費用を負担すべきかが議論の中心となっています。
 いわゆる企業の「自発的合意(voluntary agreement)」を受け入れ、それに法規命令のシステムをくっつける形となっています。例えば、車のシュレッダーダストの場合、埋め立てなければならない量は現在約25%なのですが、それを2015年までに5%減量しようというものです。メーカー側は製造後12年以内の車であればリサイクルコストを負担し、それ以上の年月が経っているものについては、最後の持ち主が費用を負担するということになりました。これは近々議会の承認を得られるでしょう。(注:7月4日に承認された)。また、使用済みバッテリーについても今年中に実施されるでしょう。 
幸田 ドイツの人びとがPPPの原則を受け入れ始めたのはいつ頃からですか。どのようにしてデユアルシステムに協力を得ることができたのですか。
シュヌラー それはとても重要な質問だと思います。幸いにも、ドイツ市民は環境問題に取り組むことに前向きな姿勢をもっています。また、ドイツでは市民が廃棄物の処理費用を市や町に支払う形を取っているので、料金がだんだん高くなり、それをどうしたら防げるかを考えた末に、PPPの考え方に近づけて、リサイクルを強化し、企業に廃品を返す方法をとるべきだということになったのです。
幸田 日本のメーカーはしばしば、環境のコストを負担できない理由としてアジアとの競争をあげます。でもドイツはEU(欧州連合)の通貨統合による調整や国内の失業率問題など、もしかしたら日本以上に厳しい状況にあるかもしれません。どのようにして乗り越えることができたのですか。
シュハウゼン ドイツでは4〜5年前まで、環境問題は非常に重要な政治課題であり、市民の意識もかなり高かったのですが、今は失業問題が一番関心を集めています。
 ですから、リサイクルを失業対策に結びつけようとしています。デユアルシステムの導入で新たに3万人の職場が確保されましたし、車や電気製品がりさいくるされれば、新たに施設がつくられ、人出が必要となります。また、最近のデータによると環境策全体の推進によって新たに90万の職がつくられました。


エネルギー利用構造の変革

幸田 日本では通産省が実質経済成長率を年2.5%以上と見込み、それに伴ってそれ相当のエネルギー消費が必要だとしていますが、ドイツではどのようにすれば経済成長と環境の両立が可能だと考えているのですか。
シュハウゼン カギはエネルギー利用の構造にあると思います。ドイツの場合は、エネルギーを無煙炭や褐炭からガスや原子力に転換してきました。それによって、経済成長率とエネルギー消費を切り離すことに成功したのです。実質経済成長率は年2%とみています。コージェネレーション、ガスタービン、新しいプラント、照明、モーターなど製造プロセスを改善できるさまざまな方法に取り組んでいます。
幸田 今後は核エネルギーの利用を増やすつもりですか。
シュハウゼン 核エネルギーの増加は世論が許しませんので、まったく可能性はないでしょう。政府としては現状を維持するつもりです。われわれは温暖化問題はCO2やエネルギー税等の環境政策だけでなく、法律や情報、教育などさまざまな面からの取り組みが必要だと考えています。
幸田 ドイツで炭素税を導入する考えはあるのですか。
シュハウゼン フランス、ベルギー、デンマーク、オランダ、スウェーデン、フィンランド、ルクセンブルクなどの国々と5年前から"Friends of Green Taxes"(緑の税の友)を結成し、導入に反対している国との話し合いを進め、EUレベルでの早期導入を検討していこうと考えています。


温暖化対策に生かされる環境省の強いリーダーシップ

幸田 ドイツは、2005年までにCO2を90年レベルから25%削減すると宣言しました。これはかなり高いハードルのように見えますが、具体的にはどのように目標を達成しようとしているのでしょうか。 
シュハウゼン 現行の政策だけで15〜17%は削減できると思っています。問題はこの数字をどのようにして25%に引き上げるかなんです。環境省のリーダーシップのもと、CO2削減のために省間のワーキンググループが、90年の閣議決定で設立されました。このグループは、2005年までにいかにして目標数値を達成できるかを示さなければなりません。今年の9月の閣議で追加的措置が決定されるでしょう。
幸田 ドイツではずいぶん建築物の省エネルギーに力を入れてますよね。
シュウハウゼン ドイツでは現在、年間エネルギー消費量を50kW/hにおさえる建築物をつくることができるのですが、現実にはその8倍ものエネルギーを消費している建築物があるのです。ですから現存の建築物のエネルギー効率を高めれば、CO2削減の余地は十分あるのです。
幸田 今度のCOP3で大きな前進をもたらすことができるとお考えでしょうか。
フィーゲン この会議を何としても突破口とする必要があります。議定書には2005年または2010年までに温室効果ガスを削減するための法的拘束力のある目標と、少なくとも部分的には法的拘束力を持った政策や措置が必要です。これは気候変動のためだけではなく、競争の面からも大切なことなのです。
幸田 ドイツの環境省は独創的なアイデアを打ち出し、実行していますが、これは環境省が力をもっているからなのでしょうね。
フィーゲン 政府内でしっかりと環境面での責任をとり、環境政策をまとめるところがなくてはなりません。世論の重みによって環境省は力を得ているのです。私たちの力は国民やNGO、マスコミなどの世論がどの程度、環境の前進を求めているかということによって得られるものなのです。
(6月4日ドイツ・ボンの環境・自然保護・原子力安全省にてインタビュー)

インタビューを終えて

  ボンにあるドイツ環境省は、ビルの高さ制限のために、いくつかの低層ビルに分かれています。その一つにある国際協力局のフィーゲン副局長のオフィスで、彼と、シュヌラー・廃棄物政策部長、シュハウゼン・エネルギー気候変動プログラム部長の3人に、話を聞くことができました。
 印象深かったのは、政策の理念、哲学がはっきりしていることです。例えば、「循環経済廃棄物法」はPPP(汚染者負担)の原則という理念に基づいて、誰が何の責任を負うべきかをはっきりさせ、環境のコストを市場経済に盛り込んで、ドイツの経済構造の変化を促そうとしています。
 また、一見政府と産業界の妥協のように見える「自主的合意」の手法も、目的達成の方法としては合理的で、企業の創意工夫が生かされやすいものになっています。例えば、企業が約束した2005年までにCO2の排出量を20%削減するということについても、方法については企業にまかせ、その成果を政府と企業で資金を出し合った第三者にモニタリングしてもらい、目的が達成できなかった場合に課税するか、熱利用の義務を導入できることになっています。
 制度が理念を明確に反映しているということは、国民の目から見てわかりやすいということ。それは国民の支持と協力を得る上で、極めて重要な要素なのではないでしょうか。(幸田 シャーミン)



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