第7回 岩垂 寿喜男(いわたれすきお)さん(前環境庁長官)
<プロフィール>
iwatare7 1929年(昭和4年)長野県松本市生まれ。中央大学を卒業後、岩井総評事務局長(当時)のもと、総評の書記として大衆闘争を指導。理論家左派の切れ者と言われ、60年代安保闘争で活躍した。72年神奈川2区より衆議院議員に初当選。以来、厚生委員長、衆院環境部会長などを務め、環境問題に深くかかわる。また、日本野鳥の会や緑の地球防衛基金などの理事も務めた経験も持つ。村山政権下ではルワンダに現地調査に行き自衛隊のPKO(国連平和維持活動)派遣を決めた。昨年、橋本連立内閣で環境庁長官として初入閣を果たした。長官時代には、長良川河口ぜき建設問題で建設省と環境庁の定期協議を実現。昨秋の総選挙を機に政界を引退。



幸田:今年の12月に日本でCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議、地球温暖化防止京都会議)が開催されることが決まりましたが、岩垂さんが環境庁長官として昨年、ジュネーブのCOP2に出席なさったときに正式決定したわけですが、なぜ日本が選ばれたというふうにお考えですか
岩垂:立候補は前からしていたわけですから、いわば仕上げがジュネーブになるわけです。
 私は率直に申し上げて、各国の環境大臣や国連機関は、日本にぜひやってほしいという気持ちと日本がやる以外ないんじゃないかという気持ちで受け止めてくれていたなという気がいたします。
 問題はどのようにして成功させるか。先進国の責任もありますし、中国をはじめとする途上国の人びとの気持ちもあるし、もうひとつ非常に大きな要素として小島しょ諸国の、このままいくと海に沈んでしまうというような、ものすごい危機感がある国々もあります。日本はそれらのいわば橋渡しと言いましょうか、利害の対立する各国を結びつけていく、コーディネートしていくことが期待されている、というふうに私は思いました。
幸田:それぞれの利害を超えて合意するというのは大変なことですね。議長国となる日本は、アメリカ、EU(ヨーロッパ連合)に次いでCO2排出量が多い国で、一人当たりでみるとEUを抜いているんだそうですね。議長国として率先して温室効果ガスの削減をしていく責任があるのではないでしょうか。


傷みを伴う努力を

岩垂:率直に言って、今までのようなやり方ではダメです。私はいろいろ勉強してみて思うんですけれども、温室効果ガス削減のために、いったい日本はどれだけの努力をしているだろうかと、かなりシビアに問うてみますと、意外にイージーなんですよ。例えば、去年の環境週間から自動車のアイドリングストップ運動を始めました。1カ月半くらいしか準備期間がなかったんですが、何割かのドライバーがやってくれたかという程度ですね。
 個々の企業がどれだけエネルギー転換をやっただろうか、あるいは国民生活のレベルでいうと、テレビを切ったり、電気を消すというようなこと、街灯でもそうです。どれだけのことをやったんだろうか。少なくとも痛みを伴うような対策は一つもやってませんよね。
幸田:たしかにCO2削減に寄与する省エネ対策だけでなく、より直接的な温暖化防止対策も足りないですね。中央環境審議会は、私もメンバーの1人ですが、環境基本計画ができてからこの1年で、国ばかりでなく企業や国民がどの程度具体的な対策を講じることができたか、委員が全国を回って近々ヒアリングすることになっています。
岩垂:どうしてもやっていただきたい。公共事業だけではダメなんです。アイドリングストップ運動にしても、トラック業界、公営のバス、タクシー業界を所管する運輸省にお願いをしても、最終的には現場でハンドルを握っている人が問題になるわけですから。
幸田:最近は、信号でエンジンを止めているバスもありますね。信号待ちのとき、静かでとても気持ちいいです。
岩垂:例えばソーラー発電をどうやって普及させるか。今はかなりコンパクトになっていますが、量産できないから値段が下がらない。学校の屋上に設置すれば子どもたちの教育にもなりますね。そういうある種のインセンティブみたいなものを引っぱり出す。いろいろな分野で拾い出せば、相当な効果が出てくると思うんですが。
幸田:公共施設で率先してそういう行動をとっていけば、かなりのマーケットになりますよね。ところで、環境庁がつくった環境家計簿はよくできていますね。
岩垂:僕は正直言って最初はあれをバカにしていた。
幸田:私も家計簿があんなに楽しいものとは思いませんでした。各ページに書いてある情報がとってもためになって、いいものに出会えたなと興奮したほどです。1年で各家庭からCO2を10%減らすことができるというのがいいですね。具体的な目標に向かって行動できますから。

COP3でNGOをバックアップしたい

幸田:ところで、長官をおやめになってからもCOP3を成功させるために国民的な運動をやっていきたいとおっしゃっておられますが、具体的にはどのようにお考えですか。
岩垂:昨年12月に、京都や大阪などの関西の商工会議所が中心になって、温暖化対策をやっているNGO(非政府組織)、学生、組合、財界を含めた実行委員会が立ちあがりました。自分たちも参加するという気持ちで自分たちの生活の中で何ができるかということを含めてやってもらおうかと考えている。お陰様で、商工会議所会頭の稲盛和夫さんとお話しして、積極的にやりますと言っていただきました。
 一番僕が重視しているのは、会議をバックアップするNGOの体制をどうするのか。COP2の開かれたジュネーブでびっくりしたのは、非常にレベルの高いNGOの人たちが参加して、僕らよりも専門的な知識を持って、会議内容のニュースを実に正確に早く伝えていました。日本の場合は必ずしもそうではありません。国際レベルでは非常に優秀なNGOがいる。そういう人たちが何千人と来る。日本のNGOの仲介で、ジュネーブで国際NGOの皆さんと会ってきました。私からCOP3に協力していただきたい、何でも注文してくださいと言いました。注文は2〜3ありました。
 できるだけNGOにも情報を教えて欲しいとか、途上国のNGOが京都に行く援助をして欲しいとか。政府が出すわけにはいきませんが最低限の経費は考えましょうとお答えしました。
幸田:一つ心配なのは、COP3が京都だけのシンポジウムのように思われてしまうことです。まだ全国的に深く浸透しているとは思えません。岩垂さんご自身は何かキャンペーンをお考えですか。
岩垂:北海道と沖縄から自転車行進みたいなことができないかと考えています。必ずそこの村長さんとか町長さんにも出てもらって、これは21世紀に人間が生きていくのに必要な会議ですよ。だから皆さんも頼みますよというメッセージを伝えていく。


橋本総理への遺言

幸田:COP3は21世紀を生きる上で基本となる価値観が示されるかもしれない重要な会議ですからね。岩垂さんのお話になっていらっしゃったように非常に難しい挑戦でもあります。そんななか、日本が世界に対してリーダーシップを発揮することができるかどうかという難しい仕事、責任を負うことになります。総理のリーダーシップも大きな原動力になりうると思うんですが、元閣僚としてご覧になって、橋本さんの環境に対するリーダーシップをどのようにお感じになっていらっしゃいますか。
岩垂:私の在任中、最後から数えて2回前の閣議で、閣僚レベルでもいわんや国民レベルでも、COP3の問題というのはまだ十分な認識を共有し得てない。しかしこれは21世紀に人類が本当に生き延びることができるのかできないのかというような非常にシビアな選択が迫られている。その会議を日本でやることになっている。それは一環境庁がどうするとかという問題ではない。日本の政治全体が問われていると私は思います。従って橋本さんにお願いしたいのは、総理のリーダーシップ、「環境の橋本」と言われることになるのかならないのかそういう非常に厳しい状況の下でリーダーシップを求められている。だから、これだけはなんとしても今から是非理解をして臨んでいただきたいということを「遺言」として言いました。
幸田:橋本総理は以前から環境問題に深い関心をお持ちなんですか
岩垂:私が当選したとき、総理は公害対策並びに環境保全に関する特別委員会の理事をやっていらして、そのときから環境問題はかなり勉強もしておられたし、理解は非常に深い人です。
幸田:COP3に向けて大きく動いていただきたいですね。総理が動くと国民も注目しますから。
 岩垂さんのご活躍を期待しております。

インタビューを終えて

charmine7 環境庁長官を最後に政界を引退された岩垂さんが、日本のNGO活動のサポートをライフワークにするとうかがって、私は彼のファイティングスピリットがますます輝きを増しているように感じました。
 先進各国に比べて制度的に乏しい支援体制のなかで、一生懸命に活動している日本のNGOの活動基盤を強固なものにしていくことは、これからの日本にとって欠かせないことです。何でも官にお任せという受け身の姿勢ではとても通用しない、複雑な問題に数多く直面するからです。
 COP3を通して、国々がどれだけ利害の対立を乗り越えて温暖化対策で合意できるかは、結局のところ、どれだけ市民の支持を得られるかにかかっています。その過程でNGOの果たす役割は大きな力となるはずです。NPO法の成立の重要性は、今や待ったなしのところにきていると言っていいでしょう。岩垂れさんの一層のご活躍に期待したいと思います。(幸田 シャーミン)



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