第9回 藤村 宏幸(ふじむらひろゆき)さん (株)荏原製作所代表取締役会長
<プロフィール>
fujimura9 1932年(昭和7年)生まれ。55年大阪大学工学部卒。同年、(株)荏原製作所入社。川崎工場長、第二機械事業部長などを経て88年代表取締役社長に。昨年6月会長に就任、現在に至る。中央環境審議会委員、(社)日本産業機械工業会副会長、(財)日中経済協会常任理事、(社)日本下水道施設業協会会長などを務める。

(株)荏原製作所
1912年(大正元年)創業。ポンプ製造業から工作機械、水処理装置の製造・販売などと業務範囲を広げ、現在では機械、エンジニアリング、精密・電子、情報・通信の4事業部門を持つ。



幸田 会社の方針としてゼロエミッションというキーワードを前面に強く出していらっしゃるのは、どのようなお考えがもとになっているのでしょうか。
藤村 水をきれいにするという事業部をつくったのは1958年(昭和33年)でした。もう40年近い歴史があります。日本ではいろいろな川も空気もきれいになった。今、グローバルにみると、日本のようにお金がある国はいいけれど、お金のない国がどうやれば環境をきれいにできるのかということを、考えなくてはいけない。これは持続可能な発展というコンセプトを実現するにあたって、一番大きなテーマだと思います。
 われわれが静脈産業と呼んできた、環境を浄化するという業務と生活を豊かにするという業務があります。静脈産業はお金を使って環境を浄化し、動脈産業ではいかに安くつくって生活を豊かにするかを追求するということで分離されていた。そこで環境をきれいにすることがものをつくることと一体化したならば、ものをつくるのと同じように環境保全も進展するだろうという発想は20年ぐらい前からありました。そこへ、国連大学のグンター・パウリさんのゼロエミッションというコンセプトと出会いました。
 ゼロエミッションの考え方自体は、どちらかと言うと一つの系の中で徹底的に廃棄物を少なくしようということです。しかし、必ず最後には廃棄物が出る。私どもは、それをなんとか他の系・産業の原料として有価物にして、動脈産業化すれば良いんだと、確信しました。実は、発電所から出るSOX、NOXを肥料にするというプロジェクトを20年ぐらい前から開発していました。そんなことをやっているところに、「ゼロエミッション」という考え方が出てきて、これこそわれわれがそれまで開発してきた技術のコンセプトそのものではないかと思いました。そこで21世紀は、エネルギーや資源を使って環境をきれいにする環境ビジネスではなくて、ある系から出る廃棄物を有価物につくりあげて、それを売ることで環境をきれいに保ち、雇用、持続する経済成長の問題、両方とも解決できる環境ビジネスの時代ではないかという発想に至った。これまでわれわれが蓄積してきた静脈産業の技術と他の動脈産業の技術を組み合わせ、新しい技術の開発を行えば、持続できる経済成長の道の一つになると。
 ゼロエミッションのもう一つの良い観点は企業活動だけでなく、市民生活のレベルも一つの言葉でくくることができる。会社での生産活動だけでなく、従業員が家庭生活においても同じコンセプトで生活スタイルを見直すことができる。そういう意味で企業だけでなく、社会全体もその方向に動き、企業が社会的使命を果たすとすれば、非常に適したテーマだと思っています。
幸田 もともとおつくりになっている機械などが社会システムを動かしていくものですから、ぴったりのテーマですね。
 ここ数年取り組んでこられていかがでしょうか?新しい方向への転換ですから、容易で簡単なことばかりでないのではないでしょうか。
藤村 言葉が先行して、実際に果たして社会に役に立つシステムが生まれてこようとしているのか、不安を感じることが多いです。ゼロエミッションという言葉をフォローする技術が本当にできあがってくるんだろうかということへの不安です。もう一つは新しい産業システムが成立するかどうかということです。
 市場経済は物事を進化させるにはよい仕組みで、人間が豊かにならなくてはならないとすれば、市場経済はは一つの解です。ところで、環境をきれいにするという業務は市場経済と衝突するところがかなりある。そこを結びつけるのが、静脈産業と動脈産業の一体化という手法ですが、これはまだ新しいシステムなので、市場経済の仕組みの中で成立するというところまで、技術が追いついていない。それから技術がそこまで行くだろうかという不安がある。正直なところ、行かないかもしれない。
 ただ、それでは人間はみな市場経済にのっていれば幸せになれるのかというと、そうはいかない。実現には難しい問題がたくさんありますが、静脈と動脈が一体化した産業システムを可能にするシステムが構築されてしかるべきと思います。
 例えば、中国ではNOXやSOXで苦労されている。今まではある程度これらを排出しても安い電気をつくる方を選ぶよという市場経済の論理があった。そこへ、「排ガスを浄化すると同時に硫安・硝安(注−1)がつくれますよ」と持っていく。これらをつくることによって静脈的要素が軽減されるわけです。このようにすべてが動脈産業としての役割を与えられれば、市場経済の中で運用される。例えば、このEBA法(注−2)でつくる肥料が従来の方法でつくられる化学肥料よりも安くなれば、化学肥料工場がなくなって、NOX、SOXをきれいにすることによって生産される肥料がすべてをカバーできる。
 しかし、なかなかこのような技術は開発できないかもしれない。そうであれば、それを可能にする仕組みができなくてはいけない。例えば、従来の肥料が9円で、EBA法の肥料が10円。高いものを9円として売る仕組みが経済システムの中でできれば、すべて煙はきれいになる。
幸田 どうすればそうなるんでしょう。
藤村 それは国の施策です。1円分はみんなが健康に暮らせるための出費だと思えば、そのためのシステムとか仕組みが必要です。
幸田 ゼロエミッション実現に向けて一番のネックになっているのは値段の問題ですよね。環境へのコストを考えるシステムを構築するにしても、国内での合意形成ができていません。また「日本だけでやっても外国もやらなければ意味がない」とよく言われますが、どの国も同じシステムを同時に始めないと経済的なダメージが大きくなるのでしょうか。
藤村 環境の保全は安全保障の問題だと思います。生存のために最低限必要なもの、例えば水、空気、食料、エネルギーについては市場経済よりもむしろ分配の問題で、日本もきちんとした国家目標をたて秩序をつくらなくてはならない。それが規制強化になってもやらなくはならないものはやるべきです。
 例えば、米の自由化をしても、足らなくなったときにどうするのかをきちんと考えておいて欲しい。水田をつぶしてしまうと大切な保水機能を失うことになる。たとえ米を自由化しても水田を残しておく。水田のダム機能を換算すると3兆円になると言われています。米の生産額の4兆円分をダム機能費として農民に払えばいい。いつでも米をつくれるようにしておくというのが安全保障であれば、その費用を払うべきだと考えることもできます。環境も同じことです。ビジネス活動の自由化というような規制緩和の話とは別で、これによって競争力が落ちる、落ちないの問題ではない。
幸田 神奈川県の藤沢で始められたエコインダストリアルパークはこのような技術を集めているのですね。住んでみたいなという気持ちになりますね。
藤村 まだ、実用段階にはなってはいないけれど、ゼロエミッション技術として今後期待している技術を実際に実験する場がないものですから、社宅の建て替えの時期にきた藤沢の事業所でやってみようと考えたのです。例えば、ゴミの徹底した資源化、水の使用量が少なくて済む便所、ソーラー発電、屋上緑化などを導入する予定で、廃棄物の80%削減、電力が30%、水は50%の節約という省資源・省エネ目標を掲げています(注−3)
幸田 環境はこれから世界のビジネスになるとお考えですか?
藤村 静脈産業、例えば下水をきれいにして川に流す、浄水場をつくるというのはこれからは環境ビジネスとして成り立たないかもしれません。しかし、ゴミがアンモニアになるという事例のように、今まで捨てていたものを価値あるものに仕立て上げるというのがこれからの環境ビジネスになると思います。
幸田 かつての日本の高度成長は廃棄物がただ同然で捨てられたからこそ成立したという前提をくつがえし、廃棄物を出さないことをビジネスにするというのは多くの経済人にとっては受け入れにくいことではないでしょうか?
藤村 持続可能な経済発展を前提にするなら従来の経済システムではダメなことは明らかです。系の中で出さないようにする、つまり省エネ・省資源、リサイクルということ。そして、これはコストダウンにもつながるはずです。一方、系の外に出したものを有効に転換し、動脈につなげようというのは新ビジネスですから雇用を創出します。単に規制を緩和すれば新ビジネスが生まれるだけでなく、規制を強化すれば新ビジネスが生まれるという分野もあるというのは世の中の認識になっている。環境問題を安全保障の分野として、きちんと方向を定め、対応を進めれば雇用を生み出すのです。これは世界的にはビジネスになる。日本がやらなければドイツやアメリカがやるでしょう。
幸田 本日はどうもありがとうございました。

注−1
電子ビーム排ガス処理装置(EBA法)
酸性雨の原因となっている燃焼排ガスのSOX、NOX。発電所や工場から出るこれらの有害物質を電子ビームにより活性化しアンモニアと反応させて、そこから農業用の窒素肥料(硫安・硝安)を生産するシステム。乾式のため排水処理も不要となり、二次廃棄物も出ない。ある系から出る廃棄物を別の系の原料にするという「ゼロエミッション」型のシステム。中国四川省成都火力発電所で今春から運転開始予定。

注−2
ガス化溶融システムを用いたゼロエミッションシステム
石炭から、ゴミ、し尿までどんな廃棄物でもガス化するとともに、金属類の回収や出てくる灰(スラグ)は建材に利用するなど、極限までの資源リサイクルができる。ガスは燃やして発電。電気がいらなければケミカルリサイクル(分解・合成)をして、メタン、アルコール、アンモニアをつくる。静脈的なゴミ処理場とアンモニアをつくるという動脈産業の一体化。

注ー3
エコインダストリアルパーク
藤沢市にある社有地をモデル地区として荏原製作所の技術を集大成し、ゼロエミッションの哲学を具体化しようという計画。浄水場、下水処理場、発電施設などの社会インフラと住宅、工場、商業施設、農園などを隣接させ、工場から出る温排水を住宅や農園で利用する、廃棄物から資源・エネルギーを取り出すなど効率的な循環型のまちづくりをめざす。

インタビューを終えて
charmine9
   私たち人間社会がつくり出した生産や消費のシステムは、自然界の循環から外れたいびつなものになっている、と指摘する環境の専門家もいます。
 循環されない廃棄物を、空、陸、海に棄て続けることが、危険になってしまった今、私たちも自然界の一員として、その循環の秩序の中で生きる方法を見いだすしかありません。「ゼロエミッション」は、そのためのキーワードです。
 エバラのような産業機械の製造業、建設業、自動車製造業、大学キャンパスなどで、ゼロエミッションに向けた試みが、徐々にみられるようになっていました。
 企業の自主的努力を待つだけではなく、アメリカのカリフォルニア州のように、段階的に新車にゼロエミッションを義務づけるところも出てきました。その結果、自動車メーカーの技術開発が活発化しています。
 藤村さんは規制強化が新ビジネスを生むことを指摘されていました。自然の循環に戻るための規制は、今の私たちにとっていろいろな意味で価値のある必要な触媒と言えるのではないでしょうか。
1997/3/4(幸田 シャーミン)



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