第21回 青島 幸男(あおしま ゆきお)さん(東京都知事)
<プロフィール>
1932年(昭和7年)東京都生まれ。55年、早稲田大学第一商学部卒業後、同大学大学院(社会学専攻)に入る。在学中より放送作家、作詞家、歌手、俳優として活躍。68年参議院議員に初当選以来、95年に東京都知事になるまで5期30年間国政に携わる一方、81年には「人間万事塞翁が丙午」で直木賞を受賞。


リサイクルの青島と呼ばれたい そのぐらいの意気込みでやってます
ばく大なゴミ処理費

幸田 知事は、ゴミの減量とリサイクルに最大の力を投入し、循環型社会を形成したいとおっしゃっていますが、そのようにお考えになる基本理念、哲学をお聞かせください。
青島 知事になりましてから、一番驚いたのはゴミってどうしてこんなにお金がかかるんだろうっていくことでした。
 選挙前から言っていたんですが、ゴミは雑多に出すからゴミであって、きれいに分別していけば一つひとつは有効な資源になりうる。これを資源として再利用することで循環させていけば、こんなに手間ひまかけてお金かけて処理しなくて済むはずだと。その分の労力とお金、経済力を別の方面、例えば福祉に回したらどんなに有効だろうと考えました。そうしなければ都市生活の持続的発展はあり得ないと考えました。
幸田 ペットボトルの回収にあたって、東京ルールを進めていらっしゃいます。事業者の抵抗も強いようですが、都民の要望は強いのではないでしょうか。
青島 ええ。そう思います。市民運動をやっていらっしゃる方は「私たちもがんばるから」とおっしゃってくださるのですが、事業者の方は今まで、つくって、運んで、売ればそれでいいということでしたから、容器を回収してくれと言われても困るんだよ、となかなか賛成してくれないんです。
 一つは、容器内容物メーカーが全国にまたがっている点が難しいんですよ。東京都の意見だけでは、協力を仰ぐのがなかなか難しい。ですから協力をいただけそうなメーカーに積極的にアプローチして、そこから始めていただくしかないのかなと考えています。
幸田 東京都のような大都市には、特別なコストがあってもいいんではないでしょうか。これだけのお客さんが集まっているメリットのコストという見方もできるのではないでしょうか。
青島 東京都に入ってくるときには処理代としていっぺんにとるといった思い切ったことが必要かもしれません。今度は八丈町が実施しようとしているデポジット事業を都としても支援して行くつもりです。島というのはクローズドサーキットですから。
幸田 私たち市民も、ただエールを送るだけでなく、行動を起こさなければなりませんね。市民に対して何か要望はございますか。
青島 「東京都が誠意を持って容器メーカーや内容物メーカーに社会的責任を負うよう主張してください」と市民グループによく言われる。そこで、例えばそういった社会的責任を感じないメーカーのものは買いませんという市民運動でも起これば、有力な力になるだろうと思います。行政から強要するわけにはいきませんが。


独自のルールづくりを

幸田 昨年の5月、都庁に循環型社会づくり推進本部を設置なさいましたね。 
青島 みずから本部長ということです。
幸田 既存の社会システムの大胆な見直しが必要だということを強調されていらっしゃいますが、具体的なイメージ、どういうシステムをお考えになっているのか、推進本部の活動も含めてお話しいただけますか。
青島 まず、都民に分別を進めていただくこと。そして東京ルールというのをつくりました。このルールには三つありまして、「東京ルールT」は資源を別途回収します。現在週に3回の可燃ゴミ収集のうち1回を資源回収に変えて、資源だけ別途回収する。「東京ルールU」は、いわばリサイクルの理想形、事業者の自己回収を追求するものです。そして、「V」はペットボトルに関する望ましい回収システムをめざすものです。現在は、都内4000カ所くらいの小売り販売店でペットボトルの回収箱を置いていただいている。運搬は都が行っています。
 古紙問題もあります。古紙は集まることは集まるんだけど、再利用がなかなかうまくいかない。結局白色度が問題になってくると思います。ヨーロッパなどでは、小学校の頃からグレーに近い色の教科書で、再生紙を使うことが生活スタイルの一部になっている。製紙メーカーは「古紙を混ぜて少しグレーの紙をつくることはいっこうに構わない。ただ売れさえすれば」とおっしゃる。白くないと売れないという一般の消費者の方々の意識を変えていただかないといけないということを言っているんです。意識から変えることをまずやらなくてはいけないと骨を折っているところです。
幸田 循環型社会の形成に対する知事の決意は相当固いと受け止めてよろしいのでしょうか。
青島 これをすれば労力もエネルギーも経済的な部分もかなり革命的に変わってくる。ゴミ処理というのは、ばく大な金がかかるわけです。しかも、バージンパルプの消費などというのは海外の森林伐採に頼っている。東京都で、いくらアイドリングストップなどでCO2を減らしましょうとがんばったところで、他の国の森林を伐採してわが国の資源として用いるということを繰り返していれば、世界中からよく思われないでしょう。地球がこれだけ狭くなっているということ、そこに大勢の人が生活しているということを十分に認識して、その責任の一端をなんとか果たそうという気持ちになっていただかないとどうにもなりません。最近はマスコミも、そういうことをかなり訴えているので、一般の方もずいぶん意識が高くなっている。
幸田 地球温暖化防止京都会議の時にはずいぶん報道されましたからね。最近はまた少なくなってしまいましたけれど。
青島 事業ゴミの有料化が私にとってはインパクトになった。その前に黒いゴミ袋を半透明に変えるというだけで、プライバシーの侵害だ、ゴミが見えるのがいやだなどなど、大変な騒動でした。事業系のゴミを有料にするということでかなりの問題が起こるのではないかなと思いましたが、一昨年12月の実施したところ当初から80%以上の事業者の方にシールを貼って出していただきました。その後は安定的に90%以上の数字を収めています。それに勇気を得まして、納得してもらえば協力してもらえるんだという実感を持てました。ゴミにはお金がかかる。だからうちの町内はごみを出さないようにしようと、自主的に徹底的な分別と再利用を行っている例もあります。おかげさまで10%ぐらいのゴミの量が減っています。


東京を循環型社会に

幸田 ドイツに去年行ったときに感じたのは、製造者の引き取り責任が明確だということです。日本の今までのシステムでは責任の所在があいまいで、みんなでやりましょうというのはいいんですけれど、「では誰が何をするのか?」がはっきりしなくなって、それぞれの責任がぼけてしまう。
青島 家庭系のゴミも有料化してしまえば、いろいろ考えて分けるんじゃないか、それが一番ゴミの減量につながるのではないかと私にアドバイスする人もいます。
幸田 ドイツでは、自主的合意という動きも出てきています。これは企業が政府に対して一定期間内における回収・リサイクル率を約束し、もし達成できなければ規制や課税もやむなしという方法です。私たち都民に対しても例えば1年間ゴミを分別し、リサイクル率を高める努力をし、それが一定量以上継続できれば有料化しないというチャンスを与えるというのが、フェアなのではないかと思うのですが。
青島 みんなに達成感もある。それはおもしろいアイデアだな。そうなると各家庭で分別してくださるだろう。スーパーなどに行って、このトレーはいらない、この袋はいらないと置いて変える。持って帰るとお金がかかるからと。
幸田 循環型社会をつくるということはものすごく大きな挑戦ですが、まず取り組みたいことは具体的に何でしょうか。
青島 オリンピックの東、福祉の美濃部、財政再建の鈴木と、あとで評価されて贈られた言葉だと思うんですよね。私は「リサイクルの青島」と贈られたいです。そのぐらいの意気込みでやっているんです。リサイクル、資源を循環させなければ持続的発展を都市にもたらすことはできない、生活そのものの形態を変えていかなくちゃダメじゃないかということです。今の生活様式を続けていたら絶対に破綻するもの。まずゴミで破綻しますね。
幸田 都民としても、地方分権の精神からも、東京の容量、東京の条件にあった東京スタイルがあっていいんじゃないかと思います。期待しております。
青島 ぜひがんばりたいですね。
幸田 ありがとうございました。
(98年2月16日都庁にてインタビュー)

インタビューを終えて

 企業は商品を売りっぱなし、消費者は使い捨て--こんな方式を続けていけば、社会システムがもたなくなってしまうことは、もはや明白になってきたと言っていいでしょう。  
 例えば、商品が廃棄される段階では、企業の責任で引き取って処理する、そのためのコストは製品価格に上乗せする形で消費者にも負担してもらうという「汚染者負担の原則」にのっとった新制度の導入などの検討の余地が出てきていると思います。この方式の利点は、環境コストについての製造者と消費者の責任を明確にし、問題意識を高めさせることによって、環境負荷の低い循環型社会の実現を促せることです。
 世界最大級の経済・消費規模を持つ東京都は、それだけ環境負荷も大きいのですから、他の自治体に先駆けてその負荷を軽減するシステムを構築することが期待されていると言えるでしょう。そのためには「実験」をいとわない覚悟と度胸が必要なのではないでしょうかと、知事のお話をうかがっていて思いました。
(幸田 シャーミン)



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