第22回 中村 教彰(なかむら のりあき)さん(千葉県白井町長)
<プロフィール>
 1947年(昭和22年)千葉県生まれ。91年から2期、白井町町議会議員を務めた後、一昨年12月より現職。国学院大学卒業。


ISO14001とは?

 国際規格ISO14000シリーズは企業活動によって生じる環境への負荷をできるだけ少なくしようと考え出された。この企画に沿えばどんな組織でも環境管理を効率的、効果的に進めていくことができると期待されている。現在では製造業を中心に認証を取得しようという動きが広がっており、日本国内でのISO14001の認証取得件数が2月末現在で730件となっている。自治体では白井町に続いて上越市(新潟県)などがすでに認証を取得している。 
 ISO(国際標準化機構)とは製品とサービス分野での国際的な交流を促すために国際規格づくりに取り組んでいる民間の国際機関。今後、すでに制定されている環境マネジメントシステム(14001)や環境監査(14010)をはじめ、エコラベル、環境パフォーマンスなどが次々に規格化されることになっている。


ISO14001の取得は、「最少の経費で最大の効果」につながります
全国初、自治体のISO14001認証取得

幸田 白井町が町政運営に全国で初めてISO(国際標準化機構)の環境管理規格を取り入れた理由と目的を教えてください。
中村 平成8年度(1996年度)に第三次総合計画がスタートしておりますが、その中で「自然環境を暮らしに活かす都市」という基本理念があり、さらに「環境共生のまちづくり」という施策があります。
 町といっても一つの事業所であり自分で環境方針を掲げ、その実現のための目標を立て、そして実施のための運用・手順を自分たちで考えて実行していく。事業所としての町自らが環境に対する姿勢を示すことが町民にも理解されるだろうし、それがグローバルな問題につながっていくということから始めました。
 ものを大切にすることは仕事上、時間も大切にすることにもなり、これは職員一人ひとりが自覚をすることにもなる。
幸田 ISO14001を取得したことによる自治体としてのメリットは何ですか。
中村 環境方針に基づいて19の目標があり、35項目の具体策があります。電気の消費量を前年対比1%減少という目標に対して、今は昼休みに、住民に支障がない限り消灯する。印刷物も、今までは表面だけを利用していましたが、両面を利用するようになりました。
 よく考えてみれば当たり前のことなんですが、今まではやっていなかった。なぜ今こういうことをやるのだと議会などでも質問があったのですが、よりシステム化する、文書化して、どの職員がみてもマニュアル通りに進めていけばある成果が期待できるような形にしました。
幸田 取り組み始めたのは昨年の9月からということで、手応えはありますか。
中村 少しずつ出ています。事務用紙の使用量を減らす目標値は10%ですが、一ヶ月単位でみますと、昨年の10月は対前年同月比で53%も減っている。11月は45%。12月は34.8%、1月は23.13%と減っていることは間違いありません。
幸田 10%という数字には何か意味があったんですか?
中村 あまり最初から高いレベルを設定すると、目標を達成できないのではないかということがありました。継続して改善していくことが重要ですから。自治体の前例がなかったものですから手探りで、職員が一丸となって取り組んだという経緯があります。自分たちができる範囲でというところがありました。
幸田 今のお話のように、率先して始めるには勇気が必要だったと思うのですが、職員の皆さんの反響はいかがでしたか。
中村 ISOの取得のために新しく文書化されたものは、正直言って今まで自分たちがすでに取り組んできたことじゃないかと、職員も理解してくれました。私が環境方針を定めたのですが、システムが認証されたと言うことは、職員一人ひとりがよく理解して、やってくれたということの証明でしょう。
幸田 予算的にはいくらぐらいでしたか。
中村 予算計上したのは約200万円。というのは、それなりの機関の指導を受けると費用はもっとかさんだでしょうが、職員がすべてやったんです。職員にとって正直不安だったと思いますが、自分たち自らが取り組んで認証され、さらにたまたま自治体としては初めてということで、職員の自信につながりました。


環境管理と「小さな政府」

幸田 ISO14001に取り組むことが行政コストの削減につながるという風にお考えになったのでしょうか。
中村 環境負荷の低減を図るための方策はたくさんあって、自分たちができる範囲でできることから始めるということではないでしょうか。ISO14001は環境規格ですが、行政に当てはめるとものを大切にするということになる。「最少の経費で最大の効果」ということに結ばれている。意識をしなくてもそういうことになっている。
幸田 逆に環境を意識したためにコストアップになったことがありますか。
中村 たしかにコストアップはあります。例えばより低農薬ということで公園管理の消毒などの薬剤散布を減らしていくと、今までどおり管理するためには人手が必要になる。単年度でみれはコストアップにつながる部分もありますが、長期的にはコストは減ってくると思います。
幸田 そういう場合のコストアップは住民の皆さんの支持が得られるかもしれませんね。環境に投資することの意味を長期的視野から評価するというところまで意識が高まっていくでしょうか。
中村 私も「どうしてこういうことができるのか」と言われたときに、考えたんです。手賀沼をご存じでしょうか。日本で汚れがワースト1の沼です。柏市、我孫子市、沼南町に囲まれた沼で、昭和30年代は水がきれいで湖底がみえていたが、家庭雑排水が原因で40年間で10pもの汚泥が堆積した。自分たちの生活が文化的になったなどと言われますが、その反面環境に対しては非常にダメージを与えてきたのだなと。今の小さい子どもたちはそれを知らない。
 いい状態を子供に引き継いでいきたいという思いがあります。われわれだけでもできることからやろうよということです。
幸田 監査はどのように行われるのですか。
中村 ISOのいいところは、環境方針に基づいて目標を自分でたてて、実行して、内部的にも外部的にも監査をして、ISOの要求を満たしているかどうかを評価して、またアクションする。
 1年やってみて、これは足りなかった、厳しかった、これは目標を定めていいんじゃないかなど、新しい取り組みが出てくるのが楽しみですね。
幸田 このテーマを追求していくと「小さな政府」につながっていくとお考えですか。
中村 小さな政府というのは全国の自治体が今問われていることだと思います。最少の経費で最大の効果ということになると、見直すところは見直して、そして時代に対応した行政運営をやるということになる。
 ISO14001の取得は地球への負荷を低減するという目的から結果的にものを大切にするということにつながる。行政運営そのものにつながると思っています。皆さんから預かっているお金をより有効に活かして使い、その効果を見えやすいようにすることで住民に理解される。長い目で見ないとコストがかかることも出てきますが、継続していく。継続していくからには町も積極的に広報活動をする必要がある。
幸田 無駄をなくしていくことと、ISOなどの新しい目で行政運営を厳しく見直していくということなのでしょうね。
中村 ただ、「もの」を大切にする、節約すればいいんだということでは、職員も前向きにならない。見直すべきところは見直して必要なところには予算は付ける。住民がより夢を持てる町政のためには限られた予算を見直して新しいことに重点的に投入することが大事でしょう。
幸田 最後に、地球温暖化防止における自治体の役割は大きいものがあるのではないかと思いますが、自治体の関わりをどのようにお考えですか。
中村 環境は一度壊してしまうともとの姿に戻すには大変な時間と労力、費用がかかってします。手賀沼が端的な例です。
 私は自然に恵まれたところに育ってきましたが、反面身近な環境が大きく損なわれていることは現実です。そこでわれわれ自治体ができることは、自らが積極的に行い、それをより多くの人に理解してもらうこと。そうすれば地球環境の悪化のペースもよりスローになるのではないでしょうか。
 私も住民の一人で、たまたま支持をされて人口5万人の町の町長になったので、町という権限の範囲内でできることに積極的に取り組んでいきたいと考えています。
幸田 がんばってください。期待しております。
(98年3月23日東京都内にてインタビュー)

インタビューを終えて

 今、国や自治体の政策に「アカウンタビリティー」が厳しく問われています。それは「説明責任」ということですが、環境の世界で考えれば、政策や行政の効果をできるだけ数量化し、市民が客観的に評価できるようにするということではないでしょうか。 
 自治体として全国で初めてISO14001を取得した白井町は、「これを環境保全の有効な手段にしたい」と言っています。同時にそれは、役所のアカウンタビリティーを高めることにもつながるでしょう。
 中村町長の、役所を一つの事業所ととらえて環境保全に取り組む姿勢は、市民のライフスタイルの変更という難しい問題を抱える国や自治体のトップにとって、一つのモデルを示していると言えるのではないでしょうか。
 事業者であるということは、同時に消費者でもあり、その方針一つで環境保全型のマーケットを生み出す力も持っているのです。人口5万人のこの町のリーダーシップから、学べることは多いと思いました。
(幸田 シャーミン)



| Home | Books | Eco Interviews |

2022 All Right Reserved.
(C) Charmine Koda