第27回 ファルコ ラドムスキーさん(ドイツBMWリサイクル・新車開発部)
Falco Radomski/ BMW AG
<プロフィール>



リサイクルのノウハウのプールを目指しています
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幸田 このリサイクル解体センターではどのような活動が行われているのですか。
ラドムスキー このBMWのセンターは、世界でもユニークな施設なのです。車を廃棄するために解体するセンターではなく、リサイクルについて学ぶためのセンターなのです。つまり、ここは開発センターであり、将来の車のリサイクル率を増やしたり、環境調和型の車をつくることが目的なのです。
幸田 車のリサイクルの研究所という感じですね。このセンターで行われていることを紹介していただけますか。
ラドムスキー ここでは中古車ではなく、プロトタイプや、プレシリーズの車が解体されています。解体、接続技術、素材の選択、リサイクル、液体の抜き取りなどについて研究するためです。
幸田 ここで学んだことを生かして、実際にリサイクルを行うリサイクルセンターをつくっていかれるのですか。
ラドムスキー いいえ、解体業者と協力し、古い車を実際に解体している彼らに、新しい技術や道具を提供して、支援しています。
幸田 ここにある車はすべてBMW社のものですか。
ラドムスキー いいえ、他社の車も持ち込まれ解体されています。メルセデス、アウディ、ポルシェ、フォルクスワーゲン、ローバー、クライスラーなど。彼らは新車を無料でわれわれに提供し、それらの車のリサイクル率の改善方法に関する情報を求める。われわれはそれぞれの車のリサイクルに対する考え方を知り、自社の車と比較しながら、彼らの間違いや良いアイデアから学ぼうとしているのです。
幸田 それはおもしろいですね。ライバル社と協力しているわけですか。
ラドムスキー 自動車メーカーは、いま非常に力を合わせているんです。それは、自動車のリサイクルに関する新しい法律が施行されたからです。これまでは、われわれも無料でこのようなサービスを行ってきましたが、あまりに依頼が多いので、料金を取る必要が出てきました。
幸田 それはどのような法律ですか。
ラドムスキー 今年の6月から施行されたのですが、これは、「自主的合意」を法的な枠組みで支えたものです。これによって車の最後の所有者は自分の車を免許を持った解体業者に返す義務を負うことになりました。不法廃棄できないように処分証明書が発行されます。この証明書がないと、車の所有者は車の登録を抹消することができませんから、税金を払い続けなければならなくなります。
幸田 解体試験ではほかに、どのようなことを調べているのですか。
ラドムスキー 大切なのは経済的にリサイクル可能であるかということと、エコロジカルな面からリサイクル可能であるかということを調べることです。
幸田 当然、設計部との連携は密に行われているのでしょうね。
ラドムスキー われわれのノウハウはすべてわが社のデザインエンジニアに伝えています。彼らにここに来てもらい、自分たちの設計したものが、リサイクルの面からはどうかという点を見てもらうためです。
幸田 ここには何人の人が働いているのですか。
ラドムスキー 15人のエンジニアと15人の作業員が働いています。
幸田 ちなみに設計部の方はどのくらいですか。
ラドムスキー ミュンヘンにいるBMWのデザイン・エンジニアだけで、5,000人います。
幸田 現在の車のリサイクル率はどれくらいなのですか。
ラドムスキー 75%です。これは、車の74〜75%が金属でできていて、この分はほぼ100%リサイクルできるからです。その他の構成部分はプラスチック、ゴム、ガラス、セラミックなどです。将来は85〜95%のリサイクル率に上げなければなりません。
幸田 車にはどれくらいの数の部品が使われているのですか。
ラドムスキー 約2万点です。とても複雑な製品ですから、まず、素材の選定は、材料の循環のためのループ(輪)を築くためにも重要な要素になります。次に、速くそれぞれの部分を取り出すためにも、接続技術を工夫する必要があります。そして、それぞれの部分のデザインを環境調和型に設計する必要があります。例えば、いかに軽量につくるかなどです。
 2015年には95%のリサイクル率にすると決まりましたから、現在開発している車が対象になるわけです。解体業者に車が戻ってくるのは12〜15年先になりますから。日本では平均約6年しか乗らないのだそうですが、ドイツでは15年が平均なのです。ですから中古部品のマーケットがヨーロッパでは大きいのです。


自主的合意とリサイクルネットワークの広がり

幸田 「自主的合意」の内容について簡単に説明していただけますか。
ラドムスキー ドイツでは7年間にわたり「自主的合意」のため、自動車メーカー、解体業者、素材の回収業者、政治家などが取り組んできました。そして1996年に15の関係団体が合意したのです。「自主的合意」の中身は、1)寿命を終えた自動車を引き取り、リサイクルするシステムを全国に構築し、そのネットワークを確立すること、2)解体業者が免許を取得するためには環境に調和した解体およびリサイクルを行うことを保証しなければならない、3)認証を行う独立した専門家の制度を設けること、4)登録を抹消するための処分証明書の導入、5)環境に調和したリサイクルと廃棄:埋め立てる廃棄物を減らす目標の設定。2002年までに最高で15%、2015年までに5%にすること、6)使用年数が12年までの車は無料でメーカーが引き取ること--です。そしてさらに、将来の車のリサイクル性とリサイクルのためのデザインを改善することも考えなくてはなりません。
幸田 この研究所は現在、目標をどのくらい達成していますか。
ラドムスキー これまでに、現在走っている車をすべて解体試験しました。そしてその情報をわれわれのパートナーである解体業者に渡しました。次なるターゲットは、解体業者に対して、新しい道具や技術を提供し、支援することです。彼らは1週間単位で、ここに学びに来ています。
 われわれの目指すところは、リサイクルのノウハウのプール(集積所)となることです。BMWはリサイクルネットワークをドイツ、オーストリア、スイス、オランダにつくっているところです。フィアットはイタリアに、ルノーはフランスとスペインにローバーはイギリスにつくっています。目標はヨーロッパ全土にネットワークを張り巡らせることです。
幸田 日本にも協力している解体業者はあるのですか。
ラドムスキー 日本とアメリカにリサイクルパートナーを初めてもったのはBMWです。難しかったのは、両国とも、リサイクルの概念がまだそれほど実行に移されていないからです。
幸田 リサイクル業者の支援のフレームワークはどうつくろうとしているのですが。
ラドムスキー 自動車メーカーはリサイクルの輪を確立する必要があります。まず、素材を回収しリサイクルする施設をもっている人びとをみつけ、彼らが収入が得られるように、素材を買い取る必要があります。
 製造とリサイクルを一つの完結したシステムに統合する必要があるのです。現在ヨーロッパにはリサイクルしなければならない車が900万台あります。それを廃棄物としてではなく、二次資源としてリサイクルする必要があるのです。
幸田 ここでの研究の成果はどのように生かされていますか。
ラドムスキー 例えば、BMWの新しい5シリーズのコックピットはたったひとつのプラスチック材、ポリウレタンからできています。通常は10〜15種類のプラスチックからつくられているんです。ですからこの新しいシリーズの場合は、解体の際に分解する必要がありません。これは経済的にもリサイクル可能な最初のコックピットです。バンパーも100%リサイクルの二次資源からつくられています。


「自主的合意」より厳しいEU法

幸田 自主的合意と法の組み合わせによるドイツのシステムは、EU(欧州連合)の法律ができるとどうなるのですか。
ラドムスキー  近く、国内法より上位にくるEUの法律ができることになっていますが、すでにヨーロッパの8カ国で「自主的合意」が行われているのに、EU法はそれを支持していません。ですから「自主的合意」を支持するよう、たくさんのロビイングをしなければなりません。
幸田 もし、自動車メーカーが約束したリサイクル率を達成できない場合、どのようなペナルティーがかかるのですか。
ラドムスキー EUの法律では、リサイクル率の指定数値を車の「タイプ承認」(TYPE APPROVAL)に盛り込むという考え方です。ということはリサイクル率を達成できなければ、その車は販売できなくなるでしょう。「タイプ承認」とは車を道路で走らせるのに必要な承認です。
 一方、ドイツの自主的合意の場合は、目標を達成できなければ、高額な埋め立て費用を支払うことになります。
幸田 今後、このセンターがデザイン部門にとっても中心的な存在になると思いますか。彼らはこれが、これからの車づくりにとって、また会社の将来にとって非常に重要だという認識はもっているのでしょうか。
ラドムスキー もちろんです。どの自動車会社にとっても、ますます重要になってきています。とくに法律ができたので、なおさらです。われわれは幸いにも、早くから取り組み始めましたが、他社が、われわれのところに車を持ってきて、手伝ってほしいと言ってきているのは、まさにそうしたことがあるからです。
(98年6月ドイツにてインタビュー)

インタビューを終えて

 BMWの本社は、ドイツ南部の中核都市ミュンヘンにあります。ここから、郊外に向かってアウトバーンを車で飛ばして約20分。大きなガレージのような建物が、同社のリサイクルセンターでした。
 入場チェックは厳重です。あらかじめ渡されていたプラスチックの入場カードを差し込むと、何本ものスチール棒で組み立てられた重々しい回転ドアが一人分だけ動いて、中に入ります。最先端のノウハウを守るためなのでしょうか。
 広報担当のラドムスキーさんは、約3時間にわたって精力的に、センターの目的や現状を解説してくれました。環境への負荷低減を意識した新しいものづくり、システムづくりへの取り組みが、自動車の分野でも本格的に始まっているんだな、ということを実感できて、とても心強い思いでした。
 彼らは欧州だけでなく、日本でも商事会社やリサイクルセンターと契約を結んで、部品のリサイクルを進めたり、違法に廃棄された自社の車を引き取るサービスもししているそうです。
 別れ際に、ラドムスキーさんは「新しいノウハウがまだ確立されていない分野なので、クリエイティブな考え方ができて、やりがいがある仕事だと思っています」と、さわやかに語ってくれました。(幸田 シャーミン)



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