第28回 ヨーケ ウォラー・ハンター(Joke Waller-Hunter)さん
OECD(経済協力開発機構)環境局長
Director-Environment Directorate, Organization for Economic Co-operation and Development
<プロフィール>
hunter28 ヨーケ ウォラー ハンターさん Joke Waller-Hunter
1946年オランダ生まれ。73年、北オランダ地方政府で環境情報・環境計画のコーディネーターに。84年にオランダ住居・空間計画・環境省に入り、国連環境開発会議(UNCED)にオランダ代表団で参加。92年〜94年にかけて同省戦略計画課長を務めた後、国連政策調整・持続可能な開発局持続可能な開発部長に就任。98年2月より現職。


世界の環境政策をリードする経済機関

幸田 1960年代に設立されて以来、OECDの主要な使命は「経済成長」ですね。
ウォラー・ハンター(以下WH) そうです。OECD設立当初から「持続可能な経済成長」を目指すことが掲げられていました。従来の経済成長とは、継続的な経済成長を意味していました。OECDの任務は、戦後の経済発展を図る国々を積極的に援助することで、加盟国間の経験を分かち合うことに意義があると考えられていました。
 今年4月に行われた恒例のOECD大臣会合で、「持続可能な開発(sustainable development)」が再び議論されました。最終コミュニケではその意味について、経済、社会、そして環境の統合であると説明されました。OECD設立後38年経って、「持続可能」という言葉に新しい、より広い解釈がなされたのです。
 重要なのはOECDが環境組織ではなく、経済組織だということです。経済組織が持続可能性を真剣にとらえれば、実際にそうした方向に世の中が動いていく望みがあるということです。
幸田 OECDは環境分野でさまざまな成果を出してきました。60年代以来の主な実績は何でしょうか。
WH OECDは、71年という早い時機に環境委員会を設置しました。これはストックホルム会議以前のことです。最も重要なことは、価格の適正化と汚染者がその負担を負うべきだという考え方を強調してきたことです。
幸田 PPP(polluters pay principle)、汚染者負担の原則について70年代初めから取り組み始めたのは、大きな実績ですね。PPPを政策の本流に取り入れることは、今でも多くの社会にとって挑戦的な課題のようですね。
WH そうですね。PPPが100%実践されているとは言い難いですが、少なくとも意識は行き渡っているのではないでしょうか。
幸田 OECDの「持続可能な開発」の具体的なイニシアティブについてお話しください。
WH 昨年11月に"環境に関する高級諮問グループ"が、OECD事務総長に提出した報告書『持続可能な発展に向けた指針:OECDの重要な役割』の中で、持続可能な開発の取り組みの先頭に立つ国際機関となるべきだと具体的な提言をしています。その中で興味深いのは、例えばこれまでOECDが労働生産性の向上を推進してきたように、天然資源の有効的な利用−つまり、最小の資源を最大限利用すること−、環境効率(eco-efficiency)の改善の推進にも同じような努力をすべきだとしていることです。また、労働ではなく、天然資源の消費や汚染に税の負担をシフトさせるべきだなどという包括的な内容です。
 この報告書を、事務総長から加盟国に送り、意見をもらい、それをもとに新しい持続可能な開発のイニシアティブが提言されたのです。2001年までにOECDは持続可能な開発に対するしっかりとしたレポートを作り、リオの地球サミットから10年後にあたる2002年に開かれる「リオプラス10」に活かせるようにするという内容です。
 具体的には、@気候変動、A持続可能な開発のための指標の開発、B環境に影響を及ぼす補助金のあり方、C資源の効率的な利用に関する技術開発という四つのプロジェクトの活動から始めることになっています。
 気候変動問題については、気候変動枠組条約の付属書をめぐり、経済状態の異なる国の対立が予想されますが、OECDとしてはしっかりとした分析結果を提供することによって加盟国が歩み寄る手助けをしたいと考えています。経済面では、さまざまなモデルを使って京都議定書にある義務が実行に移された場合のマクロ経済に与える影響を査定しようとしています。さまざまなシナリオをたてて、どのようなインパクトがあるのか、なども検討しています。


グローバリゼーションと環境

幸田 OECDでは貿易も大きな柱となっていますね。自由貿易と環境保護はときに相対立することがよく言われていますが、OECDはこの問題にどのように取り組んでいるのでしょうか。
WH 私たちは経済のグローバライゼーションと環境との関係を注意深く二つの角度−自由貿易と国際投資−から見ています。4月の環境大臣会合で「グローバライゼーション時代における持続可能な開発」が議論されました。はたしてグローバライゼーションは環境にとってよいのかと。大臣たちはしっかりとした環境政策が伴わなければ、貿易が自由化されない場合よりも、(グローバライゼーションは)大きな環境悪化をもたらすことになるのではないかと懸念していました。ブルントラントレポートに「経済成長はしっかりとした環境政策の前提だ」とあるように、国際投資の利点は否定できませんが、大臣たちの言うしっかりとした環境政策が伴う必要があるのです。


PRTRを推進

幸田 OECDはこれまでPRTRにどのように関わってきたのかお話しください。
WH 地球サミットでの「アジェンダ21」の採択を受け、化学物質の環境への排出情報システムを確立する動きが高まってきました。PRTRとは、環境汚染のおそれのある化学物質がどのような発生源からどの程度環境に排出されているのか、また廃棄物になっているのかどうかというデータを行政が集計・公表することです。これにより化学物質の環境リスクに関して理解を深め、事業者や行政、また、市民やNGOとの対話が実現できるわけです。国連とOECDとの協力のもとで、PRTRシステムのマニュアルやガイダンスづくりをし、PRTRを導入・企画・実施したいと考えている国々を支援すべく取り組んできました。96年にマニュアルが完成し、OECD常任委員会での議論を経てOECD加盟国に対しPRTR制度の導入を検討するよう勧告が出されました。
幸田 PRTRの長所として挙げられるのは、化学物質の環境への排出量を地域の市民に知らせることができる点にありますね。日本企業のPRTRへの対応はどうですか。企業秘密を公開することになるのではと懸念する企業もあると聞きますが…。
WH 企業秘密はある程度尊重される必要があるという条項はPRTRなどの制度には入るでしょう。情報を広くわかち合うことで地域市民との信頼が築かれていくのです。
幸田 企業にとってPRTRを実践する利点は何でしょうか。
WH 企業の環境イメージを向上することができます。これは今日、商業的利益につながります。
幸田 それは市民の意識とも関係しますね。
WH 消費者の方が環境への意識はより高いので、場合によっては企業製品の購入をボイコットするような行動もとれるのです。消費者の立場は非常に強力です。


日本の役割に大きな期待

幸田 最後の質問になりますが、OECD環境局長の立場から、日本が実施している環境政策をどのように評価されますか。また、これから日本に期待する役割についてお考えをお聞かせください。
WH 現在までのところ、今回のPRTRの会議やCOP3のホスト役を務めるなど、国際的には日本のリーダーシップは年々高まり、政府の環境政策に対する認識も高いように思われます。しかし同時に、国内の環境政策にもっと力を入れ、成果を示す責任もあります。次に、アジアのリーダーとして、アジア地域での環境対策の機能性を高めることが期待されます。
幸田 そうですね。具体的にはどの環境問題の対策が早急に迫られていると思われますか。
WH 気候変動を引き起こす温室効果ガスの排出削減を達成することだと思います。現在、国会で審議中の「温暖化防止対策推進法案」は、COP3のコミットメントを達成していくうえで非常に有効なものです(編集部注:本法案はその後、国会を通過し、10月9日公布された)。日本だけでなくすべての国にとって、京都議定書の約束を達成していけるかどうかは実に大きな課題です。
 日本だけでなくほかの加盟国にも言えることですが、環境目的のための経済的手法が、十分に実施されていないのです。環境コストの内部化がまだ十分にはなされていないのです。
幸田 今日のインタビューで、OECDが経済機関でありながらPPPのような厳しいルールを発表し、また最近のPRTRシステムも同様ですが、産業側にとって厳しいとも見られる考え方を打ち出してこられたことに敬意をを表します。具体化のための重要なポイントは何ですか。
WH OECDは加盟国に強制を課すような団体ではないのです。加盟国がお互いを見て、経験を分かち合う、お互いに学び合う、どちらかというとボトムアップで経験を積み上げ、勧告という形にまとめあげていく。トップダウン方式では国際的な環境問題の交渉は進んでいかないのではないでしょうか。
幸田 ありがとうございました。
(1998年9月11日東京にてインタビュー)

インタビューを終えて
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 「環境の道に進むことになったのは、偶然に近いきっかけから」。フランス言語学の学者を目指していたいウォラー・ハンターさんは、希望した大学が入学を半年間延期することになったため、とりあえずのつもりで、地方政府で働き始めたのだそうです。そこが環境情報を扱う新しい部署でした。その仕事の魅力を知ったウォラー=ハンターさんは、大学が受け入れを通知してきたときには、迷うことなく断り、以降「環境法、環境政策、環境管理などとともに、育ってきた」のだそうです。
 そのウォラー=ハンターさんがOECDに来たのは今年の2月。「持続可能な開発のためのOECDイニシアティブ」という大きなプロジェクトの発表の時期とも重なり、その具体化という重要な仕事を引き受けることになったわけです。
 「グローバルなレベルでの前進を実現するのは今は難しいが、先進国における前進は可能だと確信しています。今、アクションはここにあると思いますし、私はアクションがあるところにいつもいたいと思っているのです」。決意を心に潜めた人特有の穏やかな口調で、そう心境を語ってくれました。(幸田シャーミン)



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