第29回 ペーター レッヒナー(Peter Lechner)さん
ドイツ バイエルン州地域開発 環境問題省環境経済部

Bayerisches Staatsministerium fur Landesentwicklung und Umweltfragen
<プロフィール>



「バイエルン環境協定」行政、産業界、市民のパートナーシップで取り組む
規制から自主的取り組みへ
対立からパートナーシップへ

幸田 レッヒナーさんのおられる環境経済部の主な仕事は何ですか。
レッヒナー 経済活動が、今より環境に配慮するように動機づけをすることです。その新しい手段の一つが「バイエルン環境協定」なのです。
幸田 その「環境協定」について詳しく説明していただけますか。
レッヒナー ドイツには環境だけで、約20,000の法規 (regulation)があります。われわれはこのまま法規ばかり増やし続けていくのではなく、新しい手法を試す必要があるということに気づいたのです。産業界や農家、市民と、対立ではなく、協力とパートナーシップで取り組んでいくというビジョンです。
幸田 「環境協定」はいつから始まったのですか。
レッヒナー 1995年に、州の首相であるストイバー氏の呼びかけで始まりました。この新しいパートナーシップは画期的なことで、アメリカをはじめ関心は世界中から集まっています。日本、ブラジル、チュニジアなどから視察団がきました。
 ただ、われわれには法律がたくさんありますが、それほどでない国もあります。法律が多くないとインセンティブという面で、やりにくいこともあるでしょう。例えば、われわれの場合、もし、これをしなければ、今まで通りもっと法律をつくりますよということが、産業界に対するインセンティブとなります。「環境協定」は、州の首相と、環境省と経済省それぞれの大臣、そして、産業界の代表が、お互いに何を約束するかを書面にして署名するという形を取っています。
幸田 環境省と経済省が一緒にパートナーシップを組んで取り組んでいるのは素晴らしいことですね。
レッヒナー そうです。首相がこれは経済と環境のパートナーシップなのだから、一緒に取り組むようにと言ったのです。
幸田 「環境協定」には、誰が参加しているのですか。
レッヒナー バイエルンの産業連盟、商工会議所、手工業会議などです。バイエルンにある会社や組織で環境協定に書かれている目標を達成できるなら、誰でも参加できます。
幸田 どのような分野における取り組みなのですか。
レッヒナー 環境管理、廃棄物管理、エネルギー、天然資源の利用促進と交通の五つの分野です。企業は州政府と話し合って、自主的に現在の法的義務を超える環境改善目標を約束しています。すでに180以上の具体的な約束が企業と州政府の間でかわされています。95年以降2000年までに成果が達成されなければなりません。その間、定期的に進捗状況が公表されます。
幸田 州政府は具体的に何を約束したのですか。
レッヒナー 例えば、約1億4,000万独マルクのファンドをつくり、毎年その7%、約980万独マルクをさまざまなプログラムに助成することです。中小企業に対して、われわれの「環境アドバイスプログラム」の3日間のセミナーに参加する資金の80%を援助するとか、従業員150人以下の小規模の企業に対してエコ監査取得の費用を助成するとか、二酸化炭素(CO2)削減プログラムによる資金補助をするとか、ビール醸造業や小さな手工業店のために環境にやさしい製造のためのヒントを冊子にして配るなど、さまざまな方法で後押しをしています。
 また、環境教育にも資金を出しています。28カ所の環境教育ステーションがあり、大人も子供も利用できます。また、新しい特殊プロジェクトにも資金を出しています。この他にも、経済省とのパートナーシップで、品質管理と環境管理を統合させるプロジェクトも行っています。
幸田 経済省といろいろな共同プロジェクトがあるんですね。
レッヒナー ワーキング・レベルでは良い関係を持っていますが、上のレベルに行くほど悪くなります。根本的な違いがありますから。
 この協定の成果の一つは、こうした共同作業により、コミュニケーションの仕方に変化が起きていることです。一緒に活動することによって、理解が深まり、それを内部化するようになります。


企業にも行政にも
大きいメリット

幸田 産業界はどのような約束をしているのですか。
レッヒナー エネルギーや水の消費、そして廃棄物の削減などです。例えば、自動車業界は、国内の輸送を列車で行う率を、アウディは49%から70%に、BMWは65%から75%に増やすという目標を約束しました。また、両社とも新車の燃費消費を、2005年までに1990年に比べ25%削減することになっています。エネルギー産業界は、ガス消費によるCO2の排出量を25%削減する、新設された発電所の発電効率を38%から45%に上げることなどです。また製紙、精製、化学業界はコジェネレーションの利用率を増加することとしています。再資源の分野では、Bay Wa社のガソリンスタンドでバイオ・ディーゼル油を置くこと。廃棄物の削減ではバイエルン建設業組合が、@使用済みアスファルトのリサイクル率を現在の65%以上に、Aまた、古い道路に使用されていた石やレンガなどのリサイクル率を現在の85%以上にすることなど、セクターを超えたさまざまな取り組みが行われています。
幸田 企業にとってのメリットはなんですか
レッヒナー 経費の削減、それにイメージアップもあるでしょう。一方、われわれは規制を緩和しようとしています。例えば、環境監査をしていれば、報告義務や検査を簡素化するなどです。また、1億独マルクのファンドをつくり、汚染された土壌を企業が改善するよう、資金援助をします。


ホテルなど小さな企業の後押しに力を

幸田 現在何社が「環境協定」に参加しているのですか。
レッヒナー 協定ができた当初、1995年には60社がパートナーになりましたが、次第に増え、現在は580社が参加しています。大企業が入っているので、従業員の総数の20%は入っていることになります。ただ、バイエルンの企業の数は、大小合わせて、約50万。とくに小さな企業の動機づけが難しいですね。コストが削減できるばかりでなく、競争力をつけることにつながることを理解してもらい、持続可能な企業活動に向かうよう働きかけています。
幸田 他にバイエルン州が独自に考案した政策はあるのですか。
レッヒナー われわれは、ホテルやレストランの経営者に対して、彼らが行っている環境対策を自己採点できるような冊子を作りました。もし合格点に達しているようならば、250独マルクを支払うことによって、専門官による検査を受けられます。その結果、自己申告が正しければ、州政府から金、銀、または銅の「環境シール」が贈られます。これは1991年から始まり、少し改善を加えて続けています。
幸田 それは良いですね。ホテルやレストランの玄関に張ってあれば、お客さんが選択する基準の一つにできますね。
レッヒナー 表彰状も与えられ、そこには、環境省、経済省、ホテル・レストラン連盟、観光協会、商工会議所のトップの署名が入っています。そして、特典として、「環境アドバイスプログラム」に参加する費用として3,000独マルクなどがもらえます。また、「職業別の環境アイデア・ホテル版」という330の具体的な環境改善のヒントが載った本がもらえます。そして、「環境協定」のメンバーになるように働きかけています。
幸田 表彰式のようなものは行われるのですか。
レッヒナー 3月17日にミュンヘンにある昔の王様のお城で行われました。これまでに150のホテルやレストランにシールが与えられました。
(98年6月ドイツにてインタビュー)

「バイエルン環境協定」
企業が実行すべき主な項目
・3,500の企業がバイエルン州環境アドバイスプログラムによる環境監査を実施する
・バイエルン州内の500ヵ所の事業所がECの環境監査(EMAS)認証を受ける
・建築業において、使用済みアスファルトのリサイクル率を65%以上に、がれきのリサイクル率を85%以上にする
・ガス供給によるCO2排出量を25%削減する
・新たに建設する発電所の発電効率を現状の38%から45%に上げる
・自動車燃料を一部、バイオディーゼル燃料に変更する
・BMWとアウディのつくる新車の燃料消費を1990年比で2005年までに25%削減する

州が実行すべき主な項目
・汚染された土地の浄化・修復のための基金(1億独マルク)を創設し、同時に企業が修復するよう促す
・環境保護アドバイスプログラムを推進する
・過剰な規制を緩和する

インタビューを終えて
 
 州政府の地域開発環境問題省のレッヒナーさんをインタビューした前日、私はバイエルン商工会議所の環境問題担当のカーラーさんに会って、「環境協定」について企業側の考え方を取材しました。「この協定は、法規に反応するという形ではなく、自分たちの解決方法を企業自ら決定できる」とカーラーさんは評価していました。「自主的な方法によって柔軟に目標が達成できる。もし、経済状況が1、2年間良くなければ、3年後から取り組むことができるのです」。
 この協定の特徴の一つは企業だけでなく、州政府も規制緩和など、具体的な約束をする形で参加していることです。
 2000年のゴールまで、折り返し点を少し過ぎたところ。「目標のほぼ半分は達成できています」とカーラーさん。とにかくいろいろなことを試してみよう、という姿勢がドイツの環境政策をリードする力になっているのだなと思いました。(幸田 シャーミン)



| Home | Books | Eco Interviews |

2022 All Right Reserved.
(C) Charmine Koda