第34回 岡本 洋三(おかもと ようぞう)さん
東京ガス(株)取締役待遇エグゼクティブ・スペシャリストエネルギー技術部長
<プロフィール>
1964年横浜国立大学機械工学科卒業後、東京ガスに入社。地域冷暖房開発室、トータルエネルギーシステム部長などを経て98年より現職。技術士(機械部門冷暖房・冷凍機械)および工学博士。


天然ガスの役割は水素エネルギーへの橋渡し
温暖化防止への「ガス」の貢献

幸田 京都会議を受けて、日本は二酸化炭素(CO2)削減のコミットメントを達成していかなくてはいけません。そういう中でガスの果たす役割にも期待が高まっているのではないかと思います。東京ガスが今、一番力を入れていらっしゃる温暖化対策についてお話しいただけますか。
岡本 国際的公約として2010年までに日本が減らさなくてはならないCO2は、およそ6,000万t。そのうち300万t、5%をガス業界が貢献しようということになっています。
 この貢献の仕方に二つあります。一つは天然ガスを普及すること、つまり石油や石炭から天然ガスへ燃料転換を図ること、脱炭素(decarbonization)ということです。CO2の排出量比率は石炭:石油:天然ガス=10:8:6で、我田引水みたいですが、天然ガスへの転換が温暖化対策につながる。日本の天然ガスのシェアは1次エネルギーベースで11%、世界では23%なので、同じ熱量を得るのに出るCO2排出量が世界的平均に比べて多い。カーボンリッチなエネルギーから天然ガスへの転換を図るということはわれわれの大事な任務です。
 二番目は、少ないとはいえ天然ガスからもCO2は出ますので、コージェネレーションなどの導入によりエネルギー利用の効率化を図り、より排出量を少なくしようとするものです。エネルギーのカスケード利用(多段階利用)による省エネルギー、簡単に言うと「エネルギーの適材適所」です。具体的には燃料電池を含めたコージェネレーションの普及に力を入れていこうと考えております。
幸田 コージェネレーションと燃料電池は、これからのエネルギー・温暖化問題の解決に大きく貢献する手段として注目されているところですよね。東京ガスは水素変換のための外部装置なしの燃料電池の開発に世界で初めて成功なさったそうですね。
岡本 燃料電池にもいくつか種類があります。一番脚光を浴びているのは、ダイムラークライスラーやトヨタなど自動車会社さんが2003年くらいに売り出そうと計画しているもので、PEFC(固体高分子型燃料電池)といわれるものです。自動車会社さんが燃料電池を量産すると、値段も下がる。運転も容易なので家庭にも導入できる。現在の家庭のエネルギー供給システムが一変するのではないかと考えています。
幸田 メタンは都市ガスにたくさん入っている。すると都市ガスがきている地域では、将来的には各家庭で水素の発電が可能になるということですね。
岡本 われわれが都市ガスを供給し、各家庭で水素に改質してその水素で発電し、排熱も同時に利用できるということです。
幸田 電力と競合することになるわけですね。
岡本 現在のエネルギー供給体制は縦割りになっています。電力会社は電気、ガス会社はガスを、石油会社は灯油を供給するという形になっている。ところが、このようにバラバラにエネルギーを供給するのは非常に効率が悪いということがわかってきました。ですから、一次エネルギーを供給し、消費地でエネルギー変換をして変換電気から熱まで使い尽くすということにすれば、最も効率がよくなるのではないかと考えています。


21世紀後半のエネルギー

幸田 以前ロッキーマウンテン研究所のエイモリー・ロビンスさんと対談をしたときに、「そう遠くない将来に、レコードがCDに、タイプライターがパソコンに変わったように、発電所は燃料電池に変わり過去の化石になってしまう」とおっしゃっていました。それを聞いたときとても驚いたのですが、岡本さんはどのようにお考えになりますか。
岡本 最終的な答えは、「親ガメの上に子ガメ、子ガメの上に孫ガメ」とよくたとえるのですが、大規模なシステムと分散型のシステムがうまく組み合わさって、最適なシステムができるのではないかと思っています。すべてが家庭用燃料電池に置き換わるわけではなく、ある割合をシェアするという形ではないでしょうか。
幸田 消費者が選択できるシステムになっていくのでしょうか。
岡本 基本的には選択できる。ただし、現在の日本では、電気の場合は送配電線は電力会社の所有物です。外国の例を見ると、送配電線は公共財でみなが使うものだという考え方です。燃料電池や太陽光発電など各家庭が発電施設を持つと、電気が余る場合にグリッド(送電網)に送り返して電気のほしい人、あるいは昼夜が逆転している地球の裏側の人たちとシェアする、ということになるのではないでしょうか。各家庭が孤立しているのではなく、グリッドに原子力も火力発電も、あるいは孫ガメのように燃料電池もつながり、お互いに支え合う形になるのではないかと思っています。
幸田 今から2年前にドイツの「黒い森」にある人口2,500人の小さな町シューナーに取材に行きました。そこではコージェネレーションに力を入れています。二世帯住宅に設置されていたコージェネレーションは日本製だったのです。どうして日本では普及していないのかと不思議でした。日本では小型のコージェネレーションは何年先くらいに手に入るのでしょうか。
岡本 普及は、遠くない将来に、まずマンションから、そして二世帯住宅、一戸建てという順番にコージェネレーションが導入されていくのではないでしょうか。日本では技術があるかもしれませんが、産業が育つためには日本にマーケットポテンシャルがないと伸びない。日本におけるコージェネレーションの普及率は約2%でわずかなものです。ヨーロッパをみますと、EU(欧州連合)全体で8%、オランダ、デンマーク、フィンランドでは30〜40%となっている。マーケットポテンシャルがあると自然とものも育つ。日本では大艦巨砲主義、電気で言えば、火力や原子力の大規模集中発電で、排熱は使わずに捨てられてきた。大艦巨砲主義なりに効率よいシステムをつくってきたとは思いますが、集中システムだけで分散型と折り合いをつけるということがなかった。日本の社会は行政もエネルギー供給体制も縦割りになっている。ヨーロッパとは違って、日本では育つ土壌が今まで弱かった。技術を育てると同時に、それを利用するマーケットを育てていくこともポイントです。
 エネルギーには栄枯盛衰があるのではないでしょうか。19世紀は石炭の時代、20世紀は石油の時代、21世紀は天然ガスの時代、その先は水素時代になるでしょう。今は燃料電池に天然ガスを送り込んで水素に改質していますが、遠い将来には水素が各家庭に送られる時代になるのではないかと思っています。天然ガスはCO2排出量が少ない、環境にやさしいエネルギーです。さらに水素は完全にカーボンフリーのエネルギーで、天然ガスの役割は21世紀後半の水素エネルギーへの橋渡しだと思っています。
幸田 水素が主力で、ソーラーや風力などの自然エネルギーと組み合わせてということになるのでしょうか。そうした技術で日本が世界をリードしてほしいものです。


分散型エネルギーシステムに向かうには

幸田 欧州の流れをみると、少しずつ大規模集中型エネルギーから分散型エネルギーへと向かっているように感じられる。地域でエネルギーを供給する方がエネルギーのロスも少なく、省エネにもなる。日本の方向をどのようにご覧になりますか。
岡本 ドイツなどの例を見ると、彼らが歴史的に都市国家だったことと深いつながりがあるのではないでしょうか。ハンブルクやベルリンを見ると、町の発電所(Stadtwerke)が電気、ガス、熱、上水を供給する第3セクターになっている。まちのつくり方や地方自治とエネルギーシステムのあり方は密接な関わりがある。いいガスエンジンやシステムがあるだけでなく、社会の仕組みとエネルギーシステムがうまくマッチングしていかないとなかなか分散型の普及は進まないのではないでしょうか。
 ドイツのフライブルク市は20万人くらいの都市だと思いますが、エネルギーも都市計画も環境もみな一つの考え方で動いて、実効を上げている。そこそこの規模の地方都市は自らの力の及ぶところで革新的な環境施策に取り組みやすい。そんな中で、コージェネレーションに取り組むなど、地方自治体の独自性を出した環境施策が動き出す可能性があるのではないでしょうか。
幸田 自治のあり方と大きな関わりがあるのですね。
岡本 最終的には政治も分散型にならないとエネルギーも分散型にならない。
 日本の温暖化対策で欠けているのは何が無駄か、どこからCO2が出ているのかが本気で考えられていない点ではないでしょうか。日本で消費されているエネルギーの3分の2は排熱として捨てられ、有効に使われているのは3分の1です。省エネ法などで個々の対策はいろいろと出ていますが、トータルなエネルギーシステムや環境対策の視点での施策が次に必要なことではないでしょうか。
幸田 それは、政府、地方自治体、エネルギー供給会社、どこがやるべきなのでしょうか。
岡本 地方自治体とエネルギー供給会社でしょうね。政府は個々の事例について細かくは考えられない。機器の効率を上げてもたくさん使えばCO2は出てしまいます。根本的な対策が必要でしょう。
 発電所で発電すると電気に変わるのは40%くらいで各家庭に届く頃には一次エネルギーの60%が無駄になっている。そこで、エネルギーを使うところ、各家庭でエネルギー変換をして、70〜80%の効率で使う。いろいろな組み合わせで。
幸田 今は大きな無駄が生じているということですね。
岡本 エネルギーの多段階利用を展開することが必要です。最初に電気をとって、次に熱を取り出す。無駄にしないということです。
幸田 ありがとうございました。
(99年4月2日東京都内にてインタビュー)

インタビューを終えて

 岡本さんによると、東京ガスが約5年先の実用化を目指し取り組んでいる、各家庭用の燃料電池コージェネレーション装置(都市ガスを水素に変換し、家庭の電気と給湯や暖房の熱を同時に供給するシステム)は、300リットルくらいの冷蔵庫の大きさにまで小型化され、販売価格もソーラー発電装置よりかなり安く提供できるということです。
 水素の燃料電池は、21世紀型のクリーンエネルギーとしてだけでなく、新しい分散型のエネルギーシステムという観点からも注目を集めているわけです。今回のインタビューで、発電、送電、配電の各分野で、自由化・多様化の競争時代に向かって、世界も日本も動き出しているという実感を得られたように思います。
 しかし、その実現への道は、技術革新に歩調を合わせた、社会の受け入れ態勢づくりと大きく関わるでしょう。どのような組み合わせのシステムが望ましいのか、私たち消費者もエネルギーについて本格的に学習する必要が出てきたなと感じました。(幸田 シャーミン)



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