第35回 堀 俊夫(ほり としお)さん(トーメン電力事業本部長)
<プロフィール>
1966年同志社大学卒業後、トーメン入社。97年取締役プラント船舶本部長、98年より現職。1941年兵庫県生まれ。


税制面でも改革されると風力発電で日本も他国並みに
世界の風力発電の10%を担う

幸田 トーメンは風力発電設備建設の事業化規模が世界一とうかがってびっくりするのと同時にうれしく思いました。風力発電に取り組もうとされたきっかけはどんなことだったんでしょうか?
 私は1983年から4年間ニューヨークに駐在していました。オイルショックで世界が騒ぎたっていた78年のカーター政権時に、太陽や地熱、風力などの再生エネルギーとエネルギーの効率化、コージェネレーションの二つの分野を奨励する、Public Utility Regulatory Policies Act(PURPA=パルパ法、公共事業規制政策法)ができました。一般の人が発電をすると、必ず電力会社はその電気を買わなくてはいけないという非常に画期的な法律でした。紆余曲折してすぐには効力を発揮しませんでしたが、83年には、一般の人の投資も楽にするということで、30年間のうち10年間は決まった値段で、当時は9〜10セントでしたが、買うことが定められた。それにあわせて補助法のような形で各州で法律が出ました。きっかけはパルパ法の存在です。
 小さな開発業者から日本の風力発電機械を商社のいわゆる延べ払いで売ってくれないかという話があったのが84年でした。いっそのこと自分たちでやった方がもうかるのではないかと実際に取り組みまして、最初の20台、5,000KWが設置されたのが、87年です。第1号はアメリカのカリフォルニア州でした。
幸田 お始めになって15年くらいですが、風力発電の可能性をどのようにご覧になっていらっしゃいますか。
堀 正直言って、やっている本人が「明日は明日の風が吹く」という調子でよくわからなかったというのが真実ではあるんです。しかし、風を研究していくと、10年間を平均すると予測の10%ぐらいの狂いしかないことがわかってきました。そうすると、商売の上から見ても風は実は不安定なようにみえて、実はそうではないことがわかりました。
幸田 1ヵ所でつくったあと、今もたくさんつくっていらっしゃるのですか。規模が世界一になったのはいつですか。
 最初はアメリカで20台設置しました。現在、16万5,000kWという規模は、つい最近イタリアで当社が建設・運営している17万kWというのが完成するまで世界最大のウィンドファームでした。
 歴史的に見ますと、カリフォルニアのあと、当時のサッチャー首相の考え方で規制緩和、民活の流れがあったイギリスに行って11ヵ所のサイトを確保しました。最終的には周辺からの反対などがあり5ヵ所ほどでしか建設はできませんでしたが、その後、スペイン、イタリア、ポルトガルとヨーロッパに入っていきました。現在、建設中も含めわれわれが持っている風力発電事業は600MWです。世界にある7,700MWの設備能力の風力発電のうち1割弱がトーメンのものです。


日本の制度的なたち遅れ

幸田 風力発電はビジネスとして成り立ちますか。
 ビジネスとして成り立つかどうかを考えるとき大事なのは、販売電力料金です。世界中で石炭、石油、天然ガスと同じような値段でやっているところはありません。風力には必ず補助があることが前提条件となっています。そういう前提条件の下に風力発電はビジネスとして成り立ちます。
 風力発電の大きな問題点というのは、クリーンでグリーンなエネルギーということで奨励している一方で、規制緩和の流れで全体の値段を安くするということの相克の合間にたっていることです。
幸田 日本の風力発電の規模はきわめて小規模。ドイツでは2,000MW、デンマークという小さい国でも1,000MWに対して、日本は20MWと、風力発電の導入状況には大きな違いが見られます。今度トーメンが北海道と青森に建設する風力発電施設を加えると、やっと100MW。それでもまだ一桁違います。制度的な問題があるのでしょうか。
 三つの問題があります。去年やっと電力会社が長期に、例えば17年間にわたって電力を買いましょうということになった。これまでは買い取り保証と買い取り価格が単年度でしか定められていなかった。それでこれまでは大きな規模のものがなかった。
 風力発電の全発電量に占める割合をデンマークでは10%、イギリスでは2010年には10%ぐらいにしようとしています。ちなみに日本の場合、現在発電量が18万4,500MWで、その10%というとすごい数値になる。少なくとも今より多くの風力発電をつくるためには、一つは補助金が少ない。平成10年度で30億円弱。これは風力発電だけを対象にしているわけではなく、太陽、コージェネレーションなどすべてを含んでいます。われわれが今やろうとしている青森の場合は、うまくいって実際にできるということになると、120億円かかります。
 それからもう一つは、一つの企業では限界がある。いろいろな投資家を集めることも必要。当初アメリカでたくさんの風力発電ができたのは、パルパ法プラス、自分が投資した金額の50%程度が免税になったということがある。
幸田 一般の市民でも免税になったのですか。
 はい。100投資して、50の部分で税金を納める必要がなかった。このように税金面でも考えが改革されると、日本も他国並みに近づくやもしれません。
幸田 日本の国土は風力発電に適していないということはないのですか。
 いろいろな研究によると、日本では風自体は吹くようです。しかし、立地条件というのは、風が吹くか吹かないかという物理的な問題だけでなく、風が吹くところに送電線があるかどうか、地権、所有権の問題で土地を入手できるかどうかの問題がある。一つの企業が土地を入手できるかどうか、風力発電設備をつくっても送電線を自分で設置するということになると大変なことになる。
幸田 これから日本でも電力の自由化が進につれ、例えば送電線は現在は電力会社のものですが、だんだんとパブリック化していくのでしょうか。そういう方向性は日本でも見えてきているのでしょうか。
 見えてはきつつありますが、日本の場合、送電線を使う場合に海外のように安く使えるかどうか。およそ3〜4倍くらいの値段になるのではないでしょうか。


風力発電のできること、できないこと

幸田 温暖化対策としてこれから21世紀には、風力、地熱、太陽などがクローズアップされていくと思いますが、風力の規模拡大と役割をどうお考えになっていますか。
 風力がマイナーな発電源で終わるかどうかは、実際に電を使われる人びとが「クリーンでかつ再生エネルギー」である風力をどう考えるかによります。地域に住んでいる人が決めること。ミネソタ州やテキサス州などでは風力発電の電力を、年間30〜40ドル高くても買おうという人もいる。CO2(二酸化炭素)の問題からとらえますと、いろいろな計算があるのですが、一般的には風力発電は通常の化石燃料による発電に比べて1MWで5tのCO2が削減されるという試算がある。トーメンがこれから建設を始めるものも含めると1,000MWの風力発電で、5,000tのCO2の削減ができる。加えて、昨今話題になっている排出権取引に加味されるようなことになれば、単にクリーンということではなくて商売上も夢がある。
幸田 トーメンの風力発電の規模が世界一であることはとても誇りに思います。これからは日本国内や中国などアジアなどでも必要になっていくと思われます。風力はトーメンの大事な柱として力を入れていかれますか。
 そうですね。商売としてもどんどんやっていきたい。もう一つは日本の経済復興、内需拡大のために前倒しの公共事業投資もいいですが、環境のために政府が1,000億円でも出していただければいい。ひいては地球温暖化の問題で間接的に世界に貢献することにもなる。
幸田 補助金や免税の問題があるものの、日本でもこういうところが改善されていけばどんどん規模も大きくなっていくというお話ですが、日本で検討されている電力の自由化についてお話しいただけますか。
 すでに四つ、日本で電力会社ではないわれわれ民間企業が電力事業を行っています。将来はいろいろと言われていますが、アメリカでは現在の法案では2003年から一人ひとりがどこの電力会社から買ってもいいということになる。イギリスでは98年からすでにそうなっている。日本ではまだそこまで行っていませんが、そういう方向に行こうとしています。例えば、2000年には大口需要家への電力の販売が自由になるような動きが出始めています。
幸田 先ほどおっしゃられた社会的・制度的な補助金や税金のシステム、場合によってはグリットのあり方などが変わっていけば、かなり金額的にも安くなるのでしょうか。風が吹くか吹かないかという、技術的な問題よりも制度的な問題の方が大きいとお考えですか。
 もう一つ、発電するためには設備の代金以外に、燃料の価格の違いも大きい。一般的に独立電気事業で、収入に占める燃料代金の割合は、天然ガスなどは50%、石炭は20%、風力の場合はゼロです。この両方の面から考えてということになります。
幸田 日本は世界と比べて補助金や税金のあり方がそれほど進んではいないということのようですね。アメリカのパルパ法は思い切った政策のようですね。それに比べると、日本の場合、支援策は弱いのではないですか。
 やっと始まった、これから力を入れていくという感じ。
 風力の欠点は、本当に良質のエネルギーかどうかということを考えたときに、クリーンなことはクリーンですが、要求されたことを果たせるかどうかが風次第だというところに弱さがあります。
 カリフォルニアでは夏に風が吹く。コスタリカでは水力発電が多いのですが、乾季に風が吹く。こういう具合に補完関係でうまくいっているところはあります。
幸田 エネルギーには明るい、新しい未来があるような感じがします。とてもエキサイティングな分野ではないでしょうか。
 電力というのは基本的にインフラですから、電力コストを下げるとか電力を活用するというのは全産業が恩恵を受けるので、大事な分野です。
幸田 エネルギー源が多様化され、排出権という形で評価されたりいろいろな価値が見出される可能性もありますね。
 もう一つは、みなさん注目されないのですが、再生可能エネルギーとクリーンエネルギーの違い。クリーンで再生可能なエネルギーというのはたくさんない。天然ガスは発電以外にも使えますが、風力は他にはエネルギー転換として使えない。地熱も同じ。例えばインドネシアでは発電コストが安いので天然ガスや石炭を使いがちですが、石炭を売ったり、天然ガスを違う用途に使うことはできます。しかし、地熱は使わなかったら何にもならない。それを売ったときのメリット計算もして地熱発電、風力発電を考えるまでにはいっていない。今後、こういう価値をどう考えていくか興味深いところです。
(1999年4月21日東京都内にてインタビュー)

インタビューを終えて

 トーメンが風力発電事業で世界一の規模を誇ると聞き、とてもうれしく思いました。
 その事業参入のきっかけをつくったのが、現在電力事業本部長を務める堀さんです。彼は当時勤務していたアメリカでPURPA法に接し、そこにビジネスチャンスがあると感じたのです。
 国がしっかりとした誘導政策を導入すれば、チャンスを求める企業が国境を越えて集まってくることの証しといえるでしょう。
 風力はこれから21世紀にかけて、CO2を出さないクリーンエネルギーとして、ますます注目を集めるであろうエネルギー源です。
 欧米やインドなどに比べ、この風力利用に遅れをとってきた日本が、トーメンの成功によって元気づくといいなと思います。(幸田 シャーミン)



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