第36回 加藤 秀樹(かとう ひでき)さん「構想日本」代表
<プロフィール>
1950年香川県生まれ。73年京都大学経済学部卒業後、大蔵省に入省。証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などを経て、96年退官。97年4月にシンクタンク「構想日本」を、仲間とともに設立。「民」の立場から政策・法律を立案することを目的に、NPOを支援するための法案や条例案の発表、行革の実効性の向上を目指した省庁設置法の抜本改正の提言など、さまざまな活動を行っている。編著書に『アジア各国の経済社会システム』(東洋経済、96年12月)など。


現代文明に危機感を持っている
人たちの思いを現場につなぎたい
「官」から「民」へ

幸田 大蔵省を退職なさったわけですが、大きな決断ではなかったかと思います。なぜ職を離れる決意をなさったのですか。
加藤 環境問題が最大のきっかけでした。環境問題というのは一つの問題ではなくて、生活から経済まで全部に関わりますが、今の縦割り組織だと環境庁は実行する権限はあまりありませんから、結局どこがやるかというと、通産省であり、厚生省になります。環境という観点からきちんと社会全体を考えた政策を出す仕組みになっていない。これはほかの政策についても似た状況です。こういうことがきっかけでした。
幸田 環境税には関心を持っていらっしゃいますか。
加藤 私の最大のターゲットの一つは環境税です。これまで大蔵省の主税局が考える税の役割は、何はさておき歳入でした。環境税の主な役割はインセンティブですよね。税がかかることによって消費が減ったり、生産がほかのものに移行したりする。それを意図した税です。したがって税収をあげるのが主な目的ではないですから、現在のように税収が減って、財政赤字が増え続けている時に、それどころではないということです。問題意識としては認識していると思いますけれども。
幸田 なるほど収入にはならないという感覚なのですね。税制などの経済的な手法を通して大蔵省は環境に大きな前進をもたらすことができると思うのですが・・・。
加藤 官僚組織は本来保守的なものなのです。決まった枠の中できちんと仕事をこなすのが第一の仕事ですから。何かを大きく変えようという時には、政治家がきちっと方向付けをして、役人を動かしていかなければならない。政治家に責任をとるという決意さえあれば、役人は絶対に動く。
 戦後50年間というの目指す方向に迷いがなかった。だから官僚主導型でいい時代だったのでしょう。しかしそれを変えないといけない時にはやはり政治家が仕切らないといけない。彼らはそのために選挙で選ばれてきているのですから。
幸田 官の立場ではシステムの改革は難しいとお感じになったのですね。
加藤 自分のやりたいことがそもそも大蔵省の範囲をかなり越えていましたし、組織というものが非常に動かしにくいといいますか、枠がきついということと両方ですね。先ほど、環境問題と言いましたが、これはより本質的には、文明問題だと思います。例えば日本でも歴史、民族や農業のことをやっていたりする人たちは、経済至上主義の現代文明に大変な危機感を持っています。しかし、その人たちは行政や政治の立場から遠いわけです。ですから私が今できる役割というのは、そういう人たちの思いをなんとか具体的な形にして現場につなぎ、大きいところで世の中の仕組みを変えていくことだと思っています。これは、誤解を恐れずに言えば、本来の政治そのものなんです。
幸田 政治的プロセスの中に加藤さんなりに参加なさったのがこのシンクタンクというわけですね。大蔵省の財政金融研究所にいらした時に、環境保全と経済の発展についてレポートをおまとめになったそうですね。環境保全と経済発展というテーマは、加藤さんご自身がお選びになってプロデュースされたのですか。
加藤 絶好のチャンスだと思って。
幸田 それで何を訴えたかったのでしょうか。
加藤 環境税を軸にした、環境問題を経済の中に取り込む社会システムを考えていこうということです。しかし、なぜ税金が大事か、なぜ社会全体の仕組みを考えることが必要かということをきちんとわかってもらうには、まず環境問題とは本質的に何が大切かということを説明しなくてはなりませんので、網羅的に環境問題を丁寧に説明したわけです。そして環境税的なものをその中に位置づけて、個人、企業、行政の役割を整理していったものとしては、今でもこれが一番いい解説書だと、私は勝手に思っています。


NPO法案づくり

幸田 構想日本の最初のお仕事として市民版NPO法案を発表なさいましたね。
加藤 構想日本の設立準備をする間に、限られたスタッフや資金でどうやって仕事をしていくかという、仕事の進め方についての実験も兼ねてやったのがNPO法案です。これは当時の5党の法案と比べても一番先進的で、NPOは登録さえすれば自由につくれますという内容です。
幸田 私が今回のNPO法で残念だと思ったのは、税の控除の問題です。これが認められていないのは、先進国の中で日本くらいではないですか。
加藤 私はそこはきちんと整理をしなくてはならないと思います。役所が税金をかけたり免除したりするのは、公権力の行使の最たるものですね。ですからNPOの法人格を認めると自動的に税の優遇措置がつくとなれば、官庁は税金を免除してもいいかきちんと判断しなければならない。そうなると法人格を認める時点でのチェックが大変厳しくならざるを得ない。私はそうではなく、NPOの法人格は登録すれば自由に取れる。その上で業務や財務の内容を公開して、それが世の中で役に立っていると認められたものに対して税金の免除をするという二段構えにすべきだと思います。
幸田 NGO、NPOなどに対するバックアップのあり方はどうあるべきだと思いますか。
加藤 NPO自体の所得を優遇する税とそこに行われる寄付に対する税の二つがあります。大蔵省を含めてこれまでの伝統的な考え方というのは、税金として全部いったん国庫に納め、国が予算としてそれを割り振るのが最もフェアでありベストであるというものです。寄付というのはそれを経由せずに民から民への移転ですが、それをもっと認めるということが、民間が公共的な役割をこなしていく上で大事だと考えます。
幸田 世界の動きを見ていても、NPOにお金をすべて寄付してしまって税金が一銭も入らないというおかしなことは起きていませんでしょう。変な団体がNPOをつくってしまうのが心配ならば、チェックを厳しくすればいいのではないでしょうか。
加藤 NPOを認めることと非課税にすることを分けなければならないと申し上げたのはそこなんです。法人格の取得は自由にする。株式会社の中にだって暴力団がつくったものなど山ほどありますからね。その後、ディスクローズさせて実績を見ればいいわけです。公益を判断するのは世の中であって、役所ではないということが非常に大事だと思います。
幸田 構想日本のNPO法案にはその点は入っていたのですか。
加藤 そういうことに少しは言及していましたけれども、国のレベルで税金をまけるというのは非常に難しいですから、その後、地方で住民税の中から寄付を控除したらどうかというNPO支援のモデル条例と民法そのものを変えるという案をつくりました。これからキャンペーンをしていこうと思っています。
幸田 それは誰に訴えるのですか。
加藤 いろいろなやり方がありますが、一つには、国の制度を変えていくのは大変だけれども、地方から変えていけば国も考えざるを得ない。寄付金について住民税から控除するというのは条例でできます。それなら有力な知事がいる地方自治体でそれをやっていけば、国の制度を変えようとするよりはおそらく早道ではないかと思います。


世の中を変えるために

幸田 先日月刊誌で発表されていた「日本国のバランスシート(賃借対照表)」のレポートを興味深く読みました。構想日本が時間をかけてつくった政策や提言はみんながただで使っていいということなのですか。
加藤 われわれの目的は世の中を変えることだけです。われわれは誰か特定の人や政党の委託を受けているのではない。ビジネスでやってるのでもない。自分たちが正しいと思うものを一方的に出していくだけです。NPOの条例にしても、行政改革の設置法の改正案にしても、とにかく政策は公のものであり、それは世の中にどんどん出すだけです。世の中がその政策を正しくないと思えば、われわれが出したものは使われないということでしょう。
幸田 いろいろなシンクタンクがありますが、まだ珍しいのではないですか。
加藤 本来のシンクタンクはそういうものだと思っています。だから私は日本にはまだ本来のシンクタンクはないと思っています。われわれはただでどんどん出しているわけですが、それは役所が税金でまかなわれているのと同じことです。NPOに対する寄付と同じで、会員の会費は「公的な資金」なのです。そして、実績としてわかっている人はきちんと認めてくれていますし、なんと言っても設置法の権限規定解除を実現させたのと日本国のバランスシートをつくったのはわれわれです。それが認められれば、会員たちは引き続きサポートしてくれるわけです。
幸田 今日はありがとうございました。
(99年4月20日東京都内にてインタビュー)

インタビューを終えて
 
 環境問題での前進に必要なのは、「プロデューサー」ではないか、と思うことがしばしばあります。「プロデューサー」とは、本当に重要な価値は何かを明確にする問題提起をして人びとを動かしたり、従来の考え方にとらわれない自由な発想で解決手段をあみ出したりする、創造的な個人やグループのことです。
 地域にあった住民参加の取り組みを考える場合にも、企業が環境負荷の少ない商品を開発する方向に路線を転換する場合にも、そうした役割を担う人びとの存在が、きわめて重要だからです。
 公共政策の分野でも、このコーナーで以前取り上げたアメリカのシンクタンクのEDF(Environmental Defense Fund、環境防衛基金)が良い例でしょう。経済と法律という異分野のエキスパートが手を組んで、二酸化硫黄(SO2)の排出権取引という思い切った考え方を提案し、アメリカ政府が導入に踏み切りました。
 加藤さんが始めた「構想日本」のような新しい型のシンクタンクが、フレッシュな提案や鋭い指摘をどんどん行い、政府や自治体もそれを歓迎して政策に反映させる−そんな仕組みが育ってほしいと思います。(幸田 シャーミン)



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