第37回 三澤 千代治(みさわ ちよじ)さん(ミサワホーム社長)
<プロフィール>
1938年(昭和13年)新潟県生まれ。60年日本大学理工学部建築学科卒業後、三澤木材(株)に入社。67年ミサワホームを設立。現在、通産省産業構造審議会委員、国民生活審議会委員などで活躍中。主な著書に『放夢』(1998年、プレジデント社)など。


自然の理にかなったことがこれからの住宅づくりに必要ですね
「ゼロエネルギー」住宅とは



幸田 ミサワホームといえばゼロエネルギー住宅、環境配慮型の住宅に大変力を入れていらっしゃいますが、消費者の反応はいかかでしょう。
三澤 2年くらい前までは精神論のようなもので、経済的にはプラスではないという雰囲気がありました。今は経済的に得な状況に変わってきました。お客様自身にプラスになるということが多くなってきたと思います。
 今、言われているゼロエネルギー住宅というのはイメージ商品なんですね。将来マスプロになるという前提で準備しているのです。1年に4万戸家が建っているのですが、その内ゼロエネルギーは600戸です。
幸田 ではもうすでに600戸建ったのですね。ネーミングは素晴らしいのですが、本当にゼロエネルギーなのでしょうか。
三澤 にわかに信じがたいですよね。まず電気代がいらなくて、ガス、石油がいらないわけです。井戸を掘れば水道代もいらないということになります。家庭に外部から供給しているエネルギーがゼロになるということです。
 昼間発電した電気を東京なら東京電力に売っておくわけです。雨の日や夜は、東京電力から買うわけです。メーターが二つ付いていて、売った量と買った量を精算してゼロエネルギーになるのです。
幸田 ゼロエミッション住宅の特徴の一つはソーラーで電気を賄うことですね。それ以外は何ですか。
三澤 全部で三つあります。二つめは建物の断熱材にゲルセラミックというスペースシャトルの外壁に使われたセラミックが1cmくらい貼ってあることです。それが高断熱なのです。もう一つ、技術面で、この部屋の熱を隣に持っていくとか夕方までためておくとか、熱の移動ができるようになったのです。これと、セラミックの断熱材の壁と太陽光発電と三つ一緒になってゼロになる。
幸田 その住宅は少し割高ですか。
三澤 割高にすると売れないですからね。太陽光発電システムに600万円かかるのですよ。国が300万円補助しますから、300万円くらいうちが損しているのかもしれない。
幸田 そのイメージ商品は会社にとってプラスに働いたとお考えですか。
三澤 住宅展示場に5割くらい多くお客さんがみえるようになりました。


住宅づくりから街づくりへ

幸田 日本では温暖化防止対策と住宅づくりがまだ十分に関連づけて一般の消費者に伝えられていないような気がします。温暖化防止対策というねらいがあったのですか。
三澤 環境問題は大げさな言い方をすると、人類滅亡につながるような話ですよね。
 そもそも住宅業界というのは、環境について世の中に迷惑をかけてきています。不法投棄の80%が建築廃材ですからね。住宅業界では年間130万戸くらい建つとすると、資源を5,000万t使っていますし、建物の耐用年数がまた短い。
幸田 日本はすごく短い。
三澤 平均で26年です。ですからいろいろな点で世の中に迷惑をかけてきた、ちょっとこれは直さなくてはいけないなということです。環境面では六つほどあります。建設廃材、資源、室内環境、耐用年数、最後に街づくりということになります。お客さまの損得に一番関わるのが街づくりなのですね。
幸田 それはどのような意味ですか。
三澤 街の景観が50年経ってよくなると住宅の価値も高くなります。もうこれからは土地の値段は上がらない。街づくりについて住民協定をして、四季折々に花が咲く植栽計画とか、木と鳥の関係を調べるとか、自然環境について積み重ねをきちんとやっていくと、100年経つと住宅は3倍くらいの価値になると思います。
 住宅会社の営業マンというのは、なんとなく「詐欺」をしているような感じがあるのですね。建物は税額を出すための評価等で10年経つと完全にタダになってしまうのですから。今まで土地代は上がっても上物はタダだよという日本の常識があるわけです。しかし、10年経ってもローンはしっかり残っていて上物の財産価値は半分、3分の1になってしまう。それで「詐欺」といったわけです。それではどうするか。環境をよくすることによって、値上がりする要因をつくっていくということなのです。
幸田 そうすると一つの建物だけではなくて、他のメーカーがつくった建物との関わりも見ているわけですね。
三澤 例えば電柱を埋設するのはお金がかかりますから、家の裏側に通す。アメリカはそういう例が多い。それから塀は道路からセットバックして、塀の前はお花畑にすれば、ずいぶんきれいな街になりますね。


長もちする住宅と日本建築

幸田 100年もつ住宅の条件は何だとお考えですか。国の政策もスクラップ・アンド・ビルドではなくて100年住宅のかけ声はあがっていますよね。
三澤 構造を100年もつようにしておいて、中のインテリアを5年、10年で変えるということを考えなくてはいけません。問題はリフォーム代が高いこと。これは私どもが悪いのですが、新築の家をつくる時にリフォームすることを考えていない。昔の家は畳を替えればいいとか、障子を貼りかえればいいとか、リフォームのことを考慮にいれたのが日本建築だったわけですね。
 今、リフォーム代が今の半分くらいになる住宅を考えています。例えば、古いじゅうたんをはがして捨てるのではなく、じゅうたんの上に貼れる合板を開発中です。最初から2枚の壁紙がありまして、汚くなったら1枚をはがすのです。紙というのは1回ペンキを塗れます。ですからこの紙2枚とペンキとで合計3回使えます。1回につき100円くらいのものです。
幸田 知恵ですね。ドイツでうらやましく思ったことは、市営住宅などにもペアガラスが標準装備されていて、普通のガラスと値段がさほど変わらない。ゼロエネルギー住宅にも採用されているのですか。
三澤 三重になっています。2枚では不足で3枚。ただ100年もつ家も手入れしてあげなければいけませんね。50年の間にメンテナンス代が家1軒分かかりますから、100年間に2軒分の代金。今までの家が25年としますと、4軒分ですから費用は半分にはなります。
幸田 これからも環境を重視した商品を打ち出していこうとお考えですか。
三澤 いろいろやってみて思うことは、日本建築というのはものすごくよくできています。玄関で靴をぬぐというのは日本だけのもので、家の中が清潔です。
 また、ドアというのは場所とりますよね。引き戸というのは場所をとらない。少し開けておくこともたくさん開けておくこともできる。これを考えた日本人というのは、やはりドアを考えた西洋人よりも優秀だと思うのです。
 極めつけはお風呂です。一日の疲れがとれるように長く入っていますよね。シャワーで洗うのとはわけが違う。それで身体の健康を取り戻したから、80歳まで平均寿命が延びた。それから風呂に入っている間に反省する。風呂から出るとすぐ眠れないから、新聞を見たり本を読んだり勉強したりする。だから風呂というシステムは健康を取り戻して、反省して、勉強する、それを365日やったから日本は高度成長したと指摘する大学の先生がいます。おもしろいのは、「湯」というのは英語にないですよね。湯というのは日本人の大発明だというのです。
 富豪のロックフェラーが住んでいるのは日本の数寄屋建築です。世界一の金持ちで世界一の文化人が日本家屋を選んでいるというのは、日本家屋が非常によくできているということだと思います。
幸田 日本建築の方が値段は高いのですか。
三澤 プレハブの10倍くらい。それで今思っていることは、古い正しいことを新しい方法でやる。それしかないのかなと。どう考えても日本家屋の方がいいと思います。寝室はどちらがいいかな、居間はどちらがいいかなと比べてみると、洋風が絶対にいいというのは2カ所だけなんです。それはトイレと台所。あとの部屋は日本の伝統的な住まい方というのが正しいですね。それを今時の工法でどうやって生産するか。自然の理にかなったことがこれからの住宅づくりに必要ですね。
幸田 社員の皆さんの反応はどうですか。
三澤 よく環境の問題はコスト高などという話がありますが、われわれは環境の問題をやること自体がコストダウンだという認識です。
幸田 ありがとうございました。
(1999年5月28日東京都内にてインタビュー)

インタビューを終えて

 建物はエネルギーを消費します。工場、オフィス、そして私たちの住宅も。その使い方だけでなく、設計・施工次第でエネルギー量に大きな違いが出てきます。
 三澤社長のお話をうかがって、これからの家づくりにあたっては、地球温暖化の予防対策として、次の点を考慮に入れる必要があると思いました。
 第一に、建物そのものの寿命を延ばして、立て替えやリフォームのたびに発生する廃棄物を減らすこと。第二に、断熱材や窓ガラスなどの素材にこだわり、冷暖房のエネルギー消費を節約すること。第三に、これからは単なる電力の消費者だけでなく、個々の家が発電所としての機能も持ち、電力会社のパートナーとなり得るということです。
 環境によい暮らしは健康にもよい暮らし。これからも環境にやさしい家づくりの技術やエキスパートを育ててほしいと思いました。
(幸田 シャーミン)



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