<特集>新年座談会 「環境省に期待する」
出席者:岸 ユキさん、松田美夜子さん、幸田シャーミン
司 会:清水 汪さん
<プロフィール>
岸 ユキさん(きし・ゆき)
1983年、NHK「明るい農村」、テレビ東京「岸ユキのふるさとホットライン」などの農業番組で日本の農山村300ヵ所あまりを歩く。現在、日本文字放送番組審議会委員、農林水産省村づくり塾百人委員会委員、中央環境審議会水質部会審議委員、海上安全船員教育審議会委員などを務める。山梨県韮崎市で自ら300坪の畑を耕し、土とのふれあい・関わりから、農業の活性化と地域づくり、エネルギー問題など幅広く農業問題、環境問題に発言を続けている。
松田 美夜子さん(まつだ・みやこ)
リサイクルシステム研究家。結婚後、埼玉県川口市への転勤をきっかけに生活者の視点からゴミ問題に疑問を投げかけ、いわゆる「川口方式」の発足に関わった。以降、日本全国、また欧州などのゴミ問題の取材を重ね、現在は通産省産業構造審議会専門委員として容器包装リサイクル法や家電リサイクル法の推進に力を入れ、まちづくりの中心課題としてゴミ問題をとらえ、市民、行政、企業をつなぐ役割に意欲を燃やしている。著書に『ごみはすてきな魔法つかい〜あの都市この町ごみ奮戦記』(1992年、日報)など。
清水 汪(しみず ひろし)さん
(財)地球・人間環境フォーラム理事長


幸田 シャーミン(こうだ・しゃーみん)
1980年からNHK「海外ウィークリー」、フジテレビ「スーパータイム」などでキャスターを務める。92年に米国ハーバード大学政治行政学の修士号を取得。現在、中央環境審議会委員、文部省生涯学習審議会委員などを務めるほか、環境問題に焦点をあてた「アース・コンシャス21」(TOKYO FM毎月第1金曜日朝5〜6時放送)のコメンテーターなどで活躍。本誌「幸田シャーミンのエコインタビュー」ではエコビジネスや環境教育のリーダーたちにインタビューを重ねている。
増す環境行政の役割と環境省の誕生

清水:2001年の発足を控えた環境省への準備はすでに始まっています。新しい省庁の編成を決めた法律も成立しています。
 環境庁は現在、環境基本計画の見直しを進めており、持続可能な社会を実現するためにはどのような社会的仕組みが必要か、新しい社会経済システムはどうあるべきか、といった観点から作業を進めています。それと並行して、ご存知のように1999年4月には温暖化対策推進法が施行され、行政だけでなく事業者・一般国民がこぞって温暖化対策に取り組む枠組みができました。
 本日は、そのような国の動きも視野に入れながらお話しを進めていただければと思いますが、まず、環境問題との関わりについて自己紹介がてらお話しいただきたいと思います。さらにそれぞれのお立場で環境問題に取り組まれている皆さんですが、これまでの活動を通じてわが国の環境行政で失望した点、物足りないと感じたことがありますか。岸さんからお願いします。
岸:環境問題と関わるきっかけは農業をやり始めて、そこから地域の活性化、そして環境問題という関わりです。さまざまな審議会などにも参加させていただいて、まず初めに非常に難しいことを審議するのだなと一人の生活者としては感じました。新聞などで報道されていることを見ても環境問題自体が大変難しい。これをきちんと理解している人がいるのだろうかと。行政のすることは意味があるとは思うのですが、生活者とのギャップがあまりにも大きいなという印象です。国民一人ひとりの環境への意識となかなかつながっていないと感じました。
幸田:私と環境との出会いは、テレビのニュースキャスターをしていた三十代を迎えたばかりのときにライフワークになるような専門テーマを持ちたいと思ったことです。ちょうどそのころ地球環境問題がクローズアップされてきました。とくに地球温暖化の情報に接したときに、「本当にこんなことが起きつつあるのか。もしそういう状況であれば、大変なことだ」と。そして、環境行政とリーダーシップ論を米国留学で学びました。環境問題の解決を前進させていくためにはリーダーシップは欠かせないということを感じました。そういうところから始まりまして、まだまだ勉強中ですが、ほぼ環境一筋になりそうな気配です。
 環境行政に対する希望はあります。環境庁だけではできないことが多いのはわかっていますが、例えば、廃棄物の排出抑制のための施策がまだ不十分だと思います。これは環境庁だけでできるわけでなく、他省庁との連携が必要になる。同じように、経済的手法が環境問題に対して現時点ではほとんど取られていないという点も、環境庁だけでは変えられない。他省庁への働きかけや他省庁とのパートナーシップにより一層力を入れ、関係業界や他省庁の理解や協力を得る必要があります。
 環境基本計画の見直しの中で、生産と消費パターンを持続可能なものに変えていくことが大きな目標となっていますが、具体的にいつまでに何をするべきかということについてもう少し明確に打ち出していく必要があるのではないでしょうか。同時に、そうした各省庁の施策を客観的に評価できる手法も必要だと思います。
松田:私の環境への取り組みは、埼玉県川口市に引越しをしてゴミの出し方が違う、びんや缶がリサイクルできるということを初めて知って、それからです。それまではまったく普通のお母さんでした。
 これから環境庁の中で力を入れていただきたいと思っていることは、有害廃棄物の管理。これほど遅れているものはほかにないくらい。政策の道筋を「今はこうだけれど、がんばっていけばこうなるんだ」ときちんと見せながら国民に対して説明していただきたい。
 次に私たちが今一番思っていることは、環境庁が省になるように応援したのですが、環境省は環境庁とどう変わっていくのかということが私自身あまりよく見えないので、知りたいなと思っています。
国民と向き合う行政

清水:それでは逆に、良くやったと思われる点、進歩したと思われる点はどんなことですか。
岸:私のような者を審議会のメンバーに入れて意見を聞こうという気持ちはすごいと思います。何十年間も当たり前のように見直されなかった数字が考え直されたりしています。私のような素人の意見を聞いて、そしてそれをなんとか生かそうとする姿勢は素晴らしいと思います。それに期待したい。
清水:特定の組織に属していて、その利益を代表するような方々がいる中で自由な発言ができるというのは貴重です。
幸田:私は二つ挙げたいと思います。まず、OECD(経済協力開発機構)諸国の中で一番最後になりましたが、アセスメント制度が法制化されたこと。しかも環境庁長官がいつでも意見を言えるようになったことは非常に大きな前進だと思います。さらに、スクリーニング、スコーピングという二つの段階で市民が意見を言える機会が担保された、プロセスの中に組み込まれたということも大きい。
 もう一つはこどもエコクラブです。昨年、グローバル500を受賞しましたが、環境問題は私たちのライフスタイルや価値観・習慣に関わってくる。子供なりの感性で環境と触れ合い、自分のコミュニティについて考え、行動する機会になっている。素晴らしいプログラムだと思います。
松田:私がうれしく思ったのはダイオキシン対策を非常にすばやく行っていったということです。日本は清掃工場から出るダイオキシンがひどかったのですが、環境庁はこの点について整備をして、1年間で国内の発生量を、6,330g-TEQ/年から2,900g-TEQ/年に減らしてしまった。さらに99年3月に決定された「ダイオキシン対策推進基本指針」において、99年から4年以内にダイオキシンの総排出量を97年比で約9割削減することを決めました。環境庁は本当にがんばりました。
 また、私のように市民レベルの活動をしていますと、女性たちは肩書きがないとなかなか活動ができないことがわかります。環境カウンセラーはすでに活動をしている人たちに資格を与えるという意味で大きい。こどもエコクラブとあわせてソフトをつくった点でとてもいいです。
岸:「日本の水浴場55選」や「名水100選」などは地域おこしにつながります。3年ごとに見直されるので各地域がそれに向けてがんばる。これによって各地域が意識を高め、また同じ課題を持つ人びとの間の情報交換を促してもいます。
松田:環境庁の審議会では女性の割合が高い。さらにNPO(非営利団体)が必ず入っています。国民サイドの意見を聞いてくれるのが環境庁だという感じがします。
清水:NPOから信頼されるということになれば環境庁はいいですね。
 各省は業者行政、つまり監督する業界が特定され、そこと情報をやり取りする。環境庁は対話の相手が広範囲で、ある特定の範囲に固まっていない。こういう中で、どうやって役所の考えていることを世の中に通すか、または情報をキャッチできるか、という点から、相手とのパイプを強く持つということは必要でしょう。
小さい役所でも大きな存在価値が問われる時

清水:そこで、環境省がいよいよスタートするわけですが、環境庁の悩みは職員が約1,000人、年間予算も860億円(99年度)という小さな役所ということです。省になると廃棄物対策や森林保全などの業務が取り込まれ、予算や人員も増えることになります。従来、環境庁は各省庁のお目付け役、調整官庁とも言われていましたが、省になるとかなり事業官庁としての色彩も強まりそうです。例えば廃棄物行政では廃棄物処理業者への監督、つまり業者行政のようなものも抱えることになる。そこで、環境省の役割ということで皆さんからご意見を伺いたい。例えば自動車のグリーン税制の提案が環境庁からもなされていますが、環境税等の市場メカニズムを取り入れた政策づくりをもっと他省庁に働きかけリーダーシップを発揮する必要もあるのではと思われます。21世紀に環境省に昇格するにあたり、存在価値を発揮していくためにはどういう点に努めていくべきでしょうか。
岸:農業から環境問題に携わる人間としては、農業を徹底的に環境という部分でなんとかしていかなくてはいけない問題だととらえています。農業は食べ物を作っているということで聖域のように、立ち入ってはいけないと思われていたようです。たしかに今は立ち入ってしまうと何も作れないというパニックの状態になってしまう危険性もあるのですが、農業と環境という問題は国土保全という意味で非常に大きい。他省庁とのパートナーシップが先ほど触れられましたが、農林水産省をはじめとする他省庁との連携が必要です。50〜100年というスタンスで取り組んでいただかなくてはいけない問題だと思います。
松田:私が一番心配していることは、今までは体は小さいけれどかみつく役割をしていたのが環境庁だった。何にでも「いけない、いけない、いけない」と言って自分の存在を認めてもらいたいからがんばってきた。省になるからといって安心して気が抜けてしまっては困ると思います。やはりかみつく役割をもっとしてほしいから省になっていただいたのであって、そこをはき違えては、何のために私たちが環境省になるときに応援したのかわからなくなる。国民は怒ってしまいますよ。
 原子力政策にしても何にしても政策づくりにおけるチェック機能が今のところ身内で行われているけれど、何の役にも立たない。ヨーロッパの場合は国からも独立した形のチェック機関が権限を持っている。これまでの環境庁のチェック機能を強化するように政策を補完していかなくてはいけない。ここのところで手を抜いてしまったら、環境省も自慢できる役所にならず、いわゆる業者行政になり、期待はずれということに終わってしまうのではないでしょうか
清水:かなり厳しいご指摘ですが、そのとおりです。PRTR制度もOECD加盟国の中では日本の法制度化は遅れたわけですが、システムとしては情報公開と市民監視が基本です。厳しい法律の規制があるわけではなく、情報を公開して市民が監視するというシステムで化学物質の排出量が減っている。そういう意味では、PRTR制度も法律の内容は通産省との関わりの中で足りない部分もありますが、皆さんご指摘のように情報が開示されてそこに市民がいかに参加していくかがカギになる。
幸田:環境庁は、国民が自分たちで判断できるように材料となる情報・データを収集し、どんどん発信してほしい。
ちょっと不便でも賢い生活を

清水:反面で環境問題の解決には一般市民、あるいは消費者のライフスタイルの見直しが重要な役割の一つを担っている。例えば温暖化防止対策として6%の二酸化炭素の削減を実現するにはそれぞれのセクターがどのような決意をすべきだとお考えですか。とくに私たちのライフスタイルの見直しという点をどのようにお考えですか。環境庁は各都道府県に温暖化防止対策推進センターを置くことになっていますが、センターの役割には一般市民や社会的な生活者としての企業への働きかけをすることがあります。
幸田:一般市民にとっては自分たちの日常生活と温暖化との関係を理解することが大事です。例えば家の管理の仕方を含めた日々の暮らし方や習慣についての情報提供がもっと必要だと思う。日本の場合は、ヨーロッパやアメリカの一部の州に比べて、建物の造り方や設備の選び方を温暖化対策の一つと位置づけた情報提供や施策、インセンティブが少ないように思う。もう一つは、今まで私たちはものをふんだんに使うことを豊かさ
の象徴とし、節約することをけちと考えてきた。資源の節約は決してけちなことではなく、大変大事なことだと考える必要があると思います。
岸:私は山梨で地元の大工さんに出会って、非常に実質的でいい家を建ててもらいとても健康に暮らしています。今、木造の家が欲しいと思っても大工さんを知らないからどうしていいかわからない、そこで大手の会社に頼んでしまう。大手がすべて悪いわけではありませんが、いかに経費を削減しようかということに集中する。しかも、日本の山には木があふれている。戦後植林した木が荒れ放題になっている。水も汚なくなっている。国土保全という根本的なことを国としてもう少し真剣に考えていただきたい。山から木を切り出して家を建てるというシステムづくり、組織づくりを根本的に考えてほしい。
幸田:加えてこれは環境庁だけの問題ではないのですが、「100年住宅」を造ろうという構想がある一方で、長持ちする良質な建物ほど固定資産税が高くなるような仕組みになっている。造るときに補助金が出ても毎年の税金が高くては100年持つ住宅を造ろうという気持ちは起きない。「100年住宅」の基準をつくり、それを満たせば税の優遇が受けられるような制度も必要ではないでしょうか。
岸:自分たちのライフスタイルの話では、市民の間では例えばリサイクルの意識が結構高い。缶、びん、ペットボトルも分別し過ぎてリサイクルできずに余っているという。大量生産・大量消費というシステム自体に限度があるのではないでしょうか。便利だからといって今度は小さいサイズのペットボトルなどが出てきたりして。
 環境庁に期待すると同時に私たち一人ひとりの意識改革がとても大切だと思います。自分の生きていく考え方なのですが、ちょっと不便な生活をするということ。便利さの恩恵にどっぷりつかってしまうのではなく、ちょっと足元を見つめ直す。私の場合は土を耕し始めたのですが、一人ひとりにそういう意識が必要なのではないかしら。世の中がこうだから私もこうではなくて、自分でちょっとしたことを見つけていくと、集まればものすごいエネルギーになるはず。
清水:ちょっと不便で、ちょっとけち。でも、質の高いライフスタイルがありますね。
岸:賢く暮らしていくということです。
松田:そしてちょっとおしゃれで、ちょっと楽しい。
岸:苦痛になってしまってはいけません。楽しく日常的に。
ふくらむ環境省への期待

清水:全体を振り返りまして、21世紀に飛び立つ環境省に何をやってほしいかということに戻ります。小渕総理の言う「2000年を循環型社会元年」ということになると大きな課題は何でしょうか
岸:私は環境教育に期待いたします。山梨県韮崎市で約300坪の畑で季節の野菜や果物を作っていますが、完全無農薬という中では雑草も虫も元気です。自然と共生するなどとよく言いますが、一般的には土や虫は汚い、恐いという感覚です。また兵庫県で「ひょうご森の倶楽部」という森林ボランティアにも関わっていますが、都会からやってきた人たちは山で多くのことを学んでいます。
 環境というのは非常に大きな範囲で、山に健康に木が育っていて、里が健康に耕されていて、最終的に海の健康が保たれるという、そんな環境の意識の広がりを皆の心に育ててほしいと思います。自然に実際に触れて学ぶという教育が必要だと思います。
松田:「循環型社会づくり元年」という言葉にちらちら見えてくるのは、直感なのですが、大量生産・大量消費の図式です。情報産業、高齢化、環境はビジネスとして非常にもうかる分野だととらえられているのですが、やはりその図式から抜けていないような気がします。そうなるとただゴミが増えるだけ。環境庁にはこのあたりのコンセプトをきちんと打ち出していただくことが必要です。
幸田:循環型の社会経済の実現のためには税制の改革も重要でしょう。それには大蔵省の理解と協力が必要です。環境にとって悪いことをすると得をするようでは改善されない。例えばドイツでは労働に対する税を減らしてエネルギーに対する税を増やし、全体で増税にならない税制改革に取り組んでいる
松田:税金の使い方を、例えば環境税は環境のために、企業の研究開発、NPOの活動費などに使いますよということをはっきりとしてくれればうまくいく。ヨーロッパは非常にうまい。日本では納税者の被害者意識ばかりが先行します。
清水:最終的には税制は大蔵省が扱っているのですが、環境庁自身も自ら税制のことについて検討チームをつくって、遠慮しないでものを言う必要がある。大蔵省だけに直接言う必要もない。むしろ世の中に向かって、日本のこれからのあり方をおっしゃっていただいても構わない。
 環境庁は72年に発足して30年を迎えようというときにちょうど省になる。いい時機だったのですね。今日はありがとうございました。
(1999年12月16日東京都内にて)



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