第51回広中和歌子さん(参議院議員、森林と持続可能な開発に関する世界委員会メンバー)
<プロフィール>
参議院議員、民主党
副代表、元環境庁長官。お茶の水女子大学卒業後、アメリカへ留学。ブランダイス大学院文化人類学修士課程修了。20年の滞米生活の後、教育、文化、女性の社会参加などの分野で講演、対談、翻訳、エッセイ出版など広範囲に活躍。1986年、参議院議員に初当選。以来、3期連続当選。98年、新・民主党結成に参画、副代表に就任し現在に至る。89年GLOBE(地球環境国際議員連盟)Japan事務総長に就任。現在は副会長を務める。アース・カウンシル地球憲章委員会委員、森林と持続可能な開発に関する世界委員会(WCFSD)委員、ユネスコ・国際科学諮問委員会委員、地球環境ファシリティ(GEF)上級諮問委員会等、環境分野を中心に国際的な活動にも積極的に参加
木材輸入に関税をかけ、そのお金を国の内外で植林に使おう
森林問題が深刻化する中で
幸田 広中さんが個人のお立場で参加していらっしゃる「森林と持続可能な開発に関する世界委員会(WCFSD)」について伺えますか。スウェーデンのウルステン元首相とインドネシアのサリム元人口環境省大臣が共同で議長を務めているのは、南と北の国の立場から森林問題に向き合おうということなのでしょうか。
広中 リオの地球サミットでは地球温暖化防止、砂漠化防止、生物多様性の保護に関する条約の成立が決まりましたが、森林に関しては原則声明という形で終わっています。しかし、森林に関わる問題は減るどころか深刻さを増すという状況の中で、元スウェーデン首相のウルステンさんも参加していた世界の首脳が集まるOBサミットで世界的な取り組みが必要だということになったのです。私のところに具体的なお話として持ち込まれたのは1994年です。
幸田 広中さんは環境庁長官もお務めになり、環境行政全般に精通しておられますが、森林問題に取り組むようになったきっかけは何ですか。
広中 環境庁長官のときには環境行政の中に国立公園以外の林野行政は入っておりませんでしたから、それほど深く関わったわけではありません。ただ前からなんとなくおかしいと思っていることがありました。 日本は最大の木材輸入国で、同時に日本の森林面積は67%もある。ある時、外国人から「日本は木材の輸入大国なのに森林がたくさんありますね」と言われました。そこで「日本人というのは山や木々には神が宿っていると考え、森林を非常に大切にする国民なんです」と言ったんです。そうしましたら「よその国の森林は大切にしないんですか」と問い返されました。それを私は非常に重く、恥ずかしく受け止めたわけです。終戦直後は木材としての森林の利用価値が非常に高くて、国産材への依存度は50%くらいだったのです。だんだんその比率が減って今では20%です。安い木材がどんどん外国から入ってくる。日本の森林を手入れして育てていくよりは、外国のものを買った方が安くつく。こういうことを考えると、森林問題というのは自国だけでは解決できない、国際的に扱わなければならない問題だと思ったわけです。 木材にも波打ち際で高い関税をかけ、そのお金を国の内外で植林に使うようにしたらいいのではないか、そうすれば日本が世界を視野に入れて、森林資源を大切に考えながら暮らしているというイメージになるのではないか――。私は森林の専門家ではないのですが、そういう視点から、ぜひ参加してみたいと思ったわけです。
政府に任せておいては解決しない
幸田 関税はWTO(世界貿易機関)との関係が問題になるでしょうね。
広中 ええ。農水省、林野庁はWTOがあるからだめですよと言うし、WTOに貿易と環境委員会というサブコミッティーがつくられましたが全然動かない。それからIPF(Intergovernmental Panel on Forest、森林に関する政府間パネル、1995年に発足)なども政府間の交渉ごとで非常に難しいわけです。つまり政府に任せておいては解決しないということです。 そういう中で民間の立場から民間の人の意見を取り入れながら、つまりそこで生活している人びとの声なども聞き、森林専門家に幅広くヒアリングしながら森林政策を考えていこうというのが委員会の目的です。今回の「森林と持続可能な開発に関する国際会議」もその一つです。
幸田 委員会から『我々の森林、我々の未来(Our Forests, Our Future)』という報告書が出ていますが、読ませていただいて大変衝撃を受けました。世界の25ヵ国で完全に森林が消滅、18ヵ国で95%以上の消滅。全体で60億haもあった地球の森林が今は36億haにまで減少しているという。報告書は地球の現状について「森林衰退は激烈である。我々がいくつかの選択を行わないかぎり、森林衰退はこの惑星の本質的な特性と人類の営みを、数年間のうちに変化させる可能性があると推測される」と指摘していますね。
広中 例えば中国に最近行ったのですが、揚子江流域で大洪水がありましたね。かたや黄河の方では断流がある。つまり水が河口部まで全然流れない時期というのが毎年毎年長くなっている。そのうち北京から遷都せざるを得ないような状況だろうと朱鎔基首相は危機感を抱き、これからはいっさい自然林を切ってはいけない、植林をどんどんしていこうと最近言われてます。
幸田 日本で環境問題の重要性を総論として話す政治家は増えてきていると思うのですが、森林問題とか温暖化防止のような具体的な問題になると、政治家の発言はあまり聞こえてきませんね。
広中 ゴミ問題は、否応なしに自分たちの問題としてせまってきているから関心を持ち始めている。企業も環境産業のチャンスだと考え始めている。だけど森林に関しては自由にどんどん外材が入ってきますからね。
幸田 木材の輸入を制限しようとすると、国内的に反対が強く出てくるのでしょうか。広中 先日の会議で、製紙会社の人に、日本の間伐材をもっと使ったらいかがかという意見が出ましたが、営利企業としては、間伐材は高すぎて国際競争力がなくなると言っていました。だからビジネスと個人の利益、公共の利益が一致するような形にシステムをもっていかなくてはならないと思いますね。 もう一つ今度の会議でわかったことは、林産業の人たち、つまり国有林でない、自分たちで山を持っている人たちというのは、ネットワークがないというのです。農家ですと、農協を通じて一つの政治的圧力団体になっていますよね。
森林の持つ多様な価値を多面的に評価
幸田 世界委員会では「森林はパブリック・トラスト(公衆から託された受託物)である」という考え方から“フォーレストラスト(ForesTrust)”という仕組みを提案されていますね。
広中 どうやって森林を管理していくか、やはり市民参加で森の管理をするというような動き。これからは人びとの余暇時間も増えるわけですから、市民の力で地元の森林を管理し監視する、あるいは植林をする。それを世界的なネットワークに広げていこうというものです。
幸田 もう一つ、森林資本指数(囲み)を提唱していますが、これはどういうものなのですか。
広中 ウッズホール研究センターが中心になってこれからアイデアをどんどん広げていこうとしているわけですけれど、森林の持つ多様な価値を多面的に評価する指数です。
幸田 公共的な価値を数値で示せればわかりやすいですね。
広中 例えば現在の日本で地価が下がらなくて売れているところは、環境に配慮した住宅地なんです。そういうところは非常に希少価値があるから、値段が下がっていないということらしいですよ。私は20年くらい前に日本に戻ってきて、緑に囲まれた成熟した住宅街を評価せず、ただ中古としてしか見ないのはおかしい。欧米では100年経った家でも高く売れるんだという話を住宅産業の講演会でしました。結構大勢の人が聞いていましたよ。
幸田 日本の住宅の平均寿命は26年といわれ、アメリカの44年、イギリスの75年に比べても短かすぎますね。
広中 成熟した住環境というものは、いろいろな要素があるわけです。十分歩道や自転車道があり、街路樹があったり、その周辺には森林公園があったり、しかもそうしたものを高く評価する住民がいる。そうなると、もっと森林を身近な、経済的価値のあるものとしてこれからの人は評価するようになるんじゃないでしょうか。
幸田 世界森林年をつくりましょうという声がシンポジウムの最後にありましたけれど。
広中 2005年に向けて、日本政府がイニシアティブをとって、そして総理の口からこれを国連の場で提案していただくのが希望です。
幸田 いいことですね。そして森林デーもできるといいですね。
広中 森林年やフォーレストラストのようなものが日本各地や世界中にもできると、森林の中に産業廃棄物を捨てる人とか、あるいは皆伐をしてしまうとか焼き畑農業とか、そういうものに対してチェックの目がきいてきますよね。森林というのは放っておけばいいというものではないんですよね。 文明の発展というのはこれまでずっと環境を破壊し森林を切っていったわけですが、これからは都市化がどんどん進む中でも、都市住民のために残った森林をいかに守っていくか、あるいは新たに森をつくっていくかということが非常に大切だろうと思います。
幸田 ありがとうございました。(2000年10月23日東京都内にてインタビュー)
フォーレストラスト(ForesTrust) 
 森林危機の解決に向けて、世界、国、地方レベルで、市民の参加するシステムとして提案されている。森林監視制度、森林賞、森林オンブズマン、森林経営評議会の四つの構想を提言している。衛星画像も駆使した森林監視の国際的ネットワークをつくり、国連機関もしくは国際NGOによる森林オンブズマンによって森林資源の濫用、不公正や汚職に対して権威ある判断を表明する。森林経営評議会は、持続可能な森林経営の基準と指標の確立、認証システムの促進などに取り組む。
森林資本指数(FCI=Forest Capital Index)
 森林資本の値の変化をはかる尺度。森林資本の増減、森林の公益的価値を評価するため、表面積、種の豊かさと多様性、樹木の樹齢等級、土壌肥沃度の測定値などの一連の生態学的指標を使い、統一的な数値によって示すこと。
インタビューを終えて
 あと2ヵ月で、いよいよ新世紀。20世紀は良い意味でも悪い意味でも「競争の時代」でした。21世紀は「支え合いの時代」にしたいものです。 広中さんがメンバーの「森林と持続可能な開発に関する世界委員会」は、政治、行政、科学、林業などのさまざまな専門家が、国境や組織の枠を越えて個人の立場で集まり、森林政策を市民の視点から考え、世界的な世論をつくっていこうとしています。これまでも政府間ではいろいろな話し合いの場がもたれてきたのですが、交渉が難しくてなかなか進展が見られないので、新たな角度からの試みを始めたのだそうです。 環境問題は各国の人びとが力を合わせて取り組まなければならない大きなテーマ。従来の枠組みにとらわれない、クリエイティブな支え合いの仕組みをつくっていくことが、市民レベルでも求められているように思います。広中さんたちのチャレンジは、その重要な一歩といえるのではないでしょうか。(幸田 シャーミン)




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