第53回大谷ゆみこさん(国際雑穀食フォーラム代表)
<プロフィール>
1952年栃木県生まれ。仲間の女性5人と商品企画デザイン会社を経営していたが、30歳で玄米ごはんのおいしさを知り、食べ物の研究を始める。86年には会社の仲間とともに「未来食アトリエ風」(東京都文京区、TEL.03-3269-0833)という料理研究のスタジオを開き、レストラン「Tsubu Tsubu Cafe」も運営する。90年に暮らしの拠点を山形県・小国町に移し、「いのちのアトリエ・山形」(TEL.0238-65-2775)を運営しながら、雑穀の素晴らしさを伝え、エコロジカルな食、暮らし、体、心のあり方を探求している。この2月から、雑穀食のケータリングなどを行うエコパーティー・トータルマネジメント集団「チームE」をスタートさせる。4人の子供のお母さん。著書に『未来食』(95年)、『未来食 つぶつぶクッキング』(共著)など。
国際雑穀食フォーラム代表食を変えるということは、一番身近な自然環境――自分の体内環境と本気で向き合うこと
玄米ごはんを食べたら体の中が喜んだ
幸田 「雑穀」とは具体的にどのようなものをいうのですか。
大谷 雑穀というのは、基本的には米、小麦など私たちが今、主食にしている主要作物以外の穀物という意味です。ひえ、あわ、きび、もろこし、そば。「雑」という文字には種々雑多という意味もあって、多様な穀物という意味です。
幸田 雑穀との出会いというのは、そもそもどんなことから。
大谷 私はちゃぶ台にごはんとみそ汁、つけものというような一般的な家で育ちましたが、豊かになるにしたがって今までになかった食べ物が出てきて、一生懸命食べてみるけれどどうも合わない。毎日の食事にもっと本気で向き合ってみたいという気になり、それで研究し出したんです。
幸田 それはおいくつの時ですか。
大谷 思いは20歳くらいからずっとありました。企画会社でばりばりと仕事をしていたんですが、ある時、玄米ごはんを食べる機会に恵まれて、すごくおいしくて、そのおいしさが今まで経験したことのない、体の中が喜ぶというのかな。こんななつかしい味があったんだと感じました。 穀物と野菜と海草とみそとしょう油だけで人は生きられると聞いたので、どれだけ本当かやってみようと家族中で始めたんですよ。雑穀と本気で向き合ってみると、まずおいしい。体の中のDNAが呼び覚まされるような気がする。私たちのお母さんは地球で、穀物は地球のおっぱいだなって感じました。
幸田 昔の日本人の寿命が短く、体も小柄だったのは食事の影響ですか。
大谷 調べたところ、寿命については昔が短いということはないみたいですね。山梨県に、ほとんど野菜と穀物しか食べない棡原という有名な長寿村があるのですが、そこなどは90歳以上は当たり前で、すごい斜面の畑を毎日耕していたんです。 最近わかったことですが、大陸は土地のミネラルがとても多いんですよ。だからわりと体がグーッと伸びやすい。サラブレッドなんかも日本に来て日本のえさをやっていると小さくなるっていうんですね。土地に合ったサイズっていうのがあるのでしょうね。だから急に西洋型の食事にしたり、穀物をあまり食べない食事をしていると、生理的な進化のスピードを超えてしまっているから、結局中身がもろくなっているのだと思うんです。私は最初の子が4歳の時に雑穀に変えて、それからあとの子3人を自然出産で産んで、今一番下が8歳ですけれど、大変丈夫に育っています。
雑穀は食糧不足と隠れた飢餓の解決策
幸田 肥満にはならない食事なのでしょうね。
大谷 肥満にはならないですね、絶対に。本当に健康の心配をすることがなくなって、あわを炊いたらチーズみたいになった、ひえを炊いたら白身の魚みたいだなとか、現代風のごちそうを雑穀で作るという創作遊びをしていると楽しい。レシピも2,000とか3,000になります。 雑穀を知り、雑穀を食べることにより自分の中にある本能とか記憶が呼び覚まされて、教わらなくても自分の中から知恵がわき出たり、長い歴史の中にある自分のイメージがわかるような感じになりました。日本人の場合、急激に西洋化されたので、自分たちのアイデンティティはなんだろうということがぷつんと切れている部分が、雑穀を主にした食に変えたことですーっとつながり、地球全体のこともわかるようになってきました。具体的に調べてみると、先進国で穀物を食べることはすごく大事だということが医学的にも検証され始めたり、これから地球が温暖化したり砂漠化していくときに、雑穀と現代穀物では大きな違いがある。米・小麦は、どちらかというと水がたくさんないとだめで、光合成能力が弱い。雑穀は雑草と同じで光合成能力がすごく高くて、水が米や小麦の3分の1しかいらない。気候の変動にもそれほど左右されない、肥料は少しでいいということで、耕地面積を広げられる。
幸田 環境に良い食べ物ということですね。
大谷 インドで緑の革命を推進されたスワミナタン博士は、ご自分が多収穫品種の米とか小麦を勧めてインドを自給国にしたのだけれども、白米とか小麦を食べることによって、それまで土地の雑穀からとれていた微量栄養素がとれなくなって、各地でいろいろな風土病が出ているっていうんですね。食べているのに栄養失調というのが今多くて、それを彼はHidden Hunger(隠れた飢餓)と呼んでいるのです。絶対的な食糧不足と隠れた飢餓と、この二つを解決するには雑穀しかないというのです。
幸田 Hidden Hungerは、先進国の肥満の人たちにもいえるわけですね。
大谷 そうです、みんなそうです。博士は10年前に有機農業の研究所をつくられているのですが、その中で雑穀の保護と活用プロジェクトに取り組み、世界中の講演で雑穀が大事だということを言って回っているんですよ。
幸田 今回、雑穀の食事を初めていただきましたが、きびっておいしいですね。お肉を食べてはいけないということではないわけですね。
大谷 そうですね。ただ人間の生理に合わせると主に食べるのは穀物ということです。本来人間は穀物菜食で元気に生きていける丈夫さがある。実際このまま地球人全員が今の西洋型の肉食をすると、地球が五つないと食べていけない。全体的に肉食を減らさなければならないときに、減らすだけっていうのは悲しいですよね。だから肉食ではないおいしい世界があり、高きびのハンバーグ1個食べれば肉のハンバーグを1個減らせると。肉を食べないでこんなに健康に暮らせるということを知っていれば、精神的にすごく楽だということはありますよね。
その日その日を自分らしく生きる
幸田 大谷さんはいろいろな研究に取り組んだり、国際雑穀食フォーラムを組織したり、行動力がおありになるんですね。
大谷 人間が本当に自由に生きるというのは、その日その日をどれだけ自分らしく生きるかということだと感じて、最初は食というよりも命の本来持っているメカニズム、あるいは自然の仕組みを知って、自然とハモりながら、命を最大限に発揮できるような暮らし方を探したいと思ったんですよ。その一つのキーが毎日食べる食事。もう一つは、人間が自由になるには自給しかないから、なるべく自給で生きる。それと、私も昔は病気というものが自分を襲う不幸と思っていましたが、ある時、体は自分で治そうという力を持っているので、それを邪魔しさえしなければいいんだと気づきました。それから、私は医者に行っていないんですよ。薬も18年飲んでいません。
幸田 ご著書の題名にもなっている「未来食」はご自分でつくった言葉なのですか。
大谷 そうです。「自然食」には病気にならないために我慢するというイメージがありますね。雑穀は人が元気になる食だから、それと一線を画する名前をつけようと、研究所には「未来食アトリエ風(ふう)」としたんです。そして、雑穀のおいしさを体験していただくために開いたここのお店の名前は「Tsubu Tsubu Cafe(つぶつぶカフェ)」、かわいい名前でしょ。 私の著書『未来食』は、お医者さん、栄養士さんも読んでいますし、この本を読んで料理を出しているペンションが二つもできています。レストランも福岡、名古屋、益子、多摩市、仙台、札幌とどんどん増えています。全国で未来食の伝え手が育っています。
幸田 未来食を通してこれからの地球環境問題に対してどのように貢献できると考えていらっしゃいますか。
大谷 環境というと、みんな自然環境のことばかり思うけれど、一人ひとりの人間の体という環境もとても大切です。自分の体内環境、自分の体の環境問題を解決できるようになると、自然に視野も価値観も変わるし、地球環境のことを推進する力になると思うんです。とくに、私はこれから女性が変わることで社会はすごく変わっていくのではないかと思うんですよ。自分の命と向き合う、自分の体の中のエコというものと本気で向き合う。地球環境というと大きいのだけれど、実は一歩一歩の積み重ねだとすれば、食を変えるということは、一番身近な自然環境と本気で向き合うということじゃないか。不確かだけれどこんなに確かな不思議な自然、自分の体という自然と。
幸田 たしかに自分の体も大切な自然環境なのだという視点は見逃されがちかもしれませんね。ありがとうございました。(2000年11月22日東京都内雑穀レストラン「Tsubu Tsubu Cafe」にてインタビュー)
インタビューを終えて
 世界で最も恵まれているかのように見える私たち日本人の食生活は、食料の安全保障だけでなく、人間の体内環境や自然環境の点でも、決して自慢できるものではないようです。21世紀は人口増加や気候変動などの影響で、水や食料不足が深刻化する可能性があるということを、多くの専門家が指摘しています。そうなれば、輸入頼みの日本への影響は無視できないものになるでしょう。また、私たちの飽食文化は、大量の水、エネルギー、農薬、添加物などの消費の上に成り立っていますから、その積み重ねがもたらす自然や体内の環境への影響も少なくありません。 ちなみに、米国のワールドウォッチ研究所の最新のデータによると、体重過多になっている人の率は先進国では成人の過半数を占めているところが多く、発展途上国でも増える傾向にあるのだそうです。「土地の旬のものを食べよう」という大谷さんの話には、大変勇気づけられました。私たち消費者も、何を食べるかを選ぶことによって、食料の生産や流通のあり方に変化を起こすことができそうだと考えたからです。まず「体内のエコ」と真剣に向き合うこと。それを年の初めの課題にしてみませんか。
(幸田 シャーミン)




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