第57回 谷口 正次さん(太平洋セメント専務取締役)
<プロフィール>
谷口 正次さん(たにぐち・まさつぐ)

1960年九州工業大学鉱山工学科卒業後、小野田セメント入社。その後、同社資源事業部長などを経て、93年常務取締役資源事業本部長。94年秩父小野田常務取締役(秩父セメントとの合併によって社名変更)、96年同専務取締役。98年太平洋セメント専務取締役(日本セメントとの合併に伴い社名変更)に就任。国連ゼロエミッションフォーラム理事、日本工学アカデミー会員。
産出国で大量に排出される廃棄物
幸田 谷口さんは資源の生産性の向上を強く訴えていらっしゃいますが、それはどのようなお考えがベースになっているのですか。
谷口 資源循環型社会をつくろうと叫ばれていますが、ほとんどの人は日本の国内だけで資源が循環していればいいと思っています。例えば日本のマテリアルバランスを考えますと、毎年、鉱物資源だけでなく漁業資源も木材資源も含めて20億tの物質が使われていますが、そのうち6億6,000万tが海外から入ってきています。
 この6億6,000万tは鉄鉱石とか金や銅、漁業資源も木材資源も世界中から来ている。国内にインプットされたマテリアルが循環すればいいという問題ではなくて、日本に入ってくる前の、産出国で大変自然にインパクトを与えていることを理解すべきです。
 それを良く理解した上で、資源の生産性向上運動をやりましょうと私は訴えているのです。多くの経済学者が、生産性というと、労働の生産性か資本の生産性ばかり重視し、資源の生産性をまったく無視しています。
幸田 これまでは本当にそうですね。
谷口 例えば、鉱石を採掘して金1kgを取り出すのに日本で出る廃棄物は2kgしかない。しかし日本に入ってくる前に1,360tもの廃棄物が産出国で出ています。この部分の認識が日本人に欠落しているんです。
幸田 そんなに多くを海外で出している。
谷口 私は鉱山工学の専門教育を受け、「マイニング(採掘)・イズ・ビューティフル」とかいってダイナマイトを使って採掘をしていました。ところがそれは自然を破壊し、木を伐採しなければならない。産業革命以後の物質文明そのものが資源収奪型なんです。ところが、人類は初めて地球の限界にぶち当たり、今までの経済学ではどうしようもなくなってきている。環境のコストを経済に内部化していかなければならない。適切な環境コストを負担した形で資源を買えばいいのです。
幸田 それは事業にとってマイナスにはならないのですか?
谷口 マイナスと思っている人がいかに多いか。それは絶対にマイナスではないです。経済活動が環境コストを内部化しないため、その一方でどれだけ国家や個人の生活にロスが生じているか、見て見ないふりをしているだけです
産業で排出したものは産業で処理
幸田 谷口さんは産業を生態系に例えて、「インダストリアル・エコロジー」を早くつくらなければならないとおっしゃっていますね。
谷口 産業で排出したものは産業で処理し、自然の生態系と切り離せば、自然の生態系に与えるインパクトが少なくなります。そのために産業の集団化を図ることがクラスタリングです。太平洋セメントでは22の産業、700社から、110種類の廃棄物をセメントの原料、あるいは燃料として利用しています。最終処分場不足、ダイオキシン規制の強化、そして循環社会を目指したいろんな法律ができる。これがわれわれに有利に働いているんですね。
幸田 最初の提携先は発電所ですか?
谷口 そうです。火力発電所にセメント会社が排煙脱硫のための炭酸カルシウムを提供し、そこから出てくる硫酸カルシウム、つまり石膏をセメントの原料にしたり石膏ボードとして使います。これがゼロエミッションへの最初のクラスターです。エコセメントの原料は45〜50%、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥なんです。100%も夢じゃない。
幸田 技術的に日本は世界で一番進んでいるのですか。
谷口 部分的にはスイスが進んでいますが、日本が一番進んでいると思いますよ。セメントを焼成するための当社の燃料消費量の推移ですが、日本の水準に比べると、ドイツが1985年、アメリカは1960年代と非常に遅れています。二酸化炭素(CO2)の発生量は日本が世界一少なく、エネルギー消費量も少ない。
幸田 CO2はどの程度減るのですか?
谷口 太平洋セメントの2000年の環境報告書ですが、バージン原燃料を使ったときと比べて14%減らしていますね。化石燃料を9%、鉱物資源・天然資源(石灰石、粘土等)を廃棄物利用で20%削減しています。
幸田 大きな成果ですね。また、コンクリートはリサイクルして使えますね。
谷口 使えます。2000年度で90%ぐらいリサイクルされていますが意外と知られていない。
 セメントの場合はいろいろなものをのみこんで、クリンカーという岩石を合成する。この岩石の合成のプロセスでマグマをつくる。だからいろいろなものが入っていても、マグマのようにどろどろになってしまう。このときマテリアルの温度は1,450。C、炉の温度は1,800。Cから2,000。C。だからダイオキシンなんかも瞬時に破壊されるし、フロンも破壊しています
幸田 どうやってフロンを入れるのですか。
谷口 燃料と一緒に吹き込むのです。フロン分子そのものをばらばらにしてしまえば何の害もない。回収してくれさえすればセメント会社はパーフェクトにフロンの処理をやってあげます。
技術楽観主義は現代文明の思い上がり
幸田 日本人はあまりにも品質にこだわりすぎると、谷口さんはお考えのようですね。
谷口 これは誰も言わないんですが、その例が過剰包装や過剰品質ですね。曲がったきゅうりを主婦が買わない。買わないのは主婦が悪いのではなく流通業がそのようにしつけてしまったのが悪い。不揃いのりんごや玉ねぎは売れないので、アンダーサイズ、オーバーサイズは物流業が扱わない。工業製品で見ますと、紙の白色度。これを80%に落とすだけで大変な資源の節約になりますね。
 あと過剰機能も問題。車にしても過剰装備というか、ムダなものがいっぱいある。アクセサリーが多すぎます。
幸田 谷口さんは、環境問題は技術だけでは解決できないと強調されていますが。
谷口 環境問題は技術が解決してくれるであろうという技術楽観主義。ところが、環境を悪くしてきたのは技術ではないですか。それを忘れてはいけません。核兵器・フロン・PCB・DDT・化学兵器だって、みんな科学の責任です。
 プラトンは「万物は自然か、偶然か、技術のいずれかによってつくられる。最も偉大で美しいものが、前の二つのいずれかによってつくられ、最も小さくて不完全なものが最後によってつくられる」とさえ言っています。
 ですから技術楽観主義は現代文明の思い上がり。環境問題は技術だけじゃなくて、哲学であり倫理学であり、歴史学、考古学、芸術であり文学であり自然科学であり、これを学際的にやって初めて解決する。いろんな環境関係の会議を見ると、技術論ばかり言っています。スウェーデンはあれだけ環境先進国といわれていますが、一つひとつの技術はまったく陳腐な技術です。日本の方がはるかに進んでいる。だけど、それをうまく組み合わせて制度を制定し、意識を変えています。
“静脈”を太くするための努力“動脈”側で
幸田 太平洋セメントの中で、環境はすでにメジャーな分野になっているのですか。
谷口 中核事業として去年3月から位置付けられましたね。環境ビジネスとしての売上は330億ぐらいで日本では一番大きい。大企業が環境ビジネスを変えていかないと。
幸田 そうしないと変わりませんよね。ぜひその仕組みをつくっていただきたいですね。
谷口 われわれだけでもできません。資源循環型社会でよく静脈と動脈がいわれますが、静脈があまりにも細すぎる。静脈を太くするような施策を講じてくれないとだめだし、動脈側が静脈側の仕事もやる。コンピューターにしても家電にしても、作るときは流れ作業で完全に自動化され大量にできます。しかし分解するときは手作業でやっており、比べものにならない。だから分解しやすいように、材料はメーカーで統一するとか。そのように静脈が太くなるように動脈側が工夫しなければならない。
幸田 産業界のリーダーがこのようにお話ししてくださると未来は明るいと感じるのですが、谷口さんのような考え方をする人は経済界で増えているのでしょうか。
谷口 4〜5年前まではいろんな企業が、地球環境室などをつくって「わが社は環境にやさしいことをやっています」とかイメージ広告ばっかりやっていたけれど、実態はなかった。そういった室長は経営にはなんら関わっていなかった。このごろはそういう人たちが重要視されるようになってきた。いい傾向ですね。
幸田 ゼロエミッションの技術や連携が世界に役立ち、ビジネスにもなる。
谷口 日本だけが循環型になってきれいになればいいというものでなくて、一次産品産出国などのことも考えながら政府のODAを進めてほしいですね。それで日本のアジアでの存在感、軍事ではだめなのだから環境でリーダーシップをとってやっていけばいい。
 3月から埼玉県日高市にある埼玉工場で、都市ゴミのセメント資源化システムの実証試験がスタートしました。スウェーデンから技術導入した一部です。生ゴミを焼却しないでポリ袋にゴミを入れたままゴミ収集車でそのまま持ってきてもらって、遊休している炉の中にそのまま放りこんで3日間回しているとコンポストみたいになる。プラスチックもばらばらになる。このプロセスでは、55。Cくらいで熱を全然使わないで自然発酵する。そこから金物だけを除いてそのまま隣りのセメント製造炉に入れてやれば、セメントの原燃料になる。日高市では焼却場が古くなってダイオキシン規制をクリアできずに困り果てているところに、提案したらぜひやってほしいと。
幸田 ダイオキシンの出ない焼却施設をつくるには、大変なコストがかかりますね。
谷口 規模にもよりますが、数百億かかります。それがいらないわけです。
幸田 熱も使わずダイオキシンも出ない。
 今日は、日本だけで循環を考えるだけではだめなのだという大事なことを教えていただき、とても勉強になりました。ありがとうございました。

(2001年4月18日東京都内にてインタビュー)
インタビューを終えて
「まず、これを見てください」
 谷口さんはそう言って、南米での金の採掘現場の映像を見せてくれました。そこには、すさまじい自然破壊や水銀汚染、それによって生活を脅かされている現地の住民の姿が映し出されていました。
 鉱物資源の乏しい日本で、マテリアルバランスや商品のライフサイクルを考えるときには、こうした他国での資源採取に伴う環境のコストをしっかり理解しないといけない、それを学校で子供たちにしっかり教える必要がある、と谷口さんは言います。マイニングエンジニアとしての自らの体験から生み出された言葉なのでしょう。迫力がありました。たしかに、環境を考えるには、国境を越える視野の広さが不可欠です。
「原料も燃料もすべて廃棄物――100%も夢ではない」――ゼロエミッションを目指して努力を続ける谷口さんに、心から声援を送りました。 (幸田 シャーミン)




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