第3回 山本 良一(やまもと りょういち)さん 東京大学生産技術研究所教授 | ||
<プロフィール> |
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1946年茨城県水戸市生まれ。74年東京大学工学系研究科大学院博士課程修了、工学博士。専門は金属物理。ドイツのマックス・プランク金属研究所などを経て現職。通産省環境調和型製品導入促進調査委員会委員長、LCA日本フォーラム運営幹事長、科学技術庁エコマテリアルプロジェクト研究推進委員長、ISO/TC207/SC3(環境ラベル)日本国内委員会委員長などの要職のほか北京大学など中国の17の大学の客員教授も務める。著書に『地球を救うエコマテリアル革命』(徳間書店、1995)など。 | ||
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グリーン購入ネットワーク(Green Purchasing Network) | ||
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個人はもちろんのこと、行政でも企業でも、そしてNGOでも「ものを買う」という行動は誰もがしなくてはいけない。商品やサービスを購入する際に、価格・機能・品質よりもむしろ環境への負荷が少ないという視点を優先するというのがグリーン購入(または調達)と呼ばれるものだ。 日本国内でグリーン購入に進んで取り組んでいる企業、行政機関、民間団体をネットワークし、グリーン購入に関する内外の情報を発信しようと今年2月に設立され田のふぁ、山本教授が代表幹事の一人になっている「グリーン購入ネットワーク(GPN)」だ。 GPNではグリーン購入のためのガイドラインや商品別のガイドブックなどをまとめたり、研究会の開催やニュースレターの発行などを通じて環境保全型諸品の史上を創り出すことをねらいとしている。 会員にはグリーン購入の方針を決めて、自主的勝つ積極的に取り組むことが求められ、その状況は一般に公表される。現在、会員は524団体(企業366、行政88、民間70)となっている。問い合わせはTEL.03-3406-5010(財)日本環境協会内GPN事務局まで。 | |
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まず第一段階は環境負荷、つまり工業文明のぜい肉をどんどんそぎ落とすこと | ||
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幸田 私たちが築き上げてきたこの文明には大きな欠陥があって、持続可能性を持っていないと山本先生はいろいろなところでおっしゃっています。そうした視点から先生が今やっておられることを簡単に説明していただけますでしょうか。 山本 もともと私の専門は物質材料、金属物理学。ですから、物質材料の観点から環境に与える影響をミニマムにするような材料ということで、エコマテリアルを提唱したんです。次に、ISO14000(国際標準化機構による企業の環境への取り組みの国際規格)の議論が始まり、エコラベルの国内委員長を依頼されてエコラベルに取り組みました。エコラベルというのは、製品の環境情報をいかに伝えるか、類似製品の中で環境負荷がより少ない製品をどうやって判断するかという問題に絡んでいるんです。そこで材料だけではなく、あらゆる製品、建物、ソーシャルサービスも含めたエコプロダクト(環境調和型製品)というテーマに取り組んでいます。さらにエコプロダクトの開発ツールとして、製品とかサービスとか環境の環境影響を定量的に把握するライフサイクルアセスメント(LCA)という方法があります。それでLCA社会を実現するための仕掛けが必要だということで、LCA日本フォーラムの幹事長をやっている。それをやりながら気がついたのは、どうしてもグリーン調達・購入をしないと製品が普及しないということで、グリーン購入ネットワーク(GPN)の幹事の一人になったというわけです。その根本は市場経済のもとで科学技術を発展させながら現在の厳しい地球環境問題をクリアしていこうという立場なんです。 幸田 そうすると、先生の大前提は市場経済を否定することはできない、科学技術も進歩をストップできない。例えばグローバリゼーションのように外国からのものの流れをストップすることもできないし、相互依存関係もストップできないという前提の上に立っていらっしゃるのですね。 山本 そうです。国際的な貿易が環境破壊を促進しているから、むしろ自給自足にとか、そもそも科学技術が現在の地球環境問題をもたらしたのだから、科学技術の発展を止めた方がいいという論もありますが、私は本質的には無理だと思っています。賛成できない理由は、それは不可能だからです。つまり誰も市場経済から、科学技術から降りることはできない。これは個人であれ、企業であれ、国であれ、地域であれ。ですから自由市場経済のもとで科学技術を発展させながら問題を理性的に解決するには製品そのものの環境負荷を軽減させるのと同時に、そういう製品が市場経済の中で普及しなくてはいけませんから、そのためにはグリーン購入という消費者主権の発動をするという論理です。 幸田 明らかに大きな価値観の変化ですね。まずアセスメントがあって、デザインをして、マテリアルを使ってエコプロダクトをつくる。それで私たち消費者がグリーン購入。非常にわかりやすいサイクルです。 山本 LCAについては国内の各業界でも取り組みが始まっています。例えば、材料を製造するエネルギー、缶を製造するエネルギー、リサイクルするエネルギー、全体のエネルギー消費量をできるだけ小さくするようにLCAでデザインされたスティール缶がすでに製造され、売られている。あるいは100年くらい寿命が長く、建設から運用を考えて全体での炭酸ガスの放出量を従来のものよりも25%削減できるエコデザインされた建物もあります。また、パソコン、洗濯機、冷蔵庫、ワークステーションについてもLCAが応用されています。 | |
循環型社会の落とし穴 | ||
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山本 今、循環型社会というのを盛んに言っていますが、われわれ専門家からみると危うい。というのは、大量の資源を使いながら、その資源を巨大なループでリサイクルしながら地球環境を維持できるかというと、きわめて疑わしい。例えば、世界では年間7億t鉄を生産しています。7億tの鉄をリサイクルするのに700億tの石油が必要なんです。人口が爆発的に増大して、途上国が経済成長すると、途上国の鉄の使用量がもっと増える。気が遠くなるような熱エネルギーがリサイクルのために必要なんです。 幸田 資源リサイクルができても、エネルギーがかかるという。 山本 そうなんです。結局、私たちが温暖化はいやだということになると、炭酸ガスを出す権利をどう分配するかという問題をどこかで突きつけられてしまう。また化石燃料に頼ると有限です。それが、循環型社会をも規制してしまう。 幸田 そういう盲点があったんですね。どうしたらいいんでしょう? 山本 リサイクルに重きを置いて製品設計をするばかりではなく、長寿命化して使うこと、それと部品を溶かさないで部品として徹底的に再利用すること。 幸田 そこでいつも私が疑問に思っていて壁にぶち当たるのは、ものを長く使いたいと思っても部品がたった1個でもなくなると、捨てなくてはならない。また、そうして新しいものを買ってくれるからこそ、企業も科学の進歩、発展を続けていくことができる。私たちがものを長持ちさせると企業がうまくいかない、この矛盾どうしていったらいいんでしょう。 山本 製造業が限りなくサービス業に変わって欲しいということなんです。つまり、パソコンを売らないで、パソコンという機能をサービスする。新しいパソコンが出たら古いパソコンは全部回収する。製造業は限りなくサービス業に変わっていくと、製品が必ず戻ってくるので、再利用がしやすい。 | |
不足している政治のリーダーシップ | ||
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幸田 先生のお考えがもっと普及するためには何が必要ですか? 山本 まさに、政治のリーダーシップ。そこが欠けている。 幸田 どうして政治家はこの問題にもっと危機感を持っていないんでしょうか? 山本 やはり情報が遍在している。特に日本の場合はNHKの責任が大きい。酸性雨やオゾン層などの地球環境情報が毎日正確に伝えられば、国民の意識が相当変わる。 幸田 テレビなどのメディアの役割は大きいですね。 環境問題の現実がわかってしまうと、先生がおっしゃっているように一つひとつ手を打っていくのは非常にエネルギーがいる。これを政治家が言うのか、行政が言うのか、NGOが言うのか、はたまた学者が言うのか。GPNのように最終的には市民が下から突き上げて、それが成功すれば上も動かざるを得ない。果たして私たちも自分に対して厳しくなれるのかどうかという課題もありますが。 山本 残念ながら、例えばドイツと日本の比較で、日本では専門家が市民から十分信用されていない。大学の先生も信用されていないし、行政も信用されていない。 幸田 政治家が信用されていない。 山本 ドイツはそこが違う。ドイツでは専門家が真実を語っていると信用されている。専門家がいろいろ言って、それが収束されてくると市民がなるほどそうだと行動に移る。どうも、日本ではエイズの問題にしてもあらゆる問題で専門家は嘘ばっかりいってるんじゃないかと、専門家が信用されていないところが学者の端くれとしてきわめて残念です。 幸田 結局何をしなければいけないんでしょうか? 山本 私はいつも2段階論を言っています。エコデザイン、グリーン購入は第1段階。まず第1段階で、相対的に環境負荷を、つまり工業文明のぜい肉部分をどんどんそぎ落としていく。第2段階は本当の持続可能な社会にどう移行していくかという問題。これは総掛かりでみんなで論議しなくてはいけない。 幸田 2010年にクライシスが来るとおっしゃいますが、時間がもうない。間に合いますか? 山本 間に合わせなきゃ。環境問題、特に地球環境問題はまだ起きていなくて、これからどう対応するかを議論していると錯覚している人がいる。そうではない。もうすでに温暖化が進行中なんです。 日本が今気をつけなくてはいけないのは、金さえ出せばなんでも手に入れてきた今までの成功体験です。これまでの成功体験を一度捨てないと21世紀はまた失敗する。ものがなくなり、お金を出しても買えないという時代になるのですから。ここが運命の岐路です。 幸田 ありがとうございました。
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