第11回 環境教育体験レポート〜(財)キープ協会 ティーチャーズキャンプに参加して

環境教育の要は人のネットワーク

 環境教育が今、注目されている。4月14〜15の両日に東京・外務省で開かれた「日米コモン・アジェンダ 地球的展望に立った協力のための共通課題」では、日米の環境専門家が「環境教育」をテーマに議論した。来年初めに東京で開かれることになった世界会議では、環境教育も大きな課題の一つになりそうだ。今回は、日本での環境教育、とりわけ自然とフィールド体験の先進地である山梨県北巨摩郡高根町清里のKEEP((財)キープ協会)を訪れ、環境教育の先生のための3泊4日の研修会「清里ティーチャーズキャンプ」に体験入学してみた。


第1日 「夜の森散歩」

 標高1,400m。富士山、赤岳など七つの名山が一望できる広大な敷地のキープ協会を私が訪れたのは、3月下旬でした。朝晩はかなり冷え込み、まだ厚手のセーターとヤッケが必要でしたが、雪解けの泥のぬかるみは、清里にも春が近づいていることを感じさせます。 KEEPとは、Kiyosato Educational Experiment Project(清里教育実験プロジェクト)の略称。米国人ポール・ラッシュ博士が、1930年代から70年代にかけて建設したもので、250haの敷地に、宿泊施設である清泉寮、キャンプ場などがあります。
 ティーチャーズキャンプ(自然体験型環境教育指導者セミナー)が始まったのは1993年で、年1回のペースで開かれているとのこという。今回の受講生は29人。山梨や東京、大阪だけでなく、北海道や石川県からも来ていました。
 午後3時半、キャンプ場の中にある2階建てのログハウスの研修場に入ると、私たちの学習を受け持つ先生やスタッフが温かく迎えてくれました。
 さっそくスタッフの紹介、盛りだくさんの日程説明、生活案内。そして夕食後に「夜の森散歩(ナイトハイク)」。
 夜9時過ぎに、4〜5人ずつのグループに分かれ、暗闇の森の中をライトもつけずに歩いて入っていきます。しばらくして、各グループはばらばらになり、一人で森を味わうのです。
 各自シートを用意してきているので、それを使って寝そべるのよし、座るもよし。自分の五感すべてを森に向けて集中し、「夜の森」を体験するのです。
 私はこの経験を通して、いかに自分が自然から遊離した生活をしてきたかを痛切に感じました。まず、一人で森の中に座っていることが恐かったこと。ちょっとでも音がすると、動物が近寄ってきているのではないか、ヘビかな、イタチかなと、びくびくと落ち着かず、想像ばかりが豊かになってしまいました。つまり自然の音を聞き分けられないのです。後でわかったことなのですが、そのサラサラという音は、風が笹の葉の間を通り抜ける音だったのです。
 さらに、このとき気づいたことなのですが、この森はハイウエイから300mも入ったところにあるにもかかわらず、車の音や振動がはっきりと伝わってくるのです。毎日こんな音にさらされているのだから、この森の木々や動物たちはかなりストレスがたまっているだろうと感じました。車の騒音は、家の中にいればだいぶ軽減されますが、野外でくらす動植物にとっては、もろに接することになります。森の中の道路は、スピード制限をする必要があると思いました。


第2日 眠るヤマネ
翌日の中心プログラムは、ニホンヤマネの研究の第一人者であり、和歌山県の小学校の先生でもある湊秋作さんのレクチャーでした。
 冬眠中のヤマネを見せてくださったのですが、参加者はみな、私を含め、子供のように大喜び。手のひらにちょこんと乗ってしまうほど、小さな茶色の毛に包まれたヤマネが、ぐっすりと眠り込んだいるのです。私はその体温の冷たさにびっくりしました。冬眠中はエネルギーの消費を極力減らすために、体温も下がるのです。
 このヤマネが、4日目には冬眠から目を覚ましかけました。体を縮こませて熟睡していたヤマネが、手足をぴくっ、ぴくっと、少しずつ動かしながら、約45分かけて、ゆっくりと目を覚ましていくのです。顔いっぱいのまんまるで大きな目がかわいいこと。湊先生が枝を差し出すのですが、まだ寝ぼけているのか、登れません。そのうち、まだ起きるには寒すぎると感じたのか、再び目をつむり眠ってしまいました。自然の摂理の神秘を実感する思いでした。
 2日目はこの後、森の中で俳句をつくったり、俳画を描くプログラムに参加しました。ここでも、一人で考えるばかりでなく、グループの人びととお互いの句についてコメントしたり、他の人の句に自分の俳画を提供したり、パートナーシップによって生まれる豊かさを体験できました。


第3日 「おもい」を「かたち」に

 私にとって最も実り多かったのが、3日目でした。
 まず、朝食前に7時から森の中で「色探しゲーム」をしました。色紙を2枚渡され、森の中で同じ色を探すというものです。私はベージュと若緑の紙を渡されました。森は笹の葉でいっぱいなので、すぐ見つかりそうでしたが、似ているようで違う。自然の色は、人工的な色とは微妙に異なるのです。森を細かく見て回ることにつながるゲームで、大人の私でもなかなか楽しめました。
 そしてハイライトは、グループ作業で行う企画書づくり。それぞれの「おもい」を「かたち」にする作業です。
 一人ひとりが自分のおもいを紙に書きます。そこで、インスピレーションが通じ合った人同士でグループをつくることからから始まります。
 私は「今を変える、変化を起こす」と書きましたが、同じグループとなった他のメンバーは「笑い」「環境問題児の意識改革」「さ細なものから大きな世界へ」「心の開放と人のつながり」などと書いていました。
 こうしてまとまった私たちのグループには、幼稚園のベテラン先生、大阪から来ていた高校の先生、北海道庁の環境部の職員、自然保護センターの解説員と、バックグラウンドもさまざまです。
 私たちが企画しようと思ったのは、環境への関心が低い人びとの意識改革。その方法は、笑い(環境漫才)を入れながら、こちらから出向いていくということ。
 グループでじっくりと話していると、それぞれ異なる経験や発想が思わぬ刺激やヒントとなって、内容がどんどん充実していくのがわかるのです。
 環境の要は人だなと、つくづく思いました。
 発表会の後はみんなで手分けして夕食づくり。残すところ半日と思うとほっとしたり、名残惜しいところもあって、みな和気あいあい。もっとも、私の担当したハルサメと野菜の炒め物は、ハルサメをゆですぎてちょっと失敗作でした。
 それにしても、この研修で驚いたのが、食事のおいしかったこと。シェフの後藤信哉さんにレシピを教わったくらい。ニジマスのホイル焼き、スパゲッティ・ポモドーロ、水炊き・・・・・・。期待をはるかに超えた内容で、毎日の楽しみでした。


第4日 パートナーシップ

最終日は、レビューと記念撮影。研修の責任者であり、中心的インストラクターの川島直先生が指摘した環境教育の問題点が印象的でした。
 「価値の押し付けになっていないか。楽しければそれでいいのか。疑似体験で何がわかるのか」
 それは、この1ヵ月後に私が出席したコモン・アジェンダの会議で、アメリカ・フロリダ大学教授のシンバロフ氏から聞いた言葉に通じるものがありました。
教授は環境教育の先進国である米国の現状について「環境教育の成功のカギは先生であり、先生の訓練や支援には科学的な熟練を必要とするが、十分な材料が提供されていない。自然教育やフィールドトリップをおまけとみなす傾向があるのが問題だ」と語ったのです。
 単なる知識ではなく、体験を通じて自分の感性で知る、自分とのかかわりのあるものとして知る。そういう環境教育の欠かせない要素であるフィールド学習の大切さを、私はこの研修会を通じて感じることができたように思います。
 素晴らしい人びとと出会えたことも大きな成果でした。
 環境教育の要は、人のネットワーク。環境問題にパッションを感じている人たちと強力なパートナーシップを組んでいきたい。
 そんな思いを改めてかみしめた4日間でした。(幸田 シャーミン)



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