第20回 米国・環境防衛基金(Environmental Defences Fund) | ||
環境防衛基金/EDF: Environmental Defences Fund 米国ニューヨーク市に本部を置く環境保護非営利団体。1967年、ニューヨーク州のロングアイランドの野鳥の激減はDDTが原因だとして法廷に訴えた活動家たちが設立。この活動がのちのDDTの使用禁止につながった。現在は、科学、経済、法律等の専門家たちからなる200人の職員と30万人の会員を要する。国内外のさまざまな環境問題の解決に取り組んでいるが、最近ではとくに経済的手法についての調査・研究に力を入れ、産業界などとも協力した活動を展開している。 | ||
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マイケル・オッペンハイマーさん(EDF地球・地域大気プログラム、主任科学者・プログラムマネージャー)Michael Oppenheimer,Chief Scientist, Program Manager, Global and Regional Air Program, EDF | ||
ジョセフ・ゴフマンさん(EDF地球・地域大気プログラム、弁護士)Joseph Goffman, Attorney, Global and Regional Air Program, EDF | ||
ダニエル・デュデックさん(EDF地球・地域大気プログラム、経済学者)Daniel J. Dudek, Economist, Global and Regional Aor Program, EDF | ||
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排出権(排出量または排出許可証)取引制度 | ||
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排出権取引とは「あらかじめ定められた汚染物質の排出量等を個々の主体に割り当の排出許可証の売買を認めるもの」(「環境に係る税・課徴金等の経済的手法研究会」)とされている。具体例としては、窒素酸化物・一酸化炭素等の大気汚染物質を対象としたもの、発電所からの二酸化硫黄を対象としたもの、オゾン層破壊物質を対象としたものなどがすでに米国で実施されている。同報告書によれば、この制度の長所は、@排出総量をターゲットとして確実にコントロールできる、A対策実施において各主体に裁量の余地を与え、柔軟な対応を可能にする--の2点が、また、問題点としては、@初期割り当ての配分についての合意を得ることが難しい、A炭素税と比べて、モニタリング・順守体制を整備するための費用、市場創設のための費用がとくにかかる--などが挙げられている。 | |
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環境改善と経済がプラスの方向に働く排出権取引 アメリカで成功した排出権取引 | ||
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幸田 排出権取引は京都会議でも大きな争点の一つとなりました。 オッペンハイマー そのアイデアをデザインしたのは、ここにいるジョセフ・ゴフマンとダニエル・デュデックの2人です。1990年に米国で大気汚染浄化法の改正法がつくられ、議会は二酸化硫黄(SO2)排出量を半分弱に削減するため全米の発電所に対してSO2の排出許可を割り当てることにしたのです。その際に、規定を超えて排出量を減らすことができた分を他の発電所との間で取引したり、将来使用するため蓄えておく、つまり、繰り越すことが許されました。 その結果、排出量は法律で義務づけられた量より3分の1くらい低くなったのです。こうしたインセンティブによって、規定以上の排出物質が大気から取り除かれる結果となり、しかも、コストも法律が成立する前に予測したものよりはるかに低かった。ですから、われわれは、例えば二酸化炭素(CO2)にも排出権取引を応用すれば、対策がとられない場合に比べ、より早く、より多く削減できると考えています。 幸田 具体的にどのようにして排出権が割り当てられたのですか。 ゴフマン 4段階から6段階の割り当て方式をつくり、設備が古く、濃度の高い硫黄を含んだ石炭を使用するプラントと、濃度の低い硫黄分を含んだ石炭を使用している新しいプラントを区分して、割り当てたのです。そして、環境保護庁(EPA)に許可を出す権限を与えたのです。 つまり、よりクリーンなプラントを優遇すると同時に、汚いプラントにも、スケールメリットによって低いコストで規定を超える分の排出削減ができるように巧みにバランスをとったのです。大きな汚れたプラントは大量の削減をしなければなりませんが。排出量が大きいため、規定を超える分の削減コストがその分低く抑えられ、安くなることです。 幸田 そのシステム案をつくったのがあなたとデュデックさんだったということですね。 ゴフマン そうです。われわれは88年と89年にこのシステムの提案の基本コンセプトをデザインし、ブッシュ政権に提出しました。私は上院で弁護士としてこの法律の立案スタッフとして1年半働き、その後、EPAで法律施行のコンサルタントをし、再びEDFに戻ってきたのです。 デュデック 環境など、経済の外部性をいかにして市場の判断に組み込んだらよいかについては、経済学者が100年以上前から考えてきました。アメリカでは70年代後半にロサンゼルスで大気汚染を削減するために排出権取引の実験が行われました。しかし、間違いが多く、例えば、こうした取引をもとにした環境保護のアプローチには、そうした結果を保証するルールの必要性が見落とされたりして、裁判まで起こってしまったのです。その結果、産業界にとって環境規制を達成するための信頼できる実践的な手段だとはならず、関心が薄れ、こうした市場の開発には結びつかなかったのです。 私はこの問題を研究し続けてきました。EDFにくる前は、大学で環境資源経済学の教授をしていました。人びとに教えてきたセオリーをこの組織で実践に移す機会を得たのです。しかし、このコンセプトを法的システムに組み込み能力のある、つまり法律がわかるパートナーが必要だったのです。理論と、実際にそれがどう機能するかとの間に大きなギャップがありますから。 幸田 今、まさに私たちが直面している問題でもありますね。 デュデック ええ。しかし、われわれにはすでに経験があり、この戦略についての事例はさまざまな国にあります。京都会議におけるわれわれの役割の一つは人びとに「恐れることはありません」と伝えることなのです。 朝起きて、外で朝食をとるとき、コーヒーであろうとパンであろうと、ヨーグルトであろうと「市場を頼りにしている」などとは考えません。「この不確実な市場メカニズムが信用できないから、翌朝のヨーグルトが必ず食べられるように、牛を飼って、乳をしぼり、自分のヨーグルトをつくるべきだ」とはね。私たちは複雑なことを処理する非常に複雑に統合化された経済を持っているのです。それに比べれば、はるかに単純な温室効果ガスの抑制と削減問題に市場が機能するかを問うことはおかしなことだと思います。 幸田 かこに失敗した戦略を今回どうやって活かすことができたのですか。 デュデック 例えば、排出汚染の全体量に対する厳格な制限についての合意を必要とすることなど、戦略の上でいくつか重要な違いがあります。これは、前のモデルでは採用されなかった、キャップ(制限)と取引のシステムです。全体の排出量に制限をかけてから、取引が許されるというものです。 幸田 そもそも、アメリカでこの方法が導入されたのは、カナダとの間の酸性雨の問題があったからですね。 デュデック そうです。同時にアメリカ国内の中部や北東地域間の酸性雨問題もありました。 | |
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ルールづくりはこれから | ||
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幸田 こうしたシステムは国際的に機能するでしょうか。 デュデック もちろんです。私は、ポーランドでもカナダでもロシアでも、また現在中国でも、国内的な排出権取引の仕事に携わってきましたが、継続したプロセスになっています。 カギは、環境改善に向けられる経済のエネルギーです。両者がマイナスではなく、プラスの方向に働き合うことを、このシステムは可能にするのです。 幸田 このメカニズムを生物多様性の保全などにも応用しようと考えているのですか。 デュデック 今まさに私たちは、森林が提供する二酸化炭素(CO2)の吸収源としてサービスに対してマーケットをつくりプロジェクトに取り組んでいるところです。森林の所有者が気を切り倒すことによってのみ収益が発生するものと考えるのではなく、森林をCO2の吸収によって収入が得られる資源としてみるわけです。そうなれば、所有者は森林を保全するものとして投資するようになり、生物多様性の観点から見れば、森林は動植物の貴重な生息地であるので、結果的に生物多様性のためにマーケットを生み出すことになります。 幸田 どのようにして値段が決まるのですか。 デュデック 市場です。排出をすべて削減したくはないが、森林の持つCO2を吸収するサービスを購入したがっている企業が森林の所有者と交渉し値段を決めることになります。需要なのは、森林を伐採するより、保全することに市場がより高い価値を見出すという点です。われわれはそうしたシステムを確立したいと努力しているところなのです。 幸田 排出権取引のシステムは自国での努力を避ける抜け道を与えかねないという意見もありますが。 デュデック もし、私が企業経営者だったら、すべての削減を国外でするなどというリスクを企業に負わせるようなことはしません。企業内でも対策を講じるでしょうし、また国外でもするでしょう。国内外のパートナーと共同事業をするかもしれません。複数の戦略をとることになります。 幸田 COP4に向けて国際間の排出取引の制度的な中身の詰めが課題となりますね。 デュデック 多くの場合、このような新しい市場ができるとき、売り手側にとっても買い手側にとっても極めて不確実性が高いため、通常の市場と違い、どうしたらいいかわからない状態が起こります。EDFは「環境資源トラスト」という非営利組織をつくりました。法律上の不確実性を含め、どのような問題があるのかを考え、それらを解決し、企業にどのようなビジネスチャンスがあり、それをどのように役立てられるかを理解するツールを提供するためです。 温室効果ガスの排出削減に向けて、世界の国々はやっと歩き方を学び始めたところなのです。いかにして開かれた斬新的なプロセスによってすべての国の参加を可能にしていくかということだと思います。 (97年12月7日京都にてインタビュー)
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