第24回/米村 紀幸(よねむら のりゆき)さん(富士ゼロックス(株)常務取締役) | ||
<プロフィール> |
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1965年東京大学法学部卒業後、通商産業省入省。日本貿易振興会企画部長、通商産業研究所研究部長などを歴任後、92年、富士ゼロックス(株)に入社。98年、管理部門担当取締役から総務部、総合経営研究部、広報宣伝部担当の常務取締役に就任。 | ||
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これからはモノそのものよりサービスを売ることになるでしょう | ||
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幸田 富士ゼロックスは1985年という、かなり早い段階で地球環境保全を経営の重要課題と位置づけた環境安全会議を設置しました。この背景についてお話いただけますか。 | |
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歴史に支えられたクローズド・ループ・システム | ||
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米村 売りきりでもレンタルでも、お客様に機械をお渡ししてサービスをしていくというコピー機ビジネスの特性から来るのですが、お客様がどういうものを使っているのか、どれくらい故障が発生しているのか、直さなくてはいけないところはどこかなどを恒に把握している、ということがありました。もう一つは、当時コピー機が高価なものであったので、回収して捨ててしまうのはもったいないので、できるだけ資源として使えるものは使おうという思想、歴史がずーっと以前からありました。 幸田 将来的にマーケットになり得るというような予測があったのでしょうか。 米村 いや、むしろそういうことよりも、社会、コミュニティと調和してやっていくためには環境問題にも取り組んでいかなくてはいけないだろうという意識があったところに、たまたま強いリーダーシップがあった。しかしながら、それだけではなかなかできませんから、それを進めやすいビジネスの場があったということです。 幸田 今でこそモノを買ってオーナーになるよりも、サービスを買った方が環境にもいいという考え方がクローズアップされてきています。ユーザーには部品のリサイクルはできませんから。 米村 最近はとくに、コピー機という機械を売るということではなく、オフィスのどこに機器を配置をしてどういう風に使うのかというトータルのサービスを提供するビジネスになってきています。アメリカではこういう形態のビジネスが急成長しています。 幸田 企業もそのようなサービスを売ることで十分な利益が上がれば、機械そのものを買ってもらわなくてもいいということになりますね。ユーザーもプロが管理してくれた方が安心ですし。 米村 経営品質に環境というコンセプトを入れている。これが大きな特徴です。1年に1回、あらゆる観点から入ってくる環境に関する情報と全社的な環境の状態をレビューし、監査する。環境監査的な観点をもって経営を進めています。 幸田 85年というと、リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(UNCED)よりも前ですね。ISO14001の動きなどよりも早いですね。 95年からスタートしてクローズド・ループ・システムを簡単に説明していただけますか。 | |
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部品を部品のままリユース | ||
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米村 これまでも市場に一回出た商品を回収して、契約業者に分解を依頼してなるべく資源として使えるようにしていたのですが、それを会社に戻して分解し、当社の品質基準に適合した部品として再生した部品だけ生産ラインに戻して、市場に戻していくというループとこのループを構成するシステムです。とくに強調しているところは、部品単位でこのサイクルを考えるという点です。1台につき4,000点の部品があるコピー機ですが、従来の再資源化という考え方は、取り出してきたものを、例えば金属なら金属、ガラスならガラスに溶かしたり砕いたりして、使う。それだとエネルギーもかかるので、部品は部品として、修理や塗装をし直して、品質保証を万全にした上で、もう一度新しい生産ラインに乗せていくということです。これは新しい、なかなかできない発想だと思います。 幸田 技術力もかなり必要になるのではないですか。 米村 そこが一つのポイントです。これには部品の寿命がわからないとできません。どれくらいもつのか、どれくらい修理したらいいのか、言ってみれば患者のカルテを持っていることが必要です。市場に出ている商品がどういう状態にあるのかというデータを把握しているという、われわれのビジネスの特徴が生かされたのです。部品ごとのデータについて市場に出ている商品の状態を解析するソフトウエアを開発して、部品の余寿命を予測するといった技術的バックグラウンドがあって初めてこういう取り組みができたのです。 それから、さらにそういう部品が循環しやすいように最初の設計段階から、リサイクルしやすいデザインにしていく。3世代ぐらいにわたって同じ部品を使うように設計することでリサイクル率が向上することにもつながります。 幸田 こういう形で再利用をしていらして、コスト的にはどうなのでしょうか。 米村 初期投資はそれなりにかかりました。しかし、リサイクル率が上がり、対象機種が増えればいずれは経済的にも採算が取れるはずです。 幸田 クローズド・ループ・システムを導入した海老名工場はいつからスタートしたのですか。 米村 97年の11月に稼動し始めました。 幸田 部品をつくるときにできるだけ寿命を長くしようという技術に力を入れていくことになるのでしょうか。 米村 世の中がそうなっていきます。部品を構成する材質に関する強度や使ってきた部品が使えるかどうかということについての計測技術など技術面のインフラが重要になってくるでしょう。この方面では公的な機関のデータの公表が必要になってきます。 幸田 家電製品などで、何年かして故障すると、たった一つの部品がないだけで、製品がまったく使えなくなってしまうと、もったいないと感じます。一方で、部品だけを代えていたのでは企業経営は成り立たない。部品を整えるよりも新しい製品を売った方が利益になるという状況ですよね。 富士ゼロックスのこのような取り組みは他の産業にも応用できないのでしょうか。 米村 おっしゃるとおり、われわれのケースがほかの産業の参考になればと思います。昨年11月以来、多くの方が現場に見にこられています。 | |
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商品を自社の資産ととらえる | ||
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幸田 富士ゼロックスにとって企業経営と持続的発展は両立するとお考えですか。 米村 ゴミ処理の問題を考えても、実は地方自治体が多大なコストをかぶっている。循環型社会を目指すということは、このような現実のバランスから考えても自治体だけでなく、企業そして消費者が負担すべき費用を負担することが必要だと思います。そして循環型社会をつくっていくために必要なのが技術であり、アイデアなんだろうと思います。私どもはニュージーランドで、植林事業に参加していますが、インプットとアウトプットのバランスを取れるような形でビジネスをやっていくべきだと思います。 幸田 ドイツではリサイクルやリユースなどの努力の結果、当初の予想よりゴミが少なくなって、大規模なゴミ焼却場が必要なくなっているところもあるようです。 米村 その方が社会としてトータルでみると効率が良いということになると思います。 幸田 これまで本気で取り組んでいなかったから効果が上がらなかっただけで、本気でやれば日本の技術力をもってすれば、ニーズは世界的にあるわけですね。みなが同じ問題に直面していますから。 米村 これからはソフトを含めたサービスを売ることになるんだろうと思います。品質というのはソフトを含み、モノそのものというよりサービスを売るということになるのではないでしょうか。こういう意味では、カルチャーは明らかに変化しているのではないでしょうか。ホンダが部品点数を半減する、ベンツがリサイクルしやすい設計をするなどの取り組みがみられます。 幸田 ゼロックス方式を応用できる他業種はどんなものがあるでしょうか。 米村 リサイクルには必ず回収コストが問題になるわけですが、当社の場合にはレンタルビジネスの展開から回収システムを持っています。ですから、他業種が取り組む場合には、その回収コスト負担が問題になるでしょう。 ひとこと加えますと、当社には海老名工場に商品リサイクルを担当するアセットリカバリーマネジメント(ARM)部があり、お客様に使っていただいている機械はそのまま捨てるのではなく、アセット(資産)であり、それを回復するという発想を持っています。 幸田 素敵ですね。使い捨てではなく、資産だという考え方ですね。このような考え方がもっと多くの企業に広がることを望みます。ありがとうございました。 (98年5月21日東京都内にてインタビュー)
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