第26回/森 健(もり けん)さん(王子製紙(株)専務取締役洋紙総本部長)
<プロフィール>
1956年、王子製紙(株)に入社。営業本部出版印刷用紙部長、洋紙営業本部長などを歴任後、1997年現職に。1934年生まれ。一橋大学商学部卒業。



OKグリーン100シリーズ
王子製紙が開発した、古紙100%の再生紙。白さと退色性など天然パルプの紙に劣らない品質を保ちながら、これまであった天然パルプを原料とした紙との価格差をなくし、古紙あまり現象を解決すると期待されている。古紙リサイクルのメリットとしては@都市ゴミ減少→ダイオキシン減少、A二酸化炭素(CO2)の発生源→地球温暖化防止、B森林保護→地球温暖化防止、が考えられる。


消費者が変わればコストも安く環境負荷も低い紙ができる
古紙あまり解消へのステップ

幸田 今回開発された「OKグリーン100シリーズ」は天然パルプのみの製品にまったく劣らないということですが、その技術を簡単に説明していただけますか。
 まず、古紙パルプを作る工程で、脱インク=脱墨の工程を2回通して、完全にインクを抜くということ。それから、タイプの違う晒(さらし)工程を2回通しています。これで従来の古紙パルプよりもインクは完全に抜けて、色も白い古紙パルプができるわけです。
 さらに、どうしても古紙を使うと退色するのですが、これを防ぐために酸化チタンを使ったり、表面塗工の素材も退化しにくいものを使っています。このように以前より当社が蓄積してきた技術を駆使することによりほぼ天然パルプと同じ品質の古紙100%の紙ができたのです。
幸田 漂白の方法はいかがですか。塩素系の漂白剤の使用は環境によくない影響を及ぼすと言われていますが、今回の紙はそれもクリアしているのでしょうか。
 昔は塩素晒が中心でしたが、ダイオキシンの問題が心配なので、塩素をいっさい使わない、過酸化水素など他の薬品でさらす工程を開発しました。それから、白色度を70にすると晒工程が少なくて済むのですが、やや黒っぽい。晒工程が少ないということは晒薬品も少なく、エネルギーも使わなくて済むということで、今後の古紙100%の再生紙は多少黒い、白色度70のものが本命になるだろうと、考えております。日本の市場は高品質嗜好なものですから、少しでも色が黒かったりちりが入っているとクレームが来る。もう少し消費者が、再生紙だから黒くても仕方がないと思ってくれれば変わるのですが、これも時間の問題でしょう。官公庁などは白色度70を指向すべきだと主張してくれていますから、徐々に白色度は多少低くても良いんだとか、古紙100%だからちりがあっても我慢しようということになってくれば、コストも安く環境負荷も低い紙ができるわけです。本来再生紙とはそうあるべきなんです。なにも遮二無二、晒して色を白くして普通のバージンパルプものと同じまでする必要があるかどうかということです。
幸田 消費者の立場でも用途によって使い分けをすることは十分可能ですね。国や自治体が古紙をたくさん注文して応援してくれると、市場をつくる大きな力になりますね。これまでは再生紙の値段が高かったことが問題でした。リサイクルの紙を買いたくても値段が倍以上のこともあります。何とか、安くならないものかと待望していました。
 OKグリーン100シリーズを普及させるために、あえて普通の紙(天然パルプ100%の紙)とまったく同じ価格にしました。従来格差があったのは、古紙は新聞が多いので黒く、晒すための経費、回収するための経費がかかったのです。このOKグリーン100は、再生紙化の推進のため、あえて同じ価格にしてPRしています。
幸田 コスト的にはあうのですか。
 いや、もちろんあわないわけではないですが、利幅は少なくなります。当社の負担において価格差をなくしたということで、普及させるためにはそれぐらいの犠牲は払おうということです。
幸田 現在、回収はされても再利用のあてがなく、在庫になっている古紙が430万tもあるのだそうですね。OKグリーン100が市場に出ることに現状は変わるのでしょうか。
 変わると思います。結局、古紙をたくさん使うのですから、どんどん使用量が伸びてくれば古紙も消化できる。ただし、分別をきちっとすることも大切です。分けて収集できれば製紙メーカーとしては優良な古紙原料として使えるはずなのに、例えばタック紙や裏にのりがついている封筒が混じりますと、のりの薬品が浮き出してクレームの元になる。いわゆる禁忌品です。一般の人はこういうのを区分せずに一緒に混入させてしまう。これが古紙再利用促進のネックの一つになっているのです。
幸田 消費者教育がとても大事ですね。学校でもしっかりと取り組む必要がありますね。
 ところで、王子製紙では古紙使用料の全国シェア(国内の古紙使用量全体に対する王子製紙のシェア)を現在の20%から2010年までに25%に引き上げると発表なさいましたが、これはずいぶん消極的ではないですか。
 王子製紙の古紙使用量は現在でも業界1位ですが、さらにシェアを高めようというもので、これは積極的な行動計画なのです。板紙はすでにほとんど100%が古紙です。新聞にもすでに40〜50%古紙が入っている。今後の古紙使用量を増やそうとすると、いわゆる白い紙、コート紙や上質紙にもっと古紙を使おうということですから、古紙をパルプ化する設備を新たに増設しなければならないので、非常にコストがかかる。資金的ネックがあって、王子製紙といえども3年間に1台ぐらいしか、導入できない。しかも、今のクラフトパルプというのは合理的な設備で、木を煮ると出る黒液をもう一度煮詰めて燃料として使っている。その分重油を節約しています。それが新しい設備になると使えなくなってしまう。別の面でエネルギーコストが上がるということもあります。設備には全体で50億円〜100億円に近い資金が必要になります。
幸田 そうすると簡単に設備を増やすというわけにはいかないのですね。
 でも、時代の要請でもありますし、紙ゴミ対策もありますから、かなり速いテンポでやっていこうという気持ちはあります。


森のリサイクル、
紙のリサイクル

幸田 OKグリーン100の開発を決断なさったとき、何かぴーんと来るものがあったのですか。
 古紙あまりが世間で大きな問題となっていたこと、また、製紙メーカーが古紙を利用した再生紙を十分作っていないという、誤った批判があったことがありました。こういう批判に応えるためにも古紙100%の紙を製造する必要がありました。ちなみに、製紙メーカーがサボっているから古紙があまるというのは間違いでして、今は回収がどんどん進んで、製紙メーカーの消化能力以上に集まるようになった。これも意識の高まりだと思うのですが、こういう事態になった以上、それに応えるのが使命だと思うので、非常に正しい方向だと思います。ただ、残念ながら設備に非常にコストがかかるので、あまりあっちもこっちもというわけにはいきません。計画的につくっていく体制をとっています。
幸田 OKグリーン100のアイデアが上がってきたときに、ビジネスになるという見込みはあったのですか。
 ええ、もちろん。企業ですので、すべて持ち出しでやるわけにはいきません。紙はどのメーカーのものもあまり変わりありませんので、差別化商品として先行者のメリットもあります。
幸田 将来、古紙パルプでできた紙が木材チップでできた紙を量的にしのぐことはあるのでしょうか。
 可能性としてはあります。まだ、若干古紙パルプの方が高い。そもそも、紙用の天然パルプは、廃材チップ、製材くずや間伐材を主体に使っていて、いわば廃物利用なので、それほどコストも高くないし地球環境も破壊していない。熱帯林を伐採しているのは、焼畑や牧草地の開拓のためで、紙では熱帯林を切っていない。パルプはアメリカからの輸入が多いのですが、市況の変動で値段が安くなったり高くなったり、安定的に供給してもらえるかどうかはわからない。そこで成長の早い熱帯地方に植林して、成長したら製紙原料に使用し、またそこに植林する方式が森のリサイクルです。ユーカリを熱帯に植えると、7年で木材チップを取ることができる。われわれは栽培林業と言っています。森のリサイクルで森林をつくって、そのチップを利用しつつ、紙ゴミの問題もあるので古紙を利用するという両面の作戦です。これが森のリサイクルと紙のリサイクルです。20万haの森を南方につくろうということで、今はまだ7〜8万haですけれど、毎年増やしています。
幸田 それは王子製紙がこれから目指していかれる基本的な方向ですか
 紙をつくるという行為自体が地球環境のためになっているということが言えるような体制をますます強めていきたいと思います。幸いに製紙メーカーはそれができる立場にありますので、そういう立場を多いに積極的に推進し、それを世間にもっと知ってもらう必要があると思います。正しい情報を発信することにより、多いに世間に物申す企業になろうということで今回のOKグリーン100の発表をしました。
(98年7月7日東京都内にてインタビュー)

インタビューを終えて

 日本製紙連合会の調査によると、日本の古紙利用率は約54%だそうですが、古紙が主に使われているのは、「板紙」という段ボールや紙箱用で、「紙」に分類される新聞や印刷・情報洋紙では27%と低いのが現状だそうです。
 リサイクルに対する市民の関心が高まるにつれ、古紙が業界の消化できる量を大幅に超えて集まり、現在430万tも行き場のない古紙があるとのこと。
 紙のリサイクルが直面しているもう一つの問題は、表紙などに張られているビニールや背のりがネックになって、再生紙化の難しい雑誌類の扱い。もっとも、森さんによると、現在出版社と雑誌の再利用の研究を行っていて、問題を起こさないのりについても、のりメーカーとの共同開発でいいところに来ているそうです。
 消費者と企業の両方の努力が合わさって、初めて実現するリサイクル社会。「稼ぐだけでなく、活動を通して地球環境に貢献する」という森さんの言葉は、本当に頼もしく聞こえました。(幸田 シャーミン)



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