第31回 高遠 裕之(たかとお ひろゆき)さん((株)カタログハウス本部取締役、商品開発部部長) | ||
<プロフィール> |
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1959年生まれ。青山学院大学卒業後、東急ハンズとフジサンケイグループを経て、88年カタログハウス入社。95年第一カタログ部部長、96年より現職。 | ||
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ロングユースは時代のキーワード | ||
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幸田 カタログハウスが1976年に設立されてから22年になりますね。いつ頃から環境を意識し始めたのですか。 高遠 10年くらい前です。うちからしか買えないモノを売ろう、そういうモノを探してみるとヨーロッパの製品が多かった。そういう製品を販売していくうちに、ヨーロッパのモノづくりの基本、高品質で長く使えるものということがわかってきました。「あ、これからはこういう時代かな」と思った。 ヨーロッパでは小手先やイメージでエコロジーを標榜し、お客様にうけようとすることを「green wash」と言うそうです。絶対にそうなってはいけない、やるからには徹底的にやろうということです。 ただ、企業の理念として、政策としてやり始めたのは4年ぐらい前からです。 幸田 『通販生活秋の特大号』という御社の商品カタログの表紙に新党さきがけの「環境主義」という文字の入ったポスターが載っていましたが、それはカタログハウスの環境主義宣言とも読みとれるのかなと思ったのですが、どのようなことを伝えたかったのですか。 高遠 これを出したとき、すごい反響がありました。会員が今、150万人ぐらいいますが、数十人から、「政治意識を取り入れてけしからん」という意見が寄せられました。 新党さきがけはある意味ではあまり支持されない「環境」を前面に掲げて本気でやるよと言ってくれた。その思想と勇気に共感を感じたから、応援しますよという表紙を作った。もう一つは、環境を意識すると、たったこれだけしか票が取れないという、今の日本の消費者、有権者への揶揄も含めています。 幸田 良い反応もあったのですか。 高遠 もちろん、「やはりカタログハウスだ」という支持をずいぶんいただきました。 | |
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小売りの果たせる役割 | ||
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幸田 この4年間で環境色を強めていかれましたが、お客様の方にも環境を意識する人が多くなっているのですか。 高遠 通信販売というのは相互コミュニケーションのビジネスですよね。お客さんの顔が見えていますから、こちらからいろいろな情報や商品を投げかける、それに対してお客さんから買う・買わないのレスポンスもあり、またはそういうモノはよくないといった手紙もいただきます。お互いに切磋琢磨してカタログをつくっている。ある部分、お客様がそういう状況にわれわれをしたということもある。 幸田 御社の斎藤駿社長の書かれた『小売の説得術』によると、最初に環境をアピールして商品を販売したときは反応が悪く、注文があまりこなかったとあります。それでも、あきらめないで続けた裏には大きな経営決断があったのですか。 高遠 「環境」だけでは商品は売れません。最初のうちは環境を前面に出せばいいと思って失敗しました。それから、商品として、道具として性能が高い、イコール環境にいいという商品を売り始めた。買うときに2倍高くても4倍長く使えれば、その方がいい。そういう意識を持った消費者がだんだん増えてきたということなんです。 幸田 環境問題を解決に向けて前進させようとするときに、どうしてもネックになるのが私たちの消費活動ではないかと思います。日々のゴミひとつとっても、私たち消費者ばかりでなく小売りやメーカーが動かないと改善されません。これまでメーカーの役割の方に目が向いていたところがあったと思うのですが、小売りの果たせる役割について、今回教えられたような思いがします。ポリカーボネイト製の食器類は扱わない、塩素漂白や塩ビの使用禁止など、疑わしいものは扱わないという判断を、小売り業界がみなやっていけば相当のパワーとなります。 高遠 小売りを消費者とメーカーのただの媒介者と考えれば、われわれのような存在は必要ない。われわれは、消費者の代表者だと思っているんです。われわれが消費者になり代わって、商品をセグメントするということです。今の時代というのは、非常にモノも情報も流れているけれども本当に消費者にとって大事な情報はないんです。情報公開がない時代ですから。 そうすると消費者はたんにうわべの言葉だけで判断してモノを買わなくてはいけないということになる。 | |
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「小さな一流」だからできること | ||
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幸田 環境ホルモンには読者の皆さんの関心も高いのでは。 高遠 「お便りありがとう室」という部署がありまして、寄せられたお客様の声に対しては手書きで返事を書きます。今年の2月に『メス化する自然』という本が出たと同時に、「環境ホルモンの可能性があるから商品を返品したい。どういうスタンスで企業経営しているのですか」という内容の手紙が何通もきました。われわれのような消費者密着産業はお客様の感情が敏感に伝わってくるのです。 幸田 メッセージ性が強い雑誌ですから、価値観の共有は大事ですね。 高遠 現在、カタログは170万部を発行していまして、会員はおよそ150万人くらいです。従業員は300人です。意図的に規模を大きくしないという、これは負け惜しみでもなんでもなくて、「小さな一流」を目指しています。 企業を大きくしてしまうと、お客様との関係に手をぬいたり、システムで動かそうとする。環境ホルモンの問題も、少数派の意見を大切にするのは「小さな一流」だからできることだと思います。 幸田 『小売りの説得術』を読んでいますと、地球環境や資源の枯渇を意識した消費者という立場に立って、長くモノを使っていきましょうということになる。一方、商売の方はそれで成り立っていくのでしょうか。 高遠 高品質少量販売、大消費主義の否定というのは、右肩上がりの経済成長を信じてきた日本人にとっては受け入れがたいのかもしれませんが、ヨーロッパには、いいものを長く使うという合理主義の構造ができ上がっている。 それが消費者にとっても、地球環境にとっても、メーカーにとってもメリットになると考えている。薄利多売(大量生産大量廃棄)ではなく「高品質・厚利・少量販売」であれば企業も工場設備の拡大や大量の人員も必要ないので、ばく大な経費が節減できる。つまり、ロングユースが時代のキーワードになってきている。 幸田 通販で成功できたことを一般の小売りにどうやって適用できるとお考えですか。 高遠 こういう意識は消費者の間で連鎖すると思います。これまでの大量消費(使い捨て)の価値観が徐々に転換していく。エコロジーはできるところから始めればいいと思います。 幸田 確実に売り上げは伸びているわけですね。 高遠 前年度対比で20〜30%は伸びています。 幸田 それは環境をアピールしているからなんですか。 高遠 「環境」と「消費者メリット」を一緒にしなくては売れない。「環境」を「長持ち、高品質」に置き換えている。うちの商品は20年経っても修理しますよと言っていますから、2〜3割高くても買っていただけます。 幸田 強い企業理念をかかげる一方で、モラルだけでは商品が売れないという矛盾が生じませんか。 高遠 そこが難しいところ。バランスですけれど、この商品は絶対にわれわれの理念として伝えたい、赤字でも売りたいというものもある。例えば、今度の春号でダイオキシンを吸着するゴミ袋を売ります。水酸化アルミニウムが入っていて、ダイオキシンが完全にはなくなりませんが、抑制するのです。住友化学、ニチメン、日本グリーンパックが開発したのですが、半年にわたってわれわれは大学の先生などにお聞きして効果などを調べました。 最終的には効果があるということで売り出すのですが、市場に出ているゴミ袋の値段の2倍です。消費者の中には2倍高ければ絶対買わない、ダイオキシンなんて関係ないという人もたくさんいる。売るためには同じ価格にしなければならない。そこでわれわれはまったく利益をとらないで売る。 なぜなら、今これを売ることが、われわれにとっての理念にかなうものだからです。当面利益にならなくても、カタログハウスを信頼するという目に見えない利益につながってくる。「未来利益」になるのです。 幸田 がんばってください。ありがとうございました。 (98年12月2日東京都内カタログハウス本社にてインタビュー)
カタログハウス「九戒」(『地球の取扱説明書(第3版)』より) 1.次の商品は販売いたしません。(注:プラスチック製品、ノンフロン製品、洗剤など素材別のルールを設定し、必要に応じて見直しがされる) 2.メンテナンス通信をお届けしております。 3.メーカー無料保証後の修理をお引き受けしています。 4.プラスチック商品の回収・再生にとり組んでいます。 5.冷蔵庫・除湿機のフロン回収にとり組んでいます。 6.お客様からの返品は極力再生しています。 7.石油系の梱包材料は使わないようにしています。 8.カタログ用紙には古紙100%再生紙を使っています。 9.低価格、低品質の商品は売らないようにしています。 |
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