第42回/堀米 孝(ほりごめたかし)さん(日本クリーンエネルギー総合研究所理事長) | ||
<プロフィール> |
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1931年群馬県生まれ。1953年群馬大学工学部卒業後、通産省工業技術院電子技術総合研究所入所後、エネルギーシステム研究室長、エネルギー部長などを歴任。74年から正式に始まった「サンシャイン計画」の立案・推進に携わる。95年日本クリーンエネルギー総合研究所を、96年にバイオスフィア科学研究所を設立、現在に至る。著書に『明日のエネルギーを求めて』(77年、学陽書房)、『世紀末のエネルギー問題』(91年、日本総分出版)など。 | ||
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自然エネルギー利用の普及のためエネルギー対策の変更を 日本のエネルギー潜在力を示したサンシャイン計画 | ||
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幸田 そもそもサンシャイン計画はどのように始まったのか、どのような形で関わってこられたのか、その背景をお話しいただけますか。 堀米 サンシャイン計画は正式には1974年7月に通産省のエネルギー関連の長期的、先見的な国家プロジェクトとしてスタートしました。60年代に日本も含め世界で石油の需要が急激に増え、石油火力発電所も増えました。石油はコスト的には安かったのですが、燃やすと硫黄酸化物、窒素酸化物などがいっぱい出ますので、大気汚染が非常に深刻化し、地域的な公害問題が顕在化してきました。 その当時私は通産省管轄の電子技術総合研究所におりましたが、石油に代わる公害のないクリーンな、新しい、しかも国産のエネルギーの開発が将来必ず重要になると考えたのです。エネルギー資源を多様化すれば、エネルギーの安定供給という面からも、エネルギー供給安全保障の点からも好ましいということでサンシャイン計画が始まった。開発対象として太陽、地熱、水素エネルギー、石炭の液化ガス化が挙げられました。さらに将来新しいエネルギーのシーズ(種)になるようなものとして、風力発電と海洋エネルギー、宇宙発電などが加えられました。 幸田 化石燃料でみると日本は資源小国ですが、太陽エネルギー、風力、波力、地熱と、かなり資源豊かな国ということができますよね。日本で自前のエネルギーとして可能性の高いのは何でしょうか。 堀米 自然エネルギーまたは再生可能エネルギーなど、呼び方はいろいろありますが、資源量は太陽が桁違いに多い。日本の陸地に降り注いでいる太陽エネルギー量は今の日本が使っている総エネルギー、石油換算で約6億klの100倍以上は十分ある。1%使っても今のエネルギー使用量は賄えるということに、計算上はなる。 もう一つ、日本は火山国ですので、地熱エネルギーがかなりある。日本国内の地熱を利用して7,000万kWくらいの発電は十分できるでしょう。 幸田 それは原子力発電所何基分くらいなのでしょうか。 堀米 原発70個分ぐらいの潜在発電力があるのです。日本で今運転している地熱発電は50万kWくらいです。このように潜在的な資源量でいくと太陽や地熱は極めて大きい。 幸田 今お話しを伺いますと、日本は潜在的に資源豊かな国ですよね。しかし、国民も資源が少ない国というイメージと不安を持ち、政策的にもそれが続いてきている。25年間サンシャイン計画に取り組まれてきて、日本は本当は資源が多い国なのだと証明できたと確信されていますか。 堀米 資源的に豊富な国であるということは、自信を持って言える。今までメインに使っていたエネルギー資源はほとんど輸入ですから、21世紀に国産の自然エネルギーを使うべきだと思うのですが、その時に資源量が制約になるかというと全然なりません。使いたい量だけ使える。しかも、太陽や風力、地熱などの、自然エネルギー、再生可能エネルギーは、いくら使っても環境へのインパクト、環境のバランスを乱すことがまったくない。というのは、太陽エネルギーは太古の昔から地球に降り注ぎ、その一部をバイパスして使いますが、保存の法則で、温度のレベルや形が変わるということはあっても、最後はすべて低温の熱エネルギーになり、宇宙へ赤外線の形で戻るので、地球の熱バランスは変わらない。化石燃料やウランはもともと地球の中に埋蔵されていたものを人間が取り出して、燃やしたり核分裂させるので、使ったエネルギーや電気が全部最終的には低温の熱エネルギーバランスとして宇宙へ出ます。そういう意味で、地球から宇宙に戻るエネルギー量が増え、地球の熱バランスが崩れる。 | |
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化石燃料や原発に偏るエネルギー政策を変えるには | ||
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幸田 日本の国益のためには、外国に依存しない、自前の自然エネルギーの開発に投資するのが賢明だと思うのです。ニューサンシャイン計画はそれ以前の計画に比べて予算が落ちていますよね。どうしてなのでしょうか。 堀米 根本的な問題というのは、日本のエネルギー政策をどうするかという問題に帰着するのではないかと思います。結局今の日本のエネルギー政策は化石燃料と核エネルギー、原発に頼っている。 幸田 以前、『ソフト・エネルギー・パス』の著者、エイモリー・ロビンスさんにインタビューした際、21世紀のそう遠くない時期に火力発電所は過去のものになっているだろうとおっしゃっていました。大型の、集中型の発電所は生き延びていくのでしょうか。 堀米 需要地から遠く離れた大型の集中型発電所は次第に減少するのではないでしょうか。ただし、石油火力発電所に相当するものとして天然ガスを使った発電所は2050年くらいまであるのではないかと思います。天然ガスの資源量は60年分くらいしかない。やはり今ある技術で一番長く使えるのは、プルトニウムの高速増殖炉です。ウラン235の資源量は80〜100年。プルトニウムに変えて使うとウラン238が使えるので資源量はほぼ100倍になる。ウラン235が100年もつとすると、1万年使えるという計算になる。しかし、安全性、放射性廃棄物の問題などマイナスの遺産があるので、簡単にはいきません。 幸田 プルトニウムになっても廃棄物の問題は残るのですか。 堀米 プルトニウムを利用する高速増殖炉になっても放射性廃棄物の問題は残ります。ですから安心して21世紀に使いたいだけ使えるエネルギーは自然エネルギーしかない。 幸田 なぜ、自然エネルギーにもっと力を入れないのでしょうか。 堀米 政策的に化石燃料、核エネルギーは今ぐらいの量に抑えるべきでしょう。原発は現在総発電量の約35%を供給、2010年までに40〜46%に増やそうとしているのですが、それを極力抑えて、不足分に太陽や自然エネルギーを導入する。そのように政策を変更すればそれほど難しいことではないと思います。 幸田 風力やソーラーはまだまだ代わりうるものにはならない、信頼できるような段階ではないということがよく言われますが、本当にそうなのでしょうか。 堀米 たしかに電力会社の立場に立てば、頼りにならない電源です。火力発電でも原発でも「今すぐに10万kW必要」と言えば、すぐに発電できます。一方、太陽や風力はお天気次第で、出せることも出せないこともある。太陽や風力だけでは使いにくいので、僕が今期待しているのは燃料電池です。 幸田 東京ガスが早ければ5年以内に、燃料電池を使った家庭用のコージェネレーション装置をつくろうとしていますね。 堀米 多分それはできると思います。当分は、燃料電池の燃料に天然ガスを使う方が安いと思うのですが、将来的には家庭から出るゴミでつくったメタノールやエタノールを使用する。この技術開発はかなり進んでいる。家庭から出るゴミは平均して1家庭年間1tくらいありますから、これをメタノールに変えて使うと燃料電池と太陽電池で家庭の電気を十分賄える。事業所やビルにも使えます。そうすると、頼りにならない、使い勝手が悪い電源といったことを解消できる。 幸田 2020年頃にはクリーンエネルギー、再生可能エネルギーによって、日本の発電量の半分くらいを賄うことができるとおっしゃっていますが、そのためにはどういう条件が整う必要があるでしょうか。 堀米 政策の見直しと変更です。エネルギー政策の中でもっと自然エネルギーのウエイトを高め、その研究開発・普及の予算を増やすことが重要です。とくに風力や太陽発電は技術的には使えるところまで来ています。ただし原発や火力発電に比べたら、発電コストが高い。自然エネルギー普及のための補助予算が160億円ぐらいでは足りません。これを10倍くらいに増やすことが必要です。それくらいに増やせば、例えば太陽電池メーカーやインバーター関連機器メーカーが生産ラインを増強する。それによって発電コストをkW時あたり25〜26円に下げるのはそんなに難しくない。 例えば、電源開発促進税という特別会計で、電気料金に上乗せした形で皆さんから税金を取っている。kW時あたり44.5銭くらいです。現在、その税収は4,000億円くらいで、その大部分が原子力関係に使われている。それをもう少し、自然エネルギーに回せば、1,500億円や2,000億円は難しくない。普及のための予算を増やして、官民一体となって自然エネルギーの開発・普及に努めれば、2020〜25年頃には再生可能エネルギー発電で総発電量の50%程度が賄える。 電力の自由化が進みますと、火力発電所や原子力発電所は経済的な面から見てもつくりにくくなる。電気事業の原点は使うところで発電するということだった。結局そこに回帰するような形になりますね。自然エネルギーによるオンサイト分散発電が重要になってくる。 幸田 早くそうなって欲しいですね。 (1999年11月8日東京都内にてインタビュー)
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