第47回 Nigel Sizer(ナイジェル・サイザーさん)さん(世界資源研究所(WRI)森林政策部長) | ||
<プロフィール> | ||
ナイジェル・サイザーさん(Nigel
Sizer, Director of Forest Policy World Resources Institute) WRIの森林に関する研究調査は、アフリカ・コンゴ、インドネシア、ビルマ、カナダ、ロシアなど世界のあらゆる地域を対象としているが、サイザーさんの専門はアマゾン地域の森林政策である。1991年にWRIに入る直前の約3年間、ブラジル国立アマゾン研究所(ブラジル・マナウス)の熱帯林部と協力して、ブラジルのアマゾン地域でフィールド調査を行った。現在は「フロンティア・フォレスト・イニシアティブ」のリーダーとして、WRIの森林プロジェクトを進めている。Amazon Allianceなど森林問題に取り組むさまざまな機関の理事も務めている。 |
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私たちの生活と森林のつながりをしっかり認識しよう 見直すべき日本の森林・林業政策 |
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幸田 日本は木材製品の最も大きな消費国の一つですが、サイザーさんは、日本の行政、企業、NGOは森林保全の責任を応分に果たしているとお考えですか? サイザー どこの国も十分に果たしているとは言えないでしょう。日本もアメリカもヨーロッパもです。それは、世界の森林の状態を見れば明らかです。森林の減少は急速に進んでいて、すでにもともと森林だった面積の5分の4が失われたか、深刻なダメージを受けています。現在良好な状態で残っている森林の半分が今後10〜15年で失われるとWRIは分析しています。したがって、私たちは地球コミュニティとして十分な努力をしているとは言えません。日本について言えば、大量の熱帯林木材を輸入していた大企業に対して、環境団体やキャンペーングループなどから批判を受けてきた長い歴史があります。 現在、価格その他の理由で、シベリアの木材への転換が進み、日本はロシアの木材の最大の輸入国の一つとなっています。熱帯木材の輸入の比重は低くなってきていますが、大きな木材輸入国であることに変わりありません。 幸田 日本の政府に具体的に期待したいことはなんですか。 サイザー 重要なことの一つは、日本の対外援助政策のあり方を検証することだと思います。例えば、輸出入銀行の活動のあり方や外国に投資したり、木材製品を輸入している日本企業への輸出信用保険などを通じた政府援助のあり方などです。こうした組織が準ずる政策を大幅に見直し、公的資金が環境面に配慮した投資や貿易に使われるようにすれば、日本はもっとリーダーシップを発揮できるでしょう。ヨーロッパやアメリカでは、ここ2〜3年の間に、こうした政策の見直しが行われています。 幸田 日本には木材資源がたくさんありますが、WTO(世界貿易機関)などの自由貿易協定などもあって、外国の木材の方が安いのが現状です。国内の林業は経済的に大変厳しい状況にあります。林業就業者の高齢化も進み、後継者も減っている。私たちは自国の木材があるのに海外から木材を買っているのです。 サイザー 日本の状況はかなり特殊です。日本は、木材需要の70〜80%を、自国の、歴史的に見ればよく管理されている植林木材から賄うことができるのですが、人件費、アクセスの費用、地形などにより費用が高いため、現実には、シベリアやインドネシア、パプアニューギニア、中央アフリカなど、遠路から輸入された木材が世界中から集まってきています。これらは多くの場合、環境面だけではなく、人権侵害、腐敗など無責任な方法で伐採されたものです。 幸田 どのようにすれば、日本の林業を活性化できると思いますか。 サイザー まったく新しい視点で政策や使命を考える必要があるでしょう。例えば、国内の木材がインドネシア産の木材と同じ価格になるよう、資金を投入することは無理でしょう。お金がかかりすぎて無意味です。私が提案したいのは、日本政府はインドネシアやロシア、その他日本の木材供給国がよりよい森林管理ができるよう促し、支援することです。それらの国々で投資をする方がより効果的だと思います。それから、日本の森林が何のためにあるのかを考え直すべきでしょう。もはや、国内の森は木材資源の主要な供給源とはなりえないことを受け入れるべきです。30年前は、国内の森林は日本の木材供給の9割以上を賄っていましたが、現在は20%程度です。これは逆転しないでしょう。日本の森林が現に果たしている、例えば水源涵養、土壌や生物多様性の保全、レクリエーションの場などの機能を重視すべきでしょう。 |
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NGO主導の情報提供 | ||
幸田 日本の国有林の管理方針は2年前に転換され、木材生産のための森が2割に削減され、国土保全などのための森が8割に拡大されました。ところで、アメリカ政府の森林政策はどうなのでしょうか。森林保全に力を入れているのですか。 サイザー アメリカ政府は森林政策において強い批判を受け続けています。ただ、ここ数年の間でクリントン大統領は森林局などについて重要な政策変更を行いました。これを私たちは前向きに評価しています。昨年は新たに、少なくとも4,000万エーカー(約1,600ha)の国有の森林や他の土地を保全する方針を打ち出しました。また、森林局はその使命を、木材生産の管理から、生態系の管理にシフトしました。事実、アメリカでの国有林での伐採量は大幅に減少しました。 アメリカはむしろ、国際政策において批判されるべきでしょう。アメリカはより強力に他の国々がよりよい森林管理を行えるよう支援する必要があります。クリントン大統領は最近、熱帯林の管理のための予算に8,000万ドルを追加すると発表しました。これは大きいようですが、支出額から見れば大した額ではありません。 幸田 WRIは、2月に「グローバル・フォレスト・ウオッチ」を開始しましたね。また、「フォレスト・フロンティア・イニシアティブ」では、世界のもともとあった森林の5分の1しか、そのままの形で残っていないことを発表していますが、これは非常に深刻な事態ですね。 サイザー 私たちは森林に関して三つの活動をしています。その一つが、今、森林に何が起こっているのか、人びとがよりよい意思決定を行えるよう、情報提供を行うことです。グローバル・フォレスト・ウオッチは、NASAなどと協力して、衛星画像を集め、分析し、無料でインターネットによる情報提供を行う、NGO主導の初の野心的な試みです(www. globalforestwatch. org)。このプロジェクトではまた、衛星で拾えない地上のさまざまな情報を地元のたくさんの環境団体と協力して集めています。例えば不適切な地域における伐採計画、鉱山開発、アマゾンや北シベリアにおける道路計画の情報など。現在、世界の75のパートナー団体が参加していますが、1年後には150〜200に増えているでしょう。すでにこのウェブサイトはフランス語、スペイン語、インドネシア語で提供しています。日本語にもしたいと思っています。 |
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森林問題の多くは国内問題 | ||
幸田 森林の保全と持続可能な管理に関する国際条約の話し合いが長い間続いていますね。1992年の森林原則声明、アジェンダ21第11章の「森林減少対策」から始まり、IPF(森林に関する政府間パネル)、IFF(森林に関する政府間フォーラム)など10年に及ぶ議論ですが、また新たな議論の場
――UNFF(国連森林フォーラム)が設けられました。なかなか具体的な取り決めを生み出せないのは、なぜだとお考えですか。 サイザー おっしゃるとおり、森林条約に関する議論については長いリストができるほどです。地球サミット以来、10年近く議論が続いています。現場に価値のある変化をもたらすような、重要な成果をなんら上げていません。今回発足したUNFFにしても、これが役に立つかどうかは明らかではありません。さらなる“議論”が続く可能性もあります。 森林条約の議論がこれほど手間取るわけは、森林の問題の複雑さに由来しています。さまざまな人が森林に対してさまざまな利害を持っています。伐採会社、鉱山会社、環境保護論者、先住民などがそれぞれ森林に対して違う優先順位を持っているのです。政府がどのような変更を行うにしても、利害関係者のうちの誰かを怒らせることになります。カナダ、インドネシア、マレーシア、ロシア、ブラジル、いくつかの中央アフリカ諸国など、世界に残存する原生林の9割以上を有する国々では、伐採産業の規模が大きく、また関連する商業活動も多いため、林業政策の転換はとりわけ困難です。これらの国は現状維持、時間稼ぎのために、国際交渉を弱めようとしています。 WRIは、最近こうした議論にはあまり参加していません。むしろ消費者や環境グループ、企業や政府に対して直接情報を提供したり、独自に情報分析を行っています。われわれは有効な国際的枠組みができるとは楽観していません。また必要とも考えていません。というのは良質な森林の保護や管理に必要なことの多くは、すでに国や、地方のレベルでできるからです。例えばブラジルの政府は、自国の森林を適切に管理するのに、国際森林会議のようなものを必要としません。インドネシア政府も、違法な伐採を取り締まるためにそれを必要としません。森林にまつわる問題の多くは国内問題です。これが、より国際的な協力を多く必要とするオゾン層や気候変動などの他の地球環境問題と違うところです。 幸田 最後に、私たちは森林を保全するために、何ができるでしょうか。どんなライフスタイルを心がければよいでしょうか。 サイザー まず、私たちの生活と森林が、いかにつながりを持っているかをしっかりと認識することでしょう。紙、木、包装紙など、森林から来ているものを使っていることを意識するべきでしょう。そして、「このテーブルを買うために、この家を建てるために、私は原生林を破壊してはいないだろうか。この木材を供給するために、先住民が殺されてはいないだろうか」という問いを発することでしょう。日本の何万もの人びとがこれらの問いを発し始めれば、さまざまな変化につながるでしょう。(2000年3月31日東京都内にてインタビュー) |
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