第54回川口順子さん(環境大臣)
<プロフィール>
川口 順子さん
(かわぐち よりこ)
東京都出身。1965年東京大学教養学部教養学科卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。国際復興開発銀行ワシントン本店経済開発局、通商産業省産業政策局国際企業課長、同省通商政策局経済協力部長などを経て、同省地球環境問題担当審議官に。エール大学経済学部大学院修士号を取得し(72年)、また在米日本大使館公使などを務めた国際派。93年に同省を退官後、サントリーの初の女性役員として一貫して生活環境部を担当した。2000年7月第二次森内閣で環境庁長官に就任、2001年 1月の環境省発足で環境大臣に。
「地球と共生する環の国・日本」をつくるために、環境省はプレイングマネージャーを
新しい環境行政に挑む
幸田 環境庁から環境省に変わってどのような違いが出てくるのでしょうか。日本の環境行政にとってのインパクトということから、お話いただけますか。
川口 21世紀を見通して環境をどういうふうに考えるか、日本として環境に何をしていくかということを環境省として言う必要があると思います。これから大事なのは21世紀を通して日本を循環型社会にしていくということです。「地球と共生する『環の国』日本」をつくっていくということを大目標として掲げてやっていきます。
 省庁再編成で廃棄物行政が厚生省から環境省に来ました。同時にリサイクルは他の所管省庁との共管になりました。今までは保健衛生という観点からゴミをどう処理するかということでやっていましたが、環境省の所管となり、ゴミの後処理をどうするかということと同時に、ゴミが出ないように、ゴミになる前のところから一貫してやっていくこととなります。資源の大量消費、大量生産、大量廃棄といったことをできるだけ抑えて、できるだけ資源を浪費しない、あるいは一度使えるものを二度使えるのだったら何度も使う、リサイクルをして別のものにして利用する。また、別のものの需要を喚起して使っていく。どうしても燃やさなければいけないもの、廃棄しなければいけないものは、環境に問題がないような形で廃棄をする。そのように循環型の環を創設することを環境省が担っていくのです。
 もう一つ、そういう行政をやっていくときの発想・手法として私は、パートナーシップ(協働)というのが非常に重要だと思っておりまして、それを開かれた形でやっていくこととしています。できるだけ環境省が考えていることを透明性をもってわかりやすくみなさんにお伝えするとともに、国民あるいは地方公共団体、NGO、企業の人たちがそれぞれの立場で考えておられることをできるだけ汲み上げていくことが大事だと思います。そのために二つのことを始めました。一つはホームページを新しくして、環境省=Ministry of Environmentの頭文字をとってMOEメールというEメールで国民の方々から意見を聞くシステムをつくりました。
 それからタウン・ミーティングを始めました。1月は東京で、2月は仙台で、後は月1回くらい、毎月違うところでやっていきたいと思っています。できるだけ環境省として何を考えているかということをお話して、国民の方々からいろいろご意見をいただいてディスカッションをしていきたいと考えています。
幸田 タウン・ミーティングは、とてもいいことが始まったと思いました。大臣のお考えだったのですか。これまでに国民から寄せられた声の中で一番印象に残っていることは何ですか。
川口 環境省が発足するにあたって、他の省に遠慮しないでどんどんリーダーシップを発揮してほしいという声、「これからわれわれとしても期待し見守っていきたい」と、大変励まされました。
幸田 なぜタウン・ミーティングを始めたいとお思いになったのですか
川口 私は民間企業にいましたが、企業にとってはお客さまの声を聞くというのは一番大事なことです。これをはずしたら企業は企業でなくなる。役所にとっての顧客というのは国民です。市民であったり企業であったりNGOであったり、それぞれ立場があるわけですが、そういう人たちが役所に何を求めているかを直接聞くことが大事です。さらに大事なのは、そのいただいた声をリアルタイムで組織内の上から下までオープンに共有することができるというシステムです。
COP6以降の温暖化交渉に向けて

幸田 昨年11月にハーグで開かれた気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)では、日本の政府の対応に対して厳しい批判がNGOなどからありましたね。実際に交渉に関わっておられた立場として、日本政府の姿勢や行動をどのように評価していらっしゃいますか。
川口 私は成果をあげたと思っております。一例を挙げると、京都議定書の運用部分の合意にあたっては、途上国がどういう態度をとるかということが大事ですが、ハーグ以前から日本がイニシアティブをとって途上国向けの支援プログラムをつくりました。全体をまとめるための努力をしたということも評価を受けたと思います。さらにその背景として、日本は実際に今まで温室効果ガスを減らすための実績を積み重ねてきている国だということについての認識が各国にあり、今後も日本はちゃんとするだろうという信頼感があります。この信頼感を維持していくことが重要で、そのためには京都議定書の実施のための国内法の制定も含めて国内的にできること、ライフスタイルを変えていくとか、できることをみんながやっていくということが大事だと思います。
幸田 次の会議でも、どんどんリーダーシップを発揮していかれることを期待しています。やはり、環境問題の中で最も重要なものの一つは地球温暖化防止対策だと思います。国際的な対策と並んで国内対策の強化が必要だと思うのですが、京都議定書の内容を実行するため2002年に向けて温暖化防止の国内法が検討されているのでしょうか。今どういう状況なのですか。
川口 2002年に京都議定書の発効が可能になるように、運用のルールをつくる場がハーグの会議だったんですけれど、その時点では合意ができず、引き続きいろいろなことがあって、この初夏に再度会合がある予定です。そこで決まった運用のルールを日本が実際に行っていくための国内のルールとして、2002年を目指して国内法を提出したいと思っています。ですから国内法の成立と議定書の発効というのは両方セットになっているのです。
幸田 温暖化対策として、なんらかの経済的な手法を導入せざるを得ないという考え方は専門家からも強く指摘されています。その一つが環境税だと思いますが、ヨーロッパではいろいろな国が導入していますね。経済と環境を調和させていくために日本でも必要になるとお考えですか。
川口 経済的手法というのは市場にひずみをもたらさない、市場メカニズムを極力利用する形になるという意味で、私は経済的手法にはメリットがあると思っています。いろいろな方法がある中で、温暖化対策のために一つの手法だけで目的が達成されるとは私は思っていません。これからやらなければいけない議論というのは、どの手法をどのように組み合わせたらいいかということだと思います。
 環境税とおっしゃいましたが、税金というのは消費税導入のときでもおわかりのように、国民に負担を与えます。国民のみなさんにはいろいろなお考えがあって、環境にいいことだから環境税をぜひ、と皆さんにおっしゃっていただけるかというと、それほど簡単ではありません。環境税は、イギリスやフランスは今年、北欧、ドイツ、イタリアではすでに導入されています。問題となる国際競争力への影響について、ヨーロッパの経験や具体的なやり方を勉強しながら、日本で環境税を導入するとしたら具体的にどのようなものがいいかを考える段階になっているのではないでしょうか。幅広くみなさんの意見を聞きながら検討していくことが必要だと思います。
一人ひとりの行動に結びつく情報提供や仕組みづくりを
幸田 21世紀の環境政策の憲法ともいわれている新環境基本計画が12月に発表されました。これから21世紀初頭に向けての環境政策の具体的な方向、枠組みが示されました。ただ省庁、企業、国民の間で認識や、とるべき対策に対する考え方にまだ開きがあるのが現実です。新環境基本計画では、実効性を高めるということが大きなポイントになっていますが、どのようにして高めていかれるのですか?
川口 私は環境省の仕事は「プレイングマネージャー」だと思っています。自らプレイするところ、例えば廃棄物行政や自然保護行政では積極的にやっていく。それからマネージするところというのは、一番大事なのは政府全体として、それぞれの省が自分の仕事の中で環境配慮を十分にやっていただくような仕組みを考えていくことであろうと思っています。今、具体的なことは検討してもらっていますけれど、できるだけ各省庁に対してものを言っていくということが一番大事です。遠慮しないで言っていくつもりです。
幸田 テレビや新聞で、今年のお正月ほど「環境」という言葉を見たり聞いたりしたことはなかったのではないかと思いました。ようやく環境はメインテーマになってきたんだなと、期待もこめて思ったのですが、これを単なる一過性の、新世紀を迎えた一時の心のひきしめに終わらせるのではなく、実行に結びつけていくには、相当力を入れる必要がありますね。初代の環境大臣として今、一番国民に伝えたいことは何でしょう。
川口 私はいつも言っているのですが、行動することだと思います。環境というのは、考えてこれが必要だと思うだけでは全然よくならないですよね。よく21世紀にかけてライフスタイルを変えていくということがいわれますが、それが必要なんですよね。それは一人ひとりの行動にかかっているわけです。そのために必要な情報提供や社会の仕組みの枠組みなどは環境省がつくっていくということです。行動をしていくのは、私を含めて日本人一人ひとり、あるいは外国を含めて地球にいる人一人ひとり。行動が一番大事だと思っております。
幸田 タウン・ミーティングなどを通して行動に結びつく情報を広めていくこともできますね。とてもいい手法になるのではないかと期待しています。ありがとうございました。

インタビューを終えて
 21世紀の幕開けとともに誕生した環境省。その大きな使命は、私たちの社会を持続可能なシステムに切り替え、健全な地球環境を取り戻すことではないでしょうか。この大きな変革を実現していくには、正しい舵取りと強力なリーダーシップが必要です。
 初代の環境大臣となった川口さんは、新しい省の指針を「戦い続け、進化する」ことだと、気合のこもった言葉で表明し、自らイニシアティブをとって推進しています。就任早々、タウン・ミーティングをはじめ、市民との直接対話を通じて「行動」を呼びかけているのはその一例です。
 環境省のリーダーシップは、新しい社会づくりの必要性を自覚した市民の支えがあって、初めて強力に発揮できるもの。私たち一人ひとりも「進化」しなければ・・・・・・。川口さんのお話をうかがって、私にもファイトがわいてきました。
(幸田 シャーミン)




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