第55回エイモリーロビンスさん(ロッキーマウンテン研究所CEO)
<プロフィール>
1947年米国ワシントンD.C.生まれ。ハーバード大学とオックスフォード大学に学ぶ。さまざまな大学で教鞭をとるかたわら、エネルギー・資源問題に関する執筆活動を展開。79年以来チームを組んできたハンター夫人とともに82年に、非営利団体「ロッキーマウンテン研究所」(RMI)をコロラド州に設立。世界中の多くの企業や政府の相談役を務める。著作は共著を含めて27、研究論文は数百に上る。『ソフト・エネルギー・パス〜永続的な平和への道』(時事通信社、79年)や『ブリトルパワー〜現代社会の脆弱性とエネルギー』(同社、87年)などが邦訳されており、99年に『Natural Capitalism』を出版。また、米国『ウォールストリートジャーナル』紙で「1990年代のビジネスを左右する世界の39人」に選ばれるなど、高い評価を受けている
自然資本主義の四つの原則――そこにビジネスチャンスが資本に自然を含める
幸田 新しいご著書『ナチュラル・キャピタリズム』(自然資本主義)には、ロビンスさんがこれまで取り組んでこられた20年間の研究の成果がつまっていますね。持続可能な経済やライフスタイルに移行することが必要だという認識は広がってきていますが、いざ実行となると、痛みを伴うのではないか、具体的な方法がよくわからない、などということがあるのではないでしょうか。
ロビンス そういう意味でも、この本はとても実用的で、たくさんの企業の実例を通し、「自然資本主義」の四つの原則を早い時期に取り入れた企業が、短期の収益だけでなく、競争力においてもすばらしい成果を挙げていることを示しました。
幸田 「自然」資本主義と名付けたのは、これが私たちを持続可能な発展に導くカギになるというお考えからですか。
ロビンス ええ、そうです。まず、資本主義というのは、資本の生産的な利用と再投資のことをいいます。で、「資本」とは何かというと、産業資本主義の下では、それは物質と金融の二つであると考えてきた。自然や人は含まれない。
幸田 モノとお金だけですね。
ロビンス モノや金だけ、その通りです。しかし、それは自然や人間という、より大事なものを除外しており、これらなしには経済活動は成り立ちません。そこで、この四つの資本をより生産的に利用し、再投資していくには、より広い資本主義の概念が必要になりますが、その意義はきわめて大きいのです。 第一次産業革命は、人間の生産性を100倍高めました。当時は相対的に人が不足していたため、それが制限となって、発展や自然の開発に歯止めがかかったのです。しかし、今日われわれは逆のパターンの不足に直面しています。現在、人は豊富だが自然が不足しているのです。不足のパターンが逆転した今、自然を100倍生産的に使う必要があるのです。
幸田 自然資本主義には四つの原則があるとおっしゃいましたが、第1は何ですか。
ロビンス 徹底的に資源の生産性を向上させることです。
幸田 資源とは自然資源のことですか。
ロビンス エネルギー、水、表土など、地球から借りるものは、すべて今より10〜100倍に利用の効率を上げる必要があります。この本はどのようにすれば、より低いコストでよりよい効果を実現できるかを説明しています。効率を上げるための投資は、収益の減少ではなく、拡張をもたらすことができるのです。 第2の原則は、生産の方法を生態系にのっとったモデルに変えることです。無駄のない、有害物質を出さない、循環型の方法です。
幸田 ゼロエミッションのようにですか。
ロビンス これまで排出物や廃棄物と呼んでいたものを、われわれは「売れない製造品」と呼んでいます。それはだれも欲しがらないのだから、無駄である、作るのをやめようということです。 第3の原則は新しいビジネスモデルに関するものです。製品
を作って売るというのではなく、製品の価値やサービスを継続的に提供するというものです。提供者と客がともに利益を得られる方法で、より良く、あるいはより多くを、より安く、または長く提供することです。
幸田 具体例を紹介していただけますか。
ロビンス スイスのシンドラー社は、他社に比べ、電力消費もメンテナンスも少ないエレベーターを、建物の持ち主にリースした方がより良い商売になると考えたのです。建物のオーナーはエレベーターが欲しいのではなく、その昇り降りのサービスが欲しいわけです。より効率のいい、丈夫で信頼性の高いエレベーターであればあるほど、双方がより儲かる仕組みになっているのです。 もう一つの例は、ダウケミカル社です。油を取り除くための溶剤を販売する代わりに、油を除去するサービスを行っています。使用済みの溶剤はダウ社が引き取り、精製し、何回も繰り返して使用されます。また、支払いは、サービス料ではなく、油を取り除いたパーツの面積で支払われます。このシステムでは、溶剤を使わなくてもパーツに油が付かない方法をダウ社が考え出せれば、その分に対して報酬が得られることになるわけです。
インターフェイス社の取り組み
幸田 ユーザーはサービスによって得られた結果に対して料金を払うということですね。
ロビンス そうです。ではここで、インターフェイスという日本にも進出している、カーペットや壁紙などのインテリアメーカーの取り組みを通して、この三つの原則をまとめてみましょう。同社は米国アトランタに本社を置く、年間売上高15億ドル(約1,500億円)会社です。まず、無駄の削除に徹底的に取り組み、営業利益の27%を占めるようになったのです。 第2に、排出物をすべてなくすことに取り組んでいます。「エンド・オブ・パイプ」の処理ではなく、人びとが欲しがるものだけを作っているのです。次に、有害物質をまったく含まない新しい種類のカーペットを発明しました。ホースで洗え、カビもシミもつきません。1m2当たり35%も使用される原材料を節約できましたが、耐久性は4倍になった。こうしたことを合わせると材料の削減効果は4倍になります。加えて、品質を落とさずに、まったく同じものに再商品化することができますし、原料も再生可能なものが使われています。 そして第3の原則、新しいビジネスモデルを取り入れて、客はカーペットを購入するのではなく、床を覆うサービスをリースすることになるのです。インターフェイス社は毎月カーペットを点検し、すり減った部分を取り除き、再製品化へ回し、その部分に新しいカーペットタイルを置いていきます。カーペットの傷みの80〜90%は、全体の面積の10〜20%に集中するといわれるので、こうすることで、交換が必要となるカーペットの削減効果が5倍になります。
幸田 企業の方はそれで成功しているのですか。
ロビンス 非常にうまくいっています。実際、この三つを導入してからの最初の4年間で、売り上げは倍以上に増え、営業利益は3倍になり、従業員の数も2倍近くに増えました。そして今、インターフェイス社は自然資本主義の第4の原則を実行に移そうとしています。現在最も不足し、再投資が必要な資本は自然です。例えば、インターフェイス社がトウモロコシのかすからカーペットを製造しようとするときには、従来のような1m3のトウモロコシに対して1m3の表土を必要とする方法ではなく、有機農法を用いた、遺伝子組み替え技術を使わない、土壌や農村文化、そして地域社会の回復につながるようなやり方をするのです。 また、「バイオミミクリー」(編集部注:生物の擬態や模倣)という方法も取り入れられています。自然はさまざまな問題をどのように解決しているのか、ということを問い、その方法を考えるというものです。例えば、クモは鉄のように強く、防弾チョッキに使われるケブラーのように丈夫な糸を、バッタやハエを消化して作ります。人間がケブラーを作るときには、高温の硫酸などを使用しなければなりません。クモと同じくらい賢ければ、われわれは繊維を作るより良い方法を手に入れられるはずです。
幸田 自然を真似るということですね。謙虚に自然から学ぶ姿勢。
ロビンス その通りです。自然は38億年の経験と実験を重ね、仕組みづくりには大変長けています。
人びとが本来持つ賢さを取り戻すために
幸田 まだ、環境に良いものは値段が高いという偏見があるようですが。
ロビンス そのために何百の実例を『ナチュラル・キャピタリズム』で取り上げたのです。自然から学びながらスマートにものごとを行うことで、これまでより安いコストでより良い成果が得られるのです。自然から採取される資源は、年間5,000億tに上ります。その93%は採取・製造過程ですぐに廃棄物として失われてしまいます。残りの7%が製品になりますが、その7分の6は消費者が1度使うか、またはまったく使われることなく捨てられてしまうのです。採取された資源の約1%しか耐久性のある製品に用いられない。99%が無駄になっているのです。そこにビジネスチャンスがあるのです。自然資本主義の産業システムでは、地球から採る量をかなり減らします。なぜなら、資源をより生産的に使い、循環させることで資源を再利用し、より少ない材料でより長持ちする製品を作り、新しいビジネスモデルによってこうした変化が報われるからです。すべての無駄を削減し、さらに地球にかえってくる廃棄物は無害化されているので、地球の再生能力を害さない。無駄の削減で得られた金銭的な利益の一部を、自然の再生能力を増やすことや自然資本の再投資に使うのです。そのためには、古い考え方を捨てる必要があります。
幸田 愚かさから脱するには、どのようにしたらいいとお考えですか。
ロビンス そのためにこの本を書いたのです。間違った教育システムによって抑えられてきた、人びとが本来持っている賢さを取り戻すのに役立つように。
幸田 ありがとうございました。(2001年2月10日東京都内にてインタビュー)
インタビューを終えて
 発想の転換――。21世紀の「地球環境時代」を生きる私たちに最も必要なことを、ロビンスさんは説いて、自ら実践してきた、といえるでしょう。 例えば、自動車は長い間、鉄で作りガソリンで動かすものと考えられてきましたが、ロビンスさんが1991年から研究開発を手がけてきたハイパーカーは、その常識を覆し、軽くて丈夫なカーボンファイバーで車体を作り、燃料電池で動きます。社会に広く役立てようと基本コンセプトの特許は取れなくしているのだそうです。 建物のエネルギー効率を上げる設計や技術にも情熱を傾けています。ロッキー山脈にある彼の自宅は、太陽光や断熱窓などをうまく利用した結果、「電気代は平均して1ヵ月わずか5ドル」と言っていました。 ロビンスさんの恩師の一人に、ポラロイド社のインスタントカメラを発明したエドワード・ランドさんがいます。そのランドさんの名言を紹介してくれました。 「Invention is the cessation of stupidity」――直訳すれば「発明は愚かさの急停止」となるのでしょうか。じっくりとかみしめたい言葉だと思いました。
(幸田 シャーミン)




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